二話 融合 そして戦い
「俺は一体……」
光葵は治った腕を見て呟く。
(日下部光葵といったな。君は夜月影慈と融合したことで、一命をとりとめた。そして、私との契約により、魔法を使えるようになった。《身体強化》の魔法だ)
「なんだ? 頭の中に響くような声だ……。影慈は? 影慈はどこに?」
(今は目の前の敵に集中しろ。折角、影慈が繋いだ命を無駄にする気か? 身体強化魔法は、任意の部位の身体能力を強化できる魔法だ。たとえガルム相手でも、引けは取らないさ)
「ちっ。面倒なことを……。ガルム……すぐに咬み殺しなさい。魔法に慣れられると厄介だからねぇ」
白衣の男は光葵を指さし、ガルムに命じる。
ガルムの咆哮が響き渡り、光葵目掛けて突進してくる。
「状況はよくわからねぇが、負けない……。自分の中に影慈の存在をうっすらと感じるからな……。死んでも勝つ……!」
光葵は身体強化魔法を使うために、まず目に意識を集中させる。
すると、ガルムの動きがスローモーションで見える感覚になった。
身体中の神経が研ぎ澄まされているのも感じる。
今の状態なら、あの怪物相手でも戦える。
空手黒帯である光葵は、怪物である相手の力量を感じながらそう判断する。
「シッ」
短く息を吐き、空手の戦闘態勢を取る。
「グルルラァァアアア!」
ガルムが一気に走り込み、咬みつきを行おうとする。
「俺は……俺達は負けねぇ……!」
光葵は思い切り地面を蹴り出す。
――すると、想像の五倍のスピードが出た。
「は……?」
光葵はガルムの横を通り抜け、そのまま白衣の男の顔面に頭突きが当たる。
「うぐっ……。なんだこれ……。自分の筋肉の動きじゃないみたいだ……」
光葵の口から驚嘆が漏れ出る。
「……君ィ……。ぶつかっておきながら、謝罪の一言もなしかい……? すごくすごく痛いんだけどねぇ……」
白衣の男は鮮血を鼻から噴き出しながら、青筋を立てている。
「黙れ……! もう一撃ぶち込んでやるよ……! 狂人野郎……」
光葵は構え直す。
「ガルム、次は外すな……。火撃咆哮でいい……」
白衣の男の無機質な殺意が、言葉として放たれる。
「ガルルルラァァアアア!」
再度、ガルムが突進してくる。
光葵はあえて突っ込まず、攻撃に備える。
「今だ、ガルム……」
白衣の男の言葉の直後、ガルムの口から、爆風のような形で高温の炎が放出される。
「そんなのもあるのか⁉」
光葵は両腕で高温の炎を防御するも、そのまま吹き飛ばされ、隣のビルの窓ガラスを突き破る。
飛ばされた勢いは収まらず、ビル内の床を転がり続ける。
最終的に、ロッカーにぶつかり勢いは止まる。
「ごはっ、ごはっ……。くそ……が。身体中、火傷とガラス片だらけだ……」
光葵はふらつきながら、白衣の男の方を見る。
しかし、そこに白衣の男はいなかった。
「なんだ……? こっちのビルまで追撃にでも来てるのか……?」
その時、先程の〝謎の声〟が聞こえる。
(どうやら、奴は逃げたようだ。君の頭突きが予想以上に効いたのだろう……)
どことなく、愉快そうに謎の声は話す。
「……なんでそう思うんだ?」
光葵は現状が〝危機的状況か否か〟をまず確認することとする。
(光葵、影慈、君達は星の代理戦争という代理戦争に参加することになった。参加者には〝守護センサー〟という能力が与えられる)
「星の代理戦争……? いや、今は守護センサーについて教えてくれ」
(賢明な判断だ。具体的に説明すると、半径五十メートル圏内で天使か悪魔の〝存在を感知〟できる。そして半径二十五メートル圏内で〝天使か悪魔かを識別〟できるようになるんだ)
ゆったりとした調子で、謎の声は話す。
「天使か悪魔……?」
(先ほど戦っていたのは悪魔サイドの参加者だ。ちなみに、君は天使サイド……。君の存在全て……つまり、肉体、心、魂で感じ取れなかったか? あいつが悪魔サイドであると)
「そう言われると、感じ取れたような気がする。……白衣の男の気配がないから、逃げたと予想してる訳か……」
(そういうことだ。仮に追撃に来ても、五十メートル圏内に入れば、存在は感知できる)
「わかった。とりあえず、今は安全ではあるってことだな。まだまだ聞きたいことがある……けど……。ダメだ……。意識がもう……」
光葵の意識は暗転する――。