十七話 本気 対 本気
「ガルム、二人を喰い殺せ……!」
倉知の号令に合わせ、一気にガルムが突っ込んでくる。
「《雷魔法――雷纏》……!」
頂川の身体中から雷が迸る。頂川は雷で神経を刺激し、身体能力を引き上げる。
ガルムと頂川はほぼ互角に戦いを繰り広げる。
ガルムの噛みつき、爪による裂撃に対して、頂川は雷を纏った徒手空拳、雷撃で応戦している。
光葵は右腕にのみ身体強化魔法を使用する。渾身の一撃でガルムを倒すためだ。
しかし、光葵が攻撃に参加せず、魔法を使用していることに気づいたであろう、倉知がガルムに指示を出した。
「ガルム! 火撃咆哮を二人に向かって振り撒け……」
ガルムは火撃咆哮の爆風を頂川と光葵にぶつけてくる。
「ちっ、広範囲の魔法で厄介だな……」
頂川は身体の表面に火傷を負っている。
光葵も避けきれず、火傷が更に増える。
「頂川、すまん。なんとか隙を作ってくれないか? 俺の一撃でガルムを仕留める……」
光葵は手短に頂川に伝える。
「おう、わかったぜ!」
頂川も手短に返答する。
「ガルム……マナを使っていい、能力上昇だ……。どうも、決めにかかってきそうなんでねぇ……」
倉知がガルムに命じる。
それを受けたガルムの身体中が青く光る。
おそらく、マナとやらを使って能力を上げた影響だろう。
「グ……ルルルラァァアアアアア」
ガルムが大声で咆える。
そして、二段上がった速度で突進してくる。
「ちっ、まだ速くなるのか……。日下部、俺が何とかする。ちょっと下がってろ……!」
頂川は雷纏の出力を更に上げる。
稲光が激しく、周囲に弾け飛ぶ。
「オラッ! 狼野郎! 大人しくしろ! 《雷魔法――雷槍》……!」
頂川の両手から、雷光を発し続けている、一メートル程の槍が創出される。
物体というよりは、雷の塊が槍の形を成しているような感じだ。
頂川は雷槍でガルムの攻撃をいなす。
互いに譲らない攻防が一分ほど続く。
「ガルム! マナを完全開放しろ! その上で火撃咆哮で消し飛ばせ……!」
倉知が苛立ちを吐き出すように声にする。
「グルラァァアアアアアア」
ガルムの体色そのものが黒から青色へと変わる。
「ハッ! 本気モードってか! 来いよ!」
頂川が軽く手招きする。
ガルムが一気に突っ込んでくる。
頂川はガルムまで五メートルほどの距離まで引き付けた後、高速で雷槍を投げつける。
「ガルゥアア」
ガルムはギリギリ雷槍を躱す。
「トドメを刺せ、ガルム!」
倉知の大声が廃墟に響き渡る。
ガルムは頂川に近づきながら火撃咆哮を放とうとする。
「おっさんが、狼野郎に命令してたから、できたことだぜ……」
頂川は呟き、一気にガルムに向かい加速する。
そして、ガルムの口を両手で閉じるように押さえ込む。
火撃咆哮はそのまま発動され、大爆発が起こる……。
「頂川! 大丈夫か……⁉」
光葵は思わず駆け出す。
「日下部! 今こいつを捕まえてる。ぶちかませ!」
頂川の怒声に近い、大声が聞こえてくる。
「わかった……! これで終わりだ……!」
頂川に顔を捕まえられている、ガルムの横腹目掛けて、渾身の正拳突きを打ち込む。
ガルムは正拳突きの勢いで吹き飛び、パラパラと灰のようになり、消えていった。
「なっ……自爆覚悟で火撃咆哮を暴発させて、隙を作ったのか……。イカレてるねぇ……」
倉知はそう言い、少しずつ出口の方へ移動している。
「待ちやがれ!」
光葵は倉知の前に走り込む。
次の瞬間、眩い光が光葵を包む。
「ぐっ……なんだ……」
「実は基礎魔法で光魔法が使えたんだよぉ……。じゃあね、また戦おう……」
倉知はそう言い、走っていく。
「ま、待て。クソッ……目が視えねぇ……」
光葵は残った力でプロテクトを張るので精一杯だった……。




