四十四話 獣の狩り
志之崎達との戦闘から三日後、洲台市内の工事現場にて。
といっても工事自体が途中で中断されているのか、コンテナなどは残っているが、他には何も置いていない。
そこに苛立った様子の一人のスキンヘッドの男がいた。
「やっぱチームなんてのは組むもんじゃねぇな。テニスやってた時もシングルスの方がダブルスより千倍はヤリやすかった……」
腕組みをしながらコンテナにもたれ掛かる。その時、貫崎は気づく。一人の参加者が近づいて来ていることに。
「どっちサイドの奴だ……? まあ、どちらでも構わんがな……」
数十秒後、一人の悪魔サイドの参加者と邂逅する。
ブラッドオレンジのオールバック、鷹のように鋭い眼の男だ。
「クハハ。ちょうど天使サイドの奴がいてくれてよかった……」
鷹のような眼の男――伊欲は嬉しげに歯を見せる。
「フンッ! 俺もちょうどよかったぜ。イライラしてたところだ……。ストレス発散させてもらうぜ」
貫崎は静かに、ただ殺意を含んだ声を出す。
「あ? よく見ると貫崎狼牙じゃねぇか? テニス日本代表のよぉ……」
伊欲が軽い調子で驚く。
「はぁ……。お前ら一般人からすると有名人にでも会ったみたいで嬉しいのかもしれんが、俺からすると面倒でしかないんだ」
獣の威嚇時のように雰囲気そのものが鋭くなる。
「そうか……。まあ俺はテニス興味ねぇからどうでもいいけどよ……」
伊欲は気にも留めていない返答をする。
「フンッ! さっさと始めるぞ……!」
貫崎は戦闘態勢をとる――。
「《召喚魔法――悪鬼》」
貫崎は素早く詠唱する。
地面に魔法陣が現れ、そこから悪鬼が召喚される。
「クハハ。召喚魔法か。実質二対一みたいなもんだな……」
伊欲は笑い声を上げつつ《魔石》を複数ポケットから取り出す。
「ぶち殺せ……! 悪鬼……! 《毒魔法》《身体強化》……!」
貫崎は泥状の毒を両手に溜めて、悪鬼と共に一気に突っ込む。
「そう焦んなよ……。《合成魔法》《魔石魔法×風魔法――魔石風》……!」
伊欲の詠唱と共に、身を裂くような風に魔石が混ざり、〝複数属性〟の強力な暴風が貫崎と悪鬼を襲う。
「痛ぇな……。なかなか、強い魔法だな……」
貫崎は毒魔法である程度のダメージを軽減しつつ、呟く。
「おいおい、直撃しといてそれかよ……。悪鬼もそこまでダメージ受けてるように見えねぇしよ」
伊欲は驚嘆を漏らす。
「こいつの頑丈さは俺が鍛え直した。前みてぇに役に立たないと困るからな……」
貫崎は志之崎達との戦闘を思い出し、苛立ちを吐き捨てる。
「そうかよ……。こりゃどっちの魔法を奪うかよく考えないといけないな。どっちも魅力的で欲しい魔法だぜ……!」
伊欲の瞳に一筋の凶悪な光が奔る。
「もう、皮算用かよ……。強ぇ奴が勝つ。それだけだろうが……!」
貫崎は悪鬼と同時に再度突撃する。
「ま、その通りだな。にしても、同じ攻撃か……。お前らの弱点何となくわかったぜ。近距離攻撃しかねぇんだろ?」
伊欲は淡々と尋ねる。
「フンッ! そいつは、戦って確かめるんだな……!」
貫崎は更に突き進む。
「オーケー、オーケー。んじゃあ、いくぜ?」
伊欲は赤青黄など様々な色の魔石を《風魔法》に乗せ高速で投げ込んでくる。
貫崎は直感的に〝危険〟と判断し、魔石を即座に躱す。魔石は爆音を立てて炸裂する。
「そんなもんか? すぐ射程圏内だぜ……?」
貫崎は更に詰め寄る。
「そりゃ、俺も同じことよ。《合成魔法》《魔石魔法×風魔法――魔石風》。広範囲攻撃は避けづらいだろ?」
伊欲は再度、魔石風を放つ。
広範囲をまだら模様の暴風が薙ぎ払う。
「何回も同じ攻撃喰らうかよ……! 《毒魔法――強化毒溶》! 悪鬼! 思い切り金棒振り抜け……!」
貫崎の強化毒溶は魔石風すら溶かした。
そして、弱まった魔石風を悪鬼の金棒が散り散りに吹き飛ばす。




