百二話 守りたいヒト 漢の決断
――十秒に渡る爆撃が終わる。
直後、高音の叫び声が響く……。
「朱音ちゃん……! 噓でしょ……!」
綾島の腕に抱かれた、朱音は爆撃で身体中が損傷し、血の気が失われていく……。
「ふふ。綾島ちゃんは守れた……。今すぐ……逃げ……て…………」
朱音の目は力なく閉じられる。
「そんな……。やめて……。もう私失いたくないよ……」
綾島の頬を涙が伝う。
「……すぐに同じ場所に送ってやる」
冷酷に至王は呟き、魔法の溜めが始まる。
◇◇◇
その頃、光葵は頂川と合流していた。
「頂川大丈夫か? 侍がすごい速さでこっちに来なかったか?」
光葵は焦りながら尋ねる。
「来たぜ。でも大丈夫だ! それと一つ頼みがあるんだ。あの侍は何とか説得して『降伏』させるようにして欲しい」
血まみれの頂川は明るく話す。
「え? 何か理由があるのか……?」
光葵は素直に疑問を返す。
「ああ~。嬢ちゃんと漢の約束したからな。嬢ちゃんは説得して降伏してもらった」
頂川はポリポリと頬をかく。
「え……? あの少女を……? 凄すぎるだろ、頂川……」
光葵は思わず、驚いた顔のまま言葉を出す。
「ハハ、まあな。命は大事にしなきゃな……」
頂川は物憂げな表情をする。
次の瞬間、頂川が切羽詰まった表情に変わる。
「危ねぇ!」
店の看板の陰から〝至王の分身〟が《刻印雷火》を放つ。
頂川は《拳打雷貫》で何とか防ぐ。
しかし、ダメージはかなりのものだ……。血飛沫が舞う……。
至王の分身はマナを使い切ったのか、その場で霧散する。
直後、綾島の叫び声が聞こえてくる。
「頂川! 大丈夫か⁉ それに今の叫び声……」
光葵は急な事態に慌てて早口で話す。
「俺は……大丈夫だ。んなことより、綾島さんの声が聞こえた。多分ヤベェ状況なんだろ……!」
頂川は血まみれの身体を動かす。
ニチニチと不快な音が響く……。
「いや、でもお前怪我が……」
光葵の声を遮るように頂川は話す。
「日下部……。今は一秒でも惜しい」
ギラつく頂川の目は語る。仲間の命がかかってる、俺のことは気にするなと……。
「分かった、行こう!」
光葵は命を削り出力を上げた《風魔法――高速移動》で綾島達のもとへ向かう。
光葵と頂川は目の前に広がる光景に反射的に身体が動く。
至王は分身も含め十人いた。
まず光葵は高速で《氷黒壁》にて綾島、朱音を覆い隠す。
頂川はその間に片っ端から至王の分身を消して回る。
しかし、光葵も頂川もマナを相当消耗しており、かつ怪我が酷い状態であり、共に身体中から血飛沫を撒き散らしている。
特に頂川は出血が酷く、時折ふらつきながら戦う……。
「フハハ。死に損ない共が! まとめて殺してやる……!」
至王は殺意を身体中から発する。
光葵が、頂川と一緒に分身の一人を消した際に頂川から話がある。
「日下部、このままじゃ全滅だ……。俺はお前と組めて一ミリも後悔してねぇ。みんなを頼む。あと絶対負けんなよ……!」
頂川はそう言い《覚醒の霆》《疾風迅雷》を限界を超える出力に上げたようだ。
口からは血反吐の塊が出ている……。
「何言ってんだ。頂川お前……」
光葵が話しかけた時、既に頂川は至王に向かい、稲光の如きスピードで迫っていた。
おそらく、覚醒の霆で本体と分身の違いが分かるのだろう。
「これ以上、仲間傷つけんじゃねぇ!」
頂川は一瞬にして至王の前まで移動する。
「速いな……。だが反応できないほどではない……。《合成魔法》《刻印魔法×雷火砲――刻印雷火》……!」
至王の《刻印雷火》と頂川の《拳打雷貫》がぶつかる……。
頂川の右手は刻印雷火を相殺するも消し飛んでしまう……。
「終わりだな……」
至王は呟く。
「なめんな……! 連続では撃てねぇだろ? 《合成魔法》《雷魔法×貫通魔法――雷神鎚》……」
頂川の左手に《雷神鎚》が創生される。
「最期の一撃だ。よく味わえ……!」
頂川は至王を雷神鎚で殴り飛ばす。
至王は立て看板三つをぶち抜き、電柱にぶつかり骨の軋む音と共に口から血を吐き出す。
次の瞬間、至王の分身達は消えていく……。
そして、頂川の身体も形を維持できないほどマナを使い、パラパラと灰のようになり消えていく……。




