七十四話 上道院 至王という男
「そういえば、ルナ姉。昨日戦ってた時に上道院至王って黒スーツの男と話してたけど、知り合い?」
光葵は純粋な疑問を投げかける。
「知り合いよ。といっても昔のだけどね。みんなは上道院コーポレーションは知ってる?」
「エネルギー、製薬、製造とか色々やってるでっかい会社だよな」
光葵がすぐに返答する。
「そうそう。その会社の御曹司なのよ、至王ちゃんは」
「珍しい名前だから、関係者かなとは少し思ったけど、御曹司だったんだな……」
光葵は思わず、驚嘆を漏らす。
「私、過去に商品仲介人やってたことがあるの。結構やり手だったのよ? その時に商品の調達で困ってた至王ちゃんの手助けをしたことがある。そこで知り合いになったの」
ルナ姉は懐かしそうに話す。
「なるほど。それで話してたんだな。でも、情がない印象だった……。あと、機転が利いて敵にいると厄介そうな相手だ……」
光葵は素直に思ったことを口にする。
「昔はもう少し優しい雰囲気だったんだけど、変わっちゃったのね……。至王ちゃんは頭の回転がズバ抜けていいから、敵だと確かに厄介ね。罠や魔法強化などに使える《刻印魔法》《結界魔法》も強力よ。私と綾島ちゃんも至王ちゃんにかなりダメージを負わされたから……。二つとも固有魔法よ」
ルナ姉がやや低い声で話す。
「つまり、至王は少なくとも天使サイドを一人は倒してるってことか……。今後注意しないといけない奴だな……」
光葵は思う。厄介な敵が増えていく……。みんなを守らないと……。
「あ、そうだ。このアジトなんだけど、もし私が負けた時は、そのまま使ってくれていいわよ。金庫にある程度お金も入れてるから、うまく使ってちょうだい。鍵もみんなに渡しておくわ」
ルナ姉が鍵を準備し始める。
「ルナ姉! そんな縁起でもねぇこと言うなよ……」
頂川が悲しげにルナ姉を見る。
「もしもの時よ! 昨日みたいに何があるか分からないからね」
ルナ姉はふわりと微笑む。




