二十話 メフィからの言葉
朱音の病室を出て、家に向かっている途中で不意にメフィから声がかかる。
(長らく、連絡できていなくてすまなかった。今話せるか?)
「メフィさん⁉ 今まで何を……。あ、いや、聞きたいことがある。近くの空き地に移動するから、そこで話させてほしい」
(わかった。移動するのを待とう)
空き地に到着する。
(まず、私から謝罪させてほしい。一気に星の代理戦争のことを伝えると混乱すると判断し、情報をあえて全ては伝えていなかった。また、参加者と天使……正式名称は〝守護天使〟が関わることには制限がある。しょっちゅう、話すことはできないんだ……)
メフィは冷静だが、礼を尽くした態度なのが窺える。
「そうだったのか……。わかった。まず、聞きたいんだけど、星の代理戦争って何なんだ?」
光葵は最も気になっていたことを尋ねる。
(星の代理戦争は天使対悪魔で行われる、『バロンス』をどちらの種族が担うかを懸けた戦いだ。ちなみに、バロンスというのは、地球の『マナバランス』を取る管理者たる存在のことだ。正確には違うが君達の認識でいう、神に近い存在だ)
「そんな壮大な話だったのか……。マナってのは何なんだ?」
光葵は今までにも度々耳にしていた、マナについて尋ねる。
(マナというのは、〝あらゆる物質、非物質に宿るエネルギー〟のことだ。人間はもちろん、周りにある石などにも宿っている、あらゆるものの最小単位のエネルギーの名称だと思ってくれ)
「それがマナ……。バロンスは地球全体のマナの管理をする存在ってことか……。本当に神みたいだな……」
光葵は不意に自分の置かれた状況が飛躍したもののように感じる。
(その認識で間違っていない。あと、もう一つ伝えたいことがある。重要なことだが、一気に伝えるべきでないと判断していたものの一つだ……)
メフィは淡々と言葉を紡ぐ。
「教えてくれ……!」
光葵は少しでも情報を得られるように即答する。
(魔法とはマナを使って起こす現象なんだ。理論を伝えるより、実践の方が理解が早いと判断し、伝えていなかった。だが、理論をも理解できる段階にあると考えた。)
「そうだったのか……」
(魔法は〝マナを使い〟〝イメージ、想像力〟をもって〝現象〟として起こすものだ。感覚で言うなら、火の魔法なら火のイメージを〝具現化〟する感じだ。イメージ精度、マナの知覚度が上がればより思い通りに、自由に魔法を扱うことができる)
「なるほど。たしかに、理論を教えられるより、俺は何となくのイメージでやってみる方がよさそうだ……。理論言われてもかえって混乱してそうだ……」
光葵は素直に思ったことを伝える。
(今の段階ではこのくらいの情報量が適していると思う。また、時がくればこちらから連絡させてもらう。構わないか?)
「ああ。それで構わない。正直、今の話だけでも、頭の整理が追い付いてないしな……」
(そうだろうな……。では、また連絡する。星の代理戦争を頼んだぞ。必ず生き残ってくれ……)
そう言い、メフィの存在の知覚がスッと消えていった。
「影慈……なんだか、すごい話になってきたな……」
光葵は素直に思ったことを口にする。
(そうだね、みっちゃん。こんなに壮大な話だとは思ってなかった……。ただ、どちらにせよ、代理戦争を勝ち抜かなきゃ、生き残れないってことだよね……)
影慈は不安げに暗いトーンで話す。
殺し合いをしないといけないのだ。当たり前の反応だろう……。
「……ああ。でも、俺は……俺達は生き抜くぞ……! このまま、やられてたまるかよ……! 俺は影慈と一緒に生き直したいからな……!」
光葵は様々な不安を超える、影慈と生き直したいという想いを叫ぶ。
(……あはは。みっちゃんは本当に真っ直ぐな人だね……。その真っ直ぐさに何度も救われてるよ……。ありがとう。絶対に生き抜こう……!)
影慈は明るい覚悟を感じさせる言葉で応じる。




