百十七話 最終決戦(終結)
「綾島さん! 比賀さん! 次の攻撃で決めたい。『未来の可能性を分岐』させる! そこでできた隙を衝きたい。協力してくれ……!」
光葵は乱戦状態のため大声で伝達する。
「未来の可能性……。了解」
綾島は短く返事をする。
「未来の可能性か、なるほどね。私も次の攻撃は強めにいくよ……!」
比賀の左眼に鋭く光が奔る。
「何か策略があるみたいね……」
清宮は静かに呟く。
「まずは私の速さで……。《光速移動×反射魔法――光彩陸離》!《光魔法×分身魔法――残照》!」
綾島は清宮に超光速で突っ込む。
「相変わらず速いね……。でもここでしょう? 《付与魔法――超敏捷アップ》……」
清宮の一瞬で速度を引き上げた《強化水刃》が綾島を両断する……。
刹那〝綾島〟から《遍く浄化の光》が放たれる。
清宮は〝予見外〟の攻撃に、ワンテンポ遅れて攻撃を躱したようだ。
綾島の残照は超高精度の分身を作る魔法だ。
清宮に〝誤認識〟させるには打って付けだ。
「《乱生魔法――乱空移動、心魂乱打》……!」
比賀は清宮の隣に高速で移動する。
そして《心魂乱打》を放つ。
「私はまだ、動けるわ……!」
清宮は〝反射神経〟で攻撃を躱したようだ。
なぜなら、綾島の攻撃を回避する際に、ワンテンポの遅れが生じているため、動きに無理が感じられたからだ。
そして、清宮は一見攻撃を躱せているように見えたが、攻撃は清宮の頭部に当たった。
比賀は《心魂乱打》と同時に《空間転移》を使っており、比賀の攻撃はワープホールを通じ若干位置がずれていたのだ。
「うっ……」
清宮は呻き声を上げる。
今なら、乱生魔法で心と魂を乱され〝未来視〟に綻びが生じるはずだ……!
「コレで決める……!」
〝光葵と影慈〟はマナを高出力に練り上げていく。
「私は……負けない……!」
清宮は光葵を見据える。
「さあ、どの攻撃が来るだろうな……。いくぞ!」
光葵は一気に加速して清宮に接近する。
次の攻撃は完全に予見することは不可能なはずだ。
なぜなら〝未来の可能性を分岐〟させたからだ。
光葵には〝人格が二つ〟ある。そして〝人格共存状態〟も入れると未来の可能性が単純に〝三つに分岐〟する。
そして、光葵と影慈は事前の打ち合わせで、それぞれの攻撃の可能性をほぼ同じにした。
「……そんなこともあるのね……! それでも、私は……『未来視』に頼らなくてもあなたに勝つ!」
清宮は叫ぶ。
清宮も直感で、光葵と影慈の考えに気づいたのかもしれない……。
「はぁぁああああ!」
清宮の気合と共に、五頭の《強化水龍》と《強化水刃》が光葵に襲い掛かる。
「負けねぇ……! 《擬似聖盾アイギス》……!」
まずは――人格共存状態――での防御。
――主人格交代、影慈――。
「《黒風炎刃》! 《擬似神槍グングニル》!」
攻撃で水龍を霧散させる。
――主人格交代、光葵――。
「《理の反転》……!」
黄金色に光る右手で清宮の左頬に触れる。
瞬間、清宮のHP、MPがそれぞれ逆転する。
つまり、マナは回復するが、一度も攻撃を受けていなかったが故にHPはゼロとなる……。
清宮の魔を狩る黒衣がゆらゆらと霧散していき、額の第三の目の金色の輝きは徐々に薄れていく……。
どことなく穏やかな顔で清宮は静かに息絶える……。
「……ふぅ。終わった…………」
光葵は一度に魔法を多く使い、かつ《理の反転》を高速で使用したため、マナが減り過ぎて意識が朦朧とする。
――俺自身ギリギリ生きてる感じだな――。
清宮からの魔法奪取は〝第六感強化〟を選択した。
「みんな勝ったよ……」
光葵の頭に、環、頂川、ルナ姉、カイザー、朱音の顔が浮かぶ……。
「……ルナ姉、カイザー君、仇は取ったよ……」
綾島はどことなく雰囲気が柔らかくなる。
「ルナさん、ガキ……見ててくれたか?」
比賀は空を見上げる。




