六十二話 予想外の出来事
「色々あって、俺は変わったからな……。その技、前に使ってた《魔石放射》か。今回は火属性魔法を放射したのか……」
光葵は分析した内容を話す。
「クハハ、しかも冷静か……。いいね、お前の魔法更に欲しくなったぜ」
伊欲はスリングを振り回しつつ、空いている片手には魔石を持つ。近中距離に対応できる構えだ。
「お前も相当強いな……」
光葵が次の攻撃の一手を考えている途中で目に映る人物がいた――朱音だ……。心配そうにこちらを見ている。
伊欲はその視線を見逃さなかった……!
振り返りざまにスリングから魔石が投擲される。
「待てっ!」
光葵は氷柱を伊欲の足元から二メートルほど創出する。
魔石は朱音の頭上を通過し、奥の木を爆破した。
「朱音! 今すぐ逃げろ!」
「光葵……前みたいに……」
心から心配して戻ってきたのだろう。だが今は逃げてくれ……!
「嬢ちゃん、ここは危ないぜ。まあ、俺にとっちゃ僥倖だがな」
伊欲の獲物を狙う瞳に力がこもる。
光葵はすぐに朱音の前に躍り込む。
闇魔法、プロテクトで周辺を覆い、防御壁とする。
そこへ容赦なく魔石が大量に投げ込まれる。地響きを立てて魔石の炸裂が何度も起こる……。
「ゼェゼェ……。朱音……俺が時間稼ぐから逃げろ……」
防御でマナが相当消費される。
「光葵、ごめん……。すごい音がして、つい戻ってきて……」
朱音は涙を浮かべている。
「朱音は何も悪くない。逆に巻き込んでごめんな。今日のことは忘れろ」
「お別れの言葉は済んだか?」
伊欲は軽い口調だが、決して油断はしていない目つきだ。
「朱音には手を出すな……! 俺が相手だ……!」
「クハハ、かっこいいなぁ。まるで正義の味方だ。来いよヒーロー」
伊欲は短く手招きする。
闇魔法を広範囲に展開し、氷魔法で中距離攻撃、防御を行う。
対して、伊欲はスリングで朱音を狙いつつ、光葵には魔石と《風魔法》の刃を放つ。幾度となく、爆音が響く……。
「天晴れだぜ、日下部。こんだけ攻撃仕掛けたのに、全部防御して嬢ちゃん逃がすとはよぉ」
「はは……。こっからが勝負所だろ……」
光葵はふらつきつつ答える。
「クハハハハ! いいねぇヒーロー……すぐにあの世に送ってやるよ……!」
視界がぼやける……。マナを一気に使い過ぎたか……。だが、まだ終わってない……!
再度、スリング、魔石、風魔法の〝三重攻撃〟が襲い掛かる。
光葵は自分の周りに限定した、闇魔法と氷魔法を使った防御を行う……。
マナが、体力が底をつきそうだ……。
「ここまでだなヒーロー。あばよ……!」
無慈悲に魔石が投げ込まれる。炸裂音が響く――。
「なっ! お前も参加者だったのか……⁉」
伊欲の驚いた声が聞こえる。
「それ以上、光葵を傷つけないで!」
そこには涙を流した朱音がいた――焔を纏いながら。




