三十一話 孤独な戦い
夜の公園にて、一対二の戦いが今にも始まりそうになっていた。
一人なのは真面目なサラリーマン風の男――結城常選だ。
結城に二人の男女が話しかけている。金髪にピンクメッシュの入った派手な女。
そして、ブラッドオレンジのオールバック、鷹のように鋭い眼光を持つ背の高い三十代後半の男だ。
「天使サイドだね? 悪いけど二対一でヤラせてもらうから」
女の言葉には殺意を感じる。
「クハハ。香阪さんよ、そんなはっきり言ってやるなよ。ビビッて逃げ出したらどうすんだ?」
男はふざけて言ってるのではなく、シンプルにそう思っている口振りだ。
「伊欲さん。あんたの方がビビらせてるように聞こえるけど?」
「ははは。随分な言われようですね。必ずしも人数差が勝敗に影響するとは限りませんよ?」
結城はメガネを人差し指で上げながら、冷静な声色で返答する。
「キャハハハ! あんた勝つ自信あるって感じ? まあ、ヤリ合えばすぐ分かることだけど」
そう言い《貫通魔法》が撃ち込まれる。
結城は《風魔法》で身体を浮かせ高速移動で躱す。
「へ~! 速いね」
香阪は更に連射で貫通魔法を撃ち込んでくる。
「おいおい、俺も混ぜろよ」
そう言い伊欲は突っ込んでくる。
伊欲は近接戦タイプなのか……? だがどちらにせよ、この〝弾幕〟を何とかするのが先だ。まず潰すべきは香阪だ。高速移動しながら風の刃を香阪に無数に放つ。
「ハッ! そんなちゃちな攻撃じゃあたしの貫通魔法は止められないよ!」
貫通魔法を三連で撃ち込まれ風の刃は霧散してしまう。
「だからよ、俺も混ぜろって!」
伊欲が何かを投げつけてくる。
赤や青、黄などのキラキラと輝く石が複数飛んでくる。綺麗だ……だが危険な気配を感じる。
すぐにプロテクトを張る。次の瞬間、輝く石は〝炸裂〟し衝撃と共に結城を吹き飛ばした。
「がはっ……! 不思議な魔法を使うんだな……憶測に過ぎないが、『魔法を溜めておける石を作る』固有魔法か……?」
結城は口調が荒れていくのを自分でも感じる。
「お、もう分析し始めてるのか。でも言わねぇよ。言っちまうとこっちが不利だろ?」
伊欲は当然のことを言っているような口調だ。
「しゃべってる暇あると思ってんの?」
香阪の貫通魔法がさらに複数放たれる。
……長期戦は不利だ、早めに片を付ける。二人を近くに誘導し広範囲の〝竜巻〟で同時にダメージを与えてやる。
「私も余裕がある訳ではない……。だが、負ける気もない……!」
結城は高速移動で貫通魔法を躱しつつ、伊欲に向かって風の刃と風の弾丸を撃ち込む。
「危ねぇなぁ!」
伊欲は魔法の石を投げて爆破で相殺し、自分のもとに来た風の弾丸は躱す。
ちっ、爆破で風の弾丸の速度が落ちたか……。だが位置取りは狙い通り。
「《風魔法――トルネード》! ハァァアアア!」
結城の叫びと共に大きな竜巻が発生する。伊欲と香阪は巻き込まれていく。これで両者にダメージを与えたら計画通りだ……!
竜巻が止む。しかし、そこには二人の姿があった。
「痛っいわね……!」
香阪は貫通魔法で威力を殺したのか、身体中に傷こそ負っているがまだ戦える様子だ。元々、露出の多い服装だったこともあり、服が所々はだけて艶めかしい印象を受ける。
「やるなぁ。『プロテクト石』四つも使っちまったぜ」
伊欲は香阪よりも傷は少なそうだ。
「はは……防いだか。だが私は選ばれた者だ! あなた達程度すぐに倒して次の舞台へ行く!」
結城はさながら勇者のように雄叫びを上げる。
「キャハハハ! おっさん、何かキャラ変わってるじゃん。痛々しい中年はさっさと退場して……!」
香阪は笑みを浮かべながらも殺意の宿る瞳で言葉を放つ。
刹那――伊欲の素早い投擲で後ろと上の動線、香阪の貫通魔法で左右の動線を塞がれる。
「直線に動線を絞り、魔法の出力勝負に持ち込むか。面白い、来い!」
結城はマナを溜める。
一気に香阪が貫通魔法を撃ち込みながら突っ込んでくる――。
「高出力の魔法で迎え撃ってやる……! 《風魔法――圧縮空気砲》……!」
公園に爆音が複数回響く……。




