七話 命の奪り合い
翌日になっても、メフィから接触はなかった。
そして、放課後となる。
「今日も早めに帰るか……」
そう呟き、光葵は足早に教室を出た。
しばらく歩いていると、後ろから声が聞こえてきた。
「光葵~! 今日手芸部ないからさ、一緒に帰らない?」
朱音が鮮やかな赤髪をなびかせながら、尋ねてくる。頬が紅潮しており、どことなく艶めかしい印象でもある。
「おう……。あぁ、いや今は一緒にいない方がいいかもしれない……」
光葵は自分でも思う。随分と歯切れの悪い返答をしているな、と。
「え……? 何か用事?」
朱音は素直に言葉を発したようだ。
「う~ん、まあそんなとこだな。ごめんな」
光葵は手を合わせて、謝罪の意思を見せる。
「いやいや、大丈夫だよ。こっちこそごめんね。じゃあね……」
朱音はどこか寂しそうに別の路地へ入っていった。
「悪いな、朱音……。今は正直何が起こるかわからないから……」
そのまま帰路につこうとすると、守護センサーの反応と共に、耳に残る不快な声が聞こえてきた……。
「いやぁ、探したよぉ。特徴的なパーマだから、何とか見つけられてよかった……」
そこには白衣の男が立っていた。
「お前……! 狂人野郎……! 三日前はよくもやってくれたな……」
光葵は言葉では威勢のいいことを言っているが、内心かなり焦っていた。
あの時と同じように、命の奪り合いをしないといけないからだ。
今まで普通に生きてきた光葵からすると、途方もない覚悟がいる。
「狂人野郎とは失敬だね。私は倉知という名前だぁ。それにしても、いいねぇ……。その元気のよさは実にいい。さぞや、ガルムの良いエサになるだろうねぇ……。……さて、君との戦いはここで終えたい。さっき話してた少女がいたねぇ。少女もいい栄養になるんだぁ……」
倉知はこの世の悪意を煮詰めたような、醜く歪んだ微笑を浮かべる。
「お前! 朱音に手を出すな!」
光葵は青筋を立てて、すぐに声を荒げる。
「さて、既に無事かどうか……」
倉知は含みのある下卑た笑みをする。
「ふざけるな!」
光葵は言葉とほぼ同時に駆け出す。
「キャアアアア!」
朱音の叫び声が聞こえる。
「朱音!」
光葵は一気に加速し、朱音の前に躍り込む。
「光葵……。何あの狼みたいなの……」
涙を流しながら、朱音は震える声で尋ねる。
「俺のせいだ……。絶対守るから、俺の後ろにいてくれ……!」
光葵は精一杯、恐怖が伝わらないように、低い声を発する。
「いやぁ、勇ましいねぇ。まるでヒーローじゃぁないか。どうする? この状況で勝てるとでも……?」
倉知は余裕の混じる声色で高らかに言葉にする。
「狂人野郎が……! 俺は魔法を使えるんだ……。やってやる……。《身体強化魔法》……!」
光葵は身体強化魔法を目と身体中の筋肉に使用する。
身体中の筋肉が膨張し、ミチミチと音を立てる。
これでガルムの動きにも対応できるはずだ。
しかし、勝ち切れるのか……? いや、今はやるしかない……! 朱音を守るために……!