三話 影慈の存在
光葵は目を覚ます。
身体中が痛い……。だが、火傷やガラス片の傷は治っていた。
「どう……なってるんだ……?」
光葵は一人呟く。
(光葵、聞こえるか?)
謎の声が聞こえてくる。
「ああ、聞こえてる。俺は一体どうなったんだ……? あの狂人野郎に殺されかけて……。いや、そんなことより、影慈は⁉ 影慈はどうなったんだ……!」
光葵は自分のことや様々な疑問などよりも、幼い頃からずっと一緒にいた、親友である影慈の安否を心配した。
(光葵……一度に全てを伝えるのは混乱するだろう。一つずつ答えよう。まず私の名前を伝えたい。メフィという。よろしく頼む。影慈については、光葵……君と融合した。だから、君の存在そのものと同化している)
メフィは何の感情も感じさせない、冷淡な言葉を紡ぐ。
「俺の存在と同化……? それって、もう影慈と会えないってことか?」
(会えない……。定義にもよるが、君そのものが半分影慈でできているんだ。だから、常に一緒だとも言える)
「な……。なんでそんなことに……。いや、狼に腕を喰い千切られたから、それを治すためか…………」
光葵は救おうとした親友に、逆に助けられたという事実に絶望感を感じていた。
(……君にとってショックな出来事だとは思う。だが、二人共助かったとも考えられるはずだ。ネガティブに考えない方がいい)
メフィはあくまで冷静に事実をもとに話している印象だ。
「でもよ……影慈にはもう会えないんだろ……? 影慈…………」
光葵は大粒の涙が両目から溢れてくる。とめどない涙が床にまだら模様を作っていく……。
(君の傷の回復について伝えておこう。その傷は影慈が治療したんだ。正確には〝主人格交代〟をして、肉体を影慈が動かすことで実現したのだがな)
「…………影慈が治療……?」
光葵は涙を流しながら、疑問をそのまま口にする。
(君達の状況は特殊だ。一言で表すなら〝二心同体〟。つまり、一つの肉体に二つの心が入っている状態だ。そして、肉体の主導権を光葵から影慈に移すことが可能となっている。光葵の意識が限界を迎えた際に、影慈の心が肉体の主導権を奪った。そして、《回復魔法》を使うことで、傷を回復させた)
「じゃ、じゃあ、影慈は今も生きて…………」
光葵は更に涙が溢れてくる。
「影慈、よかった。生きててくれてよかった……。俺はお前のいない世界なんて考えられないよ。影慈……」
(……今は色々と伝えるのは難しそうだな。とりあえず、家に戻るといい)
光葵はひとしきり泣いた後、メフィの言う通り家に戻ることとした。