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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第1章 光のかけら

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9 「焚き火」


 旅の途中でひと休み。

 焚き火の明かりに包まれながら、ココはちょっとした“ひらめき”を思いつく。


  馬車が街道沿いの林の陰に停まる。


  先頭を行く青い髪のローレンツと赤い髪のバルドゥが、まるで絵本で見た青鬼さんと赤鬼さんみたいで笑えた。

  (ごめんなさい、絶対言えないけど……似すぎ!)


  冷たい風が頬を撫で、木々の間からこぼれる朝の光が、白い息を淡く染めていく。


  馬たちは肩で息をしながらも、耳をぴくぴくと動かして落ち着いていた。


  御者たちは焚き火のそばで水桶を運び、手綱を緩めながら談笑している。


 「おい、飛ばしすぎると馬がばてるぞ」

 「いや、大丈夫だろう。今日はやけに馬の調子が良いんだ」


 不思議そうに、御者が馬に水桶から水を飲む馬の背を撫でている。


 ふふふ……でしょうね。


 ”だぁれも知らないおまじないの・ち・か・ら”


 馬車を降りて背を伸ばす。ずっと座っているのも疲れるのね。


 私がほくそ笑んでいると後ろからポンと肩を叩かれた。


 「どうした、顔がにやけているぞ」


 へっ!


 驚いて後ろを振り返るといつの間にかクロード様が立っていた。


 「お、お馬さんが可愛いなぁ、と思って……」


 しどろもどろに適当に返事をする。やましいことはないんだから、落ち着かなきゃ。


 「そうか、午後からは魔の森の近くを通るから、気をつけるように」

 「はい」


 はて?、何をどう気をつけるかしら……?


 何せ馬車に乗っているのだ。窓から顔を出さないようにするぐらいしかないと思う。

 遠足で先生に注意されているみたいだわ。


 それに祝福を掛けてあるから魔獣は来ないと思うし……

 (出発前にそっと掛けた祝福が、ちゃんと効いているはず)


 「怖いか?」


 考え込んでいたら怖がっていると思われたみたいだ。


 「いえ、初めての経験なので、ワクワクします」

 「はぁ!?こりゃ良いな、新人どもに聞かせてやりたい」


 そう言うと大きな声で笑う。


 「新人さん?」

 「前回襲われたからな、皆、ビビっている」

 (そりゃビビるよね……魔獣だもの)


 クロード様はそう言うと、笑いながら、見回りに行ってしまった。


 そうか、この間襲われたのはこれから行く所なんだ。


 ディーン様やローレンツ、バルドゥは大丈夫かしら?

 トラウマになっていないかな?少し心配だった。


 祝福自体は効いていると思うから襲われることはないけれど、この街道自体を安全にしたい。

 そんな事出来るかしら……


 やった事はないけれど、神殿で読んだ本のページを思い出す。


 確か、季節によって大きな祝福を授ける場面が載っていた。


 春の芽吹きの祭りや、秋の実りの祭りの時に大きな魔方陣を敷いていた挿絵を覚えている。

 星の巡りに合わせると、より大きな祝福が掛けられると書いてあったわ。


 満月は過ぎたから新月まではもう少し先ね……頭の中で計算を重ねる。


 領地全体は無理でも街道あたりならいけそうな気がしてきた。


 問題は――いつ掛ければいいのか、よね。


 大きく息を吸って、心を落ち着かせた。


 周りを見渡せば、向こう側に小高い丘があり森を見渡せる。


 この場所は良いかもしれないわ。


 時間はだいたい決まっている。人々の活動しない、静かな時間帯が良いのよね。


 明け方のまだ日が顔を出す前ね、地平線の色が変わり雲が色づく時間が良いわ。

 

 決行は、明け方ね。……よし、明日の明け方にやる!


 早ければ早いほうが良いわ。きっとね!


 ふふふ……


 やることが決まると、後はスッキリ、キャンプを楽しみましょう。


 夕闇が迫れば皆でたき火を囲んで夕食。こんな所なのに、神殿より豪華な食事って……凄いわ。


 丸太に腰掛けているとクロード様がスープを持ってきてくれた。


 「熱いから気をつけるんだ」


 私に木の器を渡すと、自分はまた向こうへ行ってしまう。

 明日の打ち合わせや、街道の様子を調査させたりと忙しいらしい。


 騎士達の話を聞いていると、前回はこの先で襲われたみたいだから、用心しているとの事だった。


  スープの良い匂いにつられて、お腹がグウッとなった。


 瞬間、周りを伺う。誰にも聞かれていないわよね?

 一応、乙女の端くれだから、さすがに騎士達に聞かれるのは恥ずかしかった。


 誰もいないのを確認すると、夢中で、具だくさんのスープにふかふかのパンを食べる。


 幸せ~~~~!!!


 「美味しいか?」


 声をかけられて、パンを片手に顔を上げれば、いつの間にかディーン様が隣に来ていた。


 紺の外套に銀色の髪がよく映えていた。焚き火の光を受けて、銀髪がきらきら揺れる。


 まだ少年の面影を残しているその姿は、前世で見たアイドルみたい。


 そんな妄想をしつつ、ぼうっとなっていた所に急に声をかけられて、

 口いっぱいにパンを詰め込んだ後だったから、喉に詰まる。


 「……んっ、ぐっ……。」

 「だ、大丈夫か?」


 慌ててディーン様が背中をさすってくれた。これは色々まずい状況では?


 領主様の前でげっほってなっているし……し、しかも背中まで……

 ディーン様がコップに入った水を渡してくれた。

 やっと水を飲んで一息つく。


 「す、すみません……!」

 (もう穴があったら入りたい。いや、埋まりたい。)


 ひたすら謝ること3分?


 静かな気配に顔を上げると、顔を片手で押さえた、ディーン様が肩を震わせていた。


 笑われている!?


 これは、怒られるより……良いのか?


 複雑な気持ちが胸に渦巻いた。


 ここで上手くやっていけるかしら……わ・た・し……?


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