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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第1章 光のかけら

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6 戸惑い:ココ、初めての祝福


 今回から物語は大きく動き出します。

 神殿を離れたココが、思いもよらない人物たちと再会します。

 

 馬車が着いたのは町外れのお屋敷だった。


 お屋敷の前には、たくさんの幌馬車が停まり、荷物を次々と運び入れている。

 お引っ越し……なのかしら?


 「明朝出立だ」

 いつの間にか馬車が止まり、扉が開いた。背の高い騎士様が片手を差し出してくる。


 んんっ? ハイタッチ……?

 私は思わず手を伸ばしてパンッと叩いた——が、がっちりと掴まれた。


 「叩くんじゃない。手を添えるんだ」


 え、そうなの? と首を傾げる私の手を引き、彼は穏やかに言った。


 「ココ殿、降りるぞ」


 “殿”まで付けられて、なんだか面食らってしまう。


 「あのぉ〜、ココでお願いします。騎士様」


 「では、ココ。私はクロードだ」


 「ク、クロード様……!」


 馬車を降り、クロード様のあとをついてお屋敷の中へ入る。

 案内された部屋には三人の騎士が立っていた。

 一番若い方は十代ではないだろうか。銀の髪を短く切りそろえ、空色の瞳が印象的だ。


 私が入ると、三人が一斉に跪いた。

 えっと……何、この儀式?


 「ココ、君が助けた騎士と領主様だ」


 あ、ああ。あの時、瘴気を払った人たちね。

 あの後、聖女様の笑顔に騙されなかったの?


 ハニートラップをかけないはずはないんだけど、変ね。

 絶対に神官様が離さないと思ったのに……


 しかも、どうして私が助けたことになってるの?


 疑問が胸の中を渦巻く。


 「姫、我らの忠誠をお受け取りください」


 一番前の若い騎士がそう言って、剣の柄を私に向けて差し出した。


 あ、これ本で読んだことある! お姫様に忠誠を誓うってやつ!

 でも、喜んでテンションを上げてる場合じゃない。


 ……ちょっと待って。いま、姫って言った?

 誰それ!? 私、違うから!


 「あ、あの! 受け取れません! 皆様の怪我を治されたのは神殿の聖女様です!」


 差し出された剣の柄にそっと手を重ねて、慌てて言う。


 「私などに跪かないでください!」


 「心優しき姫、もったいなきお言葉です」


 顔を上げた騎士は私の手を取り、ソファーへと導いた。

 ちょ、ちょっと待って! クロード様、ちゃんと説明してないの!?

 私は神殿の下働きなのに!


 「早速で申し訳ないのですが、こちらにサインを。姫を神殿から出すための書類です」


 指示されるままにサッとサインをすると、紙は一瞬で取り上げられた。

 目も通させてくれない。読めないとでも思ってるのかしら。まあ、神殿の下働きだものね。


 「あの、ココと呼んでください。それに、私に敬語を使うのはおやめください」


 「では改めて。私は辺境を治めるディーン・エルガード」


 そう言うとディーン様は両脇に控えている騎士の方を向く。


 「右の青銀髪がローレンツ、左の赤毛がバルドゥだ。……。両名はココに助けられた騎士達でもある」


 「お二人ともお立ちください。私の力が役に立ったのなら嬉しいです」


 ——いやいやいや!

 神殿の薄汚れたお仕着せを着た見習いが、領主様と騎士を跪かせるなんて、おかしいでしょう!?

 茶番はもうおしまいにしてほしい。


 「明日は早い。今夜はゆっくり休んでくれ。案内しよう」


 ま、まさか領主様が案内なんて……!?


 「ありがとうございます。大丈夫です。部屋を教えていただければ——」


 「閣下、姫様はこちらでご案内を」


 ローレンツが横から手を差し出した。

 ……だから、“姫様”って誰なのよ!


 もしかして、あの時、瘴気をちゃんと払えてなくて、頭がおかしくなってるんじゃ……?

 まずいわ……。

 そんな仮説が頭に浮かんで、私は思わず提案した。


 「あの、今もう一度、瘴気を払ってもいいでしょうか?」


 「今? ここで?」


 「はい。引き取っていただいたお礼に、祝福を差し上げたいのです」


 ——皆様の頭が大丈夫か確かめたい、なんて言えない。

 ーー皆様の頭を綺麗に浄化してあげたい、なんて言えない。


 「それは願ってもないことだ」

 

 彼の合図で、四人の騎士が一斉に私の前に跪いた。

 多分、一生で一度の光景だろう。

 写メに残せないのが残念。……まあ、見せる人もいないけど。


 私は深呼吸をした。

 胸の奥に魔力を感じる。あたたかく、やさしく、光るもの。


 片手をあげて、天の光を呼ぶ。

 小さく祈りの言葉を口にすると、金色の光がふわりと降りてきた。


 「皆様の出立が安全でありますように——ご加護を」


 光が部屋を包み、ローレンツの胸元で静かに溶け、バルドゥの肩にやさしく宿る。

 ディーン様の髪にも、淡い金の粒が舞った。


 ……きれい。


 瘴気は残っていないみたい。

 ということは……頭は正常?


 けれど、クロード様とディーン様の様子が少しおかしい。

 クロード様は目頭を押さえ、ディーン様は天井を見上げたまま動かない。

 ローレンツとバルドゥは胸に手を当て、静かに祈っている。


 ま、まさか……これ、強すぎた?!


 「あ、あの、大丈夫ですか?」


 一番に我に返ったのはクロード様だった。

 クロード様の灰青の瞳と目が合う。目を少し細めて大丈夫だと言うように深く頷く。


 ディーン様に声をかけると、彼はハッと私を見た。

 頬に光るものが見えた。


 ……泣いてる?


 わ、私、泣かせちゃったの!?


 「すまない、しばらく一人にしてくれ」


 そう言って背を向けるディーン様。

 クロード様の合図で、私たちは静かに部屋を後にした。


 ——大丈夫だったのかな……。


 気になって仕方がなかった。



 いつも読んで頂きありがとうございます。次回は明日の朝になります。

 リアクションして頂けると、嬉しいです。

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