十六話 残酷な勝利条件
「その判断、果たして正解かな……? 二対一で戦えばよかったものを……」
倉知は理解不能だといった顔をして、二度首を振る。
「どのみち、お前は俺が倒さないと気が済まないんでな……。朱音の分、ボコボコにしてやるよ……!」
光葵は吼える。
「……ボコボコねぇ……。随分甘い考えだねぇ。私が君に降伏するとでも……?」
倉知は苛立ち混じりに言葉を吐く。
「ああ? ボコボコにすりゃ勝ちだろうが……」
光葵は腹に溜まった怒り諸共に吐き捨てる。
「……君ぃ何か勘違いしてないかい? 勝利条件は『戦闘不能』じゃあない。『殺す』ことだ。まあ、降伏させるという道もあるけど、降伏する奴なんてそういないだろう……」
倉知はごく当たり前の常識を話しているような自然な口調だ。
「な……。殺す……」
光葵は薄々気づいていたが、〝気づきたくなかった〟事実を突き付けられて、たじろいでしまう。
「その反応……天使から何も聞いていないのかい? とんだ天使もいたもんだ……」
倉知は愉快そうに声を上げて笑う。
「……ちっ、だとしてもお前は野放しにできない。ボコボコにして降伏させてやるよ……!」
光葵はこの一瞬で葛藤した。目の前には友人を傷つけた憎い相手がいる。絶対に倒したい。だが、殺すという話になると途端に恐怖が襲い掛かってくるのだ。それだけ、倒すことと、殺すことには大きな隔たりがあると実感した。
最終的に光葵は〝倒す〟ことを選んだのだ。
「甘い、甘い甘い甘いぃぃぃぃ! そんな覚悟じゃすぐに死ぬことになるよ君ぃ……。まあ、おしゃべりはここまでだ。火撃咆哮、連続放出の溜めの時間稼ぎができたからねぇ……。さあ、耐えきれるかなぁ……」
倉知は敵をいたぶることが楽しみで仕方ないと言わんばかりの、歪んで嗜虐的な笑みを浮かべる。
「グルゥラァァアア!」
ガルムの叫びが響く、同時に火撃咆哮が高速でガトリングの如く放出される……。
「《プロテクト魔法――全力展開》……!」
光葵はありったけの力でプロテクトを展開する。
轟音が何度も何度も響き渡る……。
「ゴハッ、ガハッ、ガハッ……」
光葵はプロテクトを破壊され、三度、火撃咆哮が直撃していた。
身体中に火傷ができて、激痛が電撃の如く走る。
「ハァハァ……クソッ……。まだだ……。まだ動ける……!」
「よく耐えたねぇ……。いい焼き加減だぁ。ガルム、ご馳走が目の前にあるよぉ。嬉しいだろう」
倉知はガルムに語りかける。
「ガルゥウウウ!」
ガルムは嬉しげに唸り声を上げる。
そこに、頂川の声が聞こえてくる。
「日下部! 大丈夫か⁉ すまん、遅くなった」
頂川が光葵の前に立つ。
「戻ってきたか……。まあ、でもちょうどいいかぁ。一人は瀕死。もう一人の参加者を喰えれば更にガルムを強化できる。『固有魔法の奪取』もできるしねぇ」
倉知はニヤニヤと笑む。
「あ? 固有魔法の奪取って何だ?」
頂川が思わず疑問を尋ねたようだ。
「……君達ぃ、ルールを理解してなさ過ぎだろう……。まあ、いい。冥土の土産に教えてやろう……。戦いに勝った参加者は相手の所持する固有魔法を一種類奪うことができるんだぁ。だから、一気に強くなれる」
勝ちを確信しているのか、倉知はどこか明るい話し方だ。
「なるほどな。じゃあ、お前をぶちのめせば更に強くなれるんだな。ま、どのみちぶちのめすことに変わりはねぇけどよ。日下部、俺がメインで戦う。日下部はサポート頼むわ」
頂川は光葵の方を一瞬見て指示を出す。
「ああ……。だけど、一緒に戦わせてほしい。俺はまだ動ける……」
光葵は朱音の顔を思い浮かべ、強く歯ぎしりする。
「……そうか……。じゃあ、一緒に戦おうぜ。ダチ傷つけられた気持ちは痛いほどわかるからよ」
頂川は倉知を見据える。




