六十話 思わぬ出会い
ここ三日間はビジネスホテルに泊まって気持ちの整理をつけていた。
「影慈、あの時、俺と同じ〝感情、心〟になってくれてありがとな」
光葵は影慈に静かに話しかける。
(……みっちゃん、僕は君と同じくらい若菜ちゃんを愛せてはいないと思う。それでも、一緒にいる間に若菜ちゃんのことがどんどん好きになっていた。君の気持ちが分かるとは軽々しくは言えない。それでも、同じ〝感情、心〟になるくらいには僕も好きだった……)
影慈の口調から、本気でそう思っていることが伝わってくる……。
「影慈……。ありがとう。お前がそう言ってくれるだけでも、救われるよ……。影慈がいなかったら、きっと俺は耐えられなかった……」
(……元はといえば僕に巻き込まれて代理戦争に参加したんだ……。むしろ謝らないと……)
光葵は影慈の言葉を遮るように言葉を出す。
「影慈、それは絶対に違う。あの時の決断は俺の気持ちだ! 〝心、魂のシンクロ率〟が高い今なら言葉なんてなくても分かるだろ?」
(分かるよ……それでも僕は……。いや、ごめん。みっちゃんの気持ちが分かってるのにこんなことを言うのは違うね……。これから、〝僕達〟はみんなを守って必ず生き抜こう!)
「おう! これからもよろしく頼む影慈」
◇◇◇
翌日は昔から好きでよく来ていた自然の多い公園に行った。
ここに来ると心が落ち着く。
しばらく、何も考えずにぼーっとする。
気持ちの整理もついてきた。そろそろアジトに戻らないとな。頂川達にもこれ以上心配はかけられない……。
そう考えていると、思いもよらぬ人物が走ってきた。
華やかな赤い髪に目鼻立ちが整った少女だ。
「光葵、探したよ! 学校にも来てないし。その……事件のこともあったし……心配したんだよ。光葵のお家に連絡したら『旅に出た』って聞いたから居ても立ってもいられなくて……」
朱音が切なげに言葉を紡ぐ。
「朱音、すまん。俺も心の整理がつかなくてさ……」
光葵は俯きつつ答える。
「ううん、いいの。こうして会えたし! というか、ごめん。心の整理つけるために一人旅がしたかったんだよね。お邪魔してるとしたら申し訳ないな」
朱音は少し顔を赤らめつつ頭をかく。
「いや、むしろ、わざわざ探してくれてありがとな。でも、なんでここにいるって分かったんだ?」
「あ~それは小学生の時、光葵がここの公園好きで、私が落ち込んでる時に連れて来てくれたじゃん? だからもしかしたら、ここにいるかもって思ってさ」
朱音は優しく微笑む。
「ああ~、たしかに。そんなことあったな。てかよく憶えてたな」
光葵は素直に驚く。
「私にとっては結構思い出深いからね~。運動苦手で運動会で迷惑かけちゃってたから、よく憶えてるんだ! あと、光葵が意外と気遣える人なんだって知れたし!」
朱音は太陽のような笑顔を向けてくる。
「いやいや、俺は気遣いできる男だぞ」
光葵は少しばかり微笑む。
その直後守護センサーが反応する。
どっちサイドの参加者だ? 場合によっては朱音を避難させないと……。
五十メートル圏内であり、見知った顔のため〝敵〟だと気づける。
ブラッドオレンジでオールバック、背の高い男がこちらに向かってきている。
「朱音、急でごめん。あのブラッドオレンジの男と逆方向に逃げてくれ」
光葵は早口で伝える。
「え? 何どういうこと?」
朱音が急な話で困惑しているのが分かる。
「今は説明してる暇がない。とにかく走ってくれ!」
光葵の真剣な表情を見て、決心したのか朱音は走り出す。
「日下部だったか? この前は世話になったなぁ」
鷹のように鋭い眼光が光る。
「伊欲……! こちらこそ、随分世話になったな。前の仲間はいないのか?」
「ずっと一緒に行動してる訳じゃねぇからよ。それよりお前はよかったのか? 連れを別方向に向かわせたみてぇだが……。お前の女か……?」
鋭く朱音を捉えている。
「関係ない一般人だよ。少し話してただけでな」
内心焦りが生まれる……。
「へ~そうかよ!」
そう言い、伊欲は魔石を複数光葵に向かって投擲する。魔石が一気に炸裂する。
プロテクトで防ぎつつ《闇魔法》で伊欲の視界を遮る。
「闇魔法か。クハハ、やっぱお前の関係者なんじゃねぇか。ご丁寧に視界遮るんだからよ!」
「今は目の前の俺に集中した方が身のためだと思うけどな……!」
光葵は殺気を伊欲に放つ。




