十話 金髪の漢
翌日。
昨日と同様に放課後に倉知を探す。
目星をつけていた四ヶ所目の廃墟に着くと、何かが破壊されるような轟音が聞こえてきた。
急いで音の発信源に走り込む。
そこで見えた光景は奇妙なものだった。
二十歳くらいの女が、一人で不良十人を相手に圧倒しているのだ。
途中で気づく。天使サイド、悪魔サイドの参加者がこの中に一人ずついるということに。
女が気づいてこちらを振り返る。
非常に派手な見た目だ。金髪にピンクメッシュの入ったロング。
服装は肌の露出が多めで、ボディラインが強調され、胸が大きいのが一目で分かる。
「天使サイドか……ちょうどいい。二人まとめてヤッてやるよ」
怪しくピンク色の瞳が光る。
直後。
「おいあんた! こいつはかなりヤバい。俺の舎弟達も巻き込んで魔法ぶっ放してくる。しかも威力がある!」
〝天使サイドの参加者〟が叫ぶ。
上下黒の学ラン。短く刈り上げられた金髪。目つきが鋭い……そして傷だらけだ。
おそらくこの不良グループのリーダーなのだろう。
〝舎弟〟と呼ばれている不良達に目を遣ると、明らかに魔法に巻き込まれたような傷だらけだった。意識を失いかけている者もいる。
「今はとにかく協力してこの女を何とかするぞ! 俺は《回復魔法》が使える。この女の相手しばらくできるか?」
光葵は切迫した言い方で叫ぶ。
「回復魔法……そいつぁ助かる。舎弟を頼む」
金髪の男はよろよろと立ち上がる。
既に相当攻撃を受けている様子だ。舎弟を守るため、魔法の防御をし続けていたのだろう。
「お話は終わり? じゃあ、続けるよ?」
女が光葵に魔法を撃ち込んでくる。直線的に飛んでくる魔法だがスピードがとんでもなく速い。
《身体強化魔法》を足に使い一気に加速し、ギリギリ躱す。
後ろで鉄製のコンテナが爆音を立てて弾けた。
一時的に女を挟み撃ちする形で金髪の男と攻撃を繰り出す。
一瞬女の体勢が崩れた隙に奥にいる舎弟の所へ駆け込む。
「回復魔法を使うからお前らは動くなよ」
光葵は舎弟達に短く伝える。
「影慈すまん。回復魔法を頼む。主人格交代してくれ……!」
(了解。みっちゃん)
影慈の返答を聞き、即座に念じる。〝主人格交代〟……!
意識が遠のく――瞳が琥珀色から陰のある黒に変わる。
「……回復だけじゃ、役に立ち切れない……。攻撃魔法のイメージを持て……。じゃないと、『金髪君』が死ぬ可能性がある。集中しろ……」
影慈は回復魔法を発動しながら、攻撃魔法のイメージを広げる。
一番に思い浮かぶのは〝炎〟だ。
「今、助けることができるのは僕だけなんだ。死ぬ気で気合を入れろ、僕……!」
影慈は回復魔法での治療をしながら、右手に炎のイメージを持ち続ける。
すると、わずかに炎が燃え上がった。
「金髪君! 僕が回復しながらサポートで魔法を撃つから、頑張って戦って!」
影慈は叫ぶ。
「おう! 恩に着る!」
金髪の男は、稲光を迸らせ女と戦っている。
女は距離を詰められないように、強力な魔法を足元に撃ち込み、爆風で金髪の男を吹き飛ばす。
「《火炎魔法――炎の弾丸》……!」
影慈は金髪の男が追撃されないように、炎で創出した小さな弾丸を手から女へ放つ。
しかし、女はプロテクト魔法で相殺する。
……威力があまり出ないな。
でも、金髪君の攻撃の隙くらいは作れるはずだ。
それに回復が終われば戦いに加われる……!
金髪の男は《雷魔法》を使い攻撃を繰り返す。
だが、相手の強力な魔法での牽制がありなかなか距離を詰められないようだ。
「キャハハハ! あたしの《貫通魔法》の前じゃこんなものよね。あ……あんまり魔法はバラさない方がいいんだっけ? まあ、両方殺すし一緒か」
女は余裕そうな笑みを浮かべる。
「クソが! 間合いが詰めれねぇ」
金髪の男はゼェゼェと息を切らす。
女の方が火力は上だ……。とにかく攻め切られないように支援をしよう。
影慈がそう思った直後、貫通魔法がこちらに二連で飛んでくる。
まずい……回復魔法にマナを集中させながらのプロテクト展開では舎弟の人達まで守れない……!
轟音が鳴り響く。
影慈は思わず目を閉じる……。




