↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第3章 真実のかけら

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/44

42 静かな午後が走り出す


  小さな町に、ひとしずくの波紋が落ちた。


 「随分と過保護だな。他国に軍事力を持つ公爵がホイホイと入ってくる気か?」

 「国賓としての正式な訪問だと言っている」


 ディーンとフェルの睨み合いが限界に達しようとした、その時。


 「――まあ、話し合いなんて最初からする気はなかったがな」


 フェルが不敵に笑う。

 次の瞬間、ソファーを蹴って立ち上がると、ココの腰を長い腕でひょいと抱え上げた。


 「えっ!? ひゃっ……ちょ、ちょっと!?」

 「なっ、フェリクス貴様!」


 驚くディーンとクロードを尻目に、フェルは執務室の窓枠にひらりと飛び乗った。その身のこなしは、とても庭師のものとは思えない。


 「親父殿が死んだら寝覚めが悪いんでね。こいつは先にもらっていくぜ――十五歳の公爵殿」

 「待て、この誘拐犯!!」


 ディーンの怒声が響く中、フェルはココを抱えたまま、二階の窓から中庭へと躊躇なく飛び降りた。


 「きゃあああああ! 落ちる〜〜!」


 ココの悲鳴が風に攫われる。だがフェルは音もなく着地すると、鋭い指笛を鳴らした。

 ヒヒーン! と高いいななきと共に、一頭の立派な駿馬が駆け寄ってくる。フェルが身分を隠して乗ってきた愛馬だ。


 「さあ、急ぎの旅だ。舌を噛むなよ、ココ!」

 「ちょっと、む、無理です! 私、馬は苦手――心臓が……っ、無理無理無理!!」


 フェルはココを馬の背に座らせると、自らも軽やかに飛び乗り、手綱を握った。あっという間に馬は駆け出し、屋敷の門を風のようにすり抜けていく。


 開け放たれた窓の縁に、ディーンは無意識のうちに拳を打ち付けた。


 「あの野郎……絶対に許さん!!」


 ディーンは振り返り、廊下に控えていた護衛騎士に向かって怒鳴った。


 「バルドゥ!! 馬を出せ! 一番速い馬だ!!」

 「は、はいっ!? 閣下、一体何事――」

 「いいから急げ!! ココがさらわれた!!」


 普段の冷静沈着な辺境公爵の面影はどこへやら。十五歳の少年らしい焦りと怒りを爆発させ、ディーンはマントを翻して部屋を飛び出していった。

 残されたクロードは、開いた窓から吹き込む秋風を受けながら、静かに胃の辺りを押さえた。


 「はぁ、……だから言ったでしょう。あれはただ者ではないと」


 ♢     ♢     ♢


 こうして、ココを強奪したフェル。

 激怒してそれを追うディーン。

 そして巻き込まれたバルドゥ。


 国境へ向けた猛烈な追跡劇が、いま幕を開けた。


 「フェル! 急に出てきちゃって大丈夫なの?」

 「気になる?」

 「もちろんよ。私はディーン様達にお世話になっているんですもの」


 馬の歩みを緩め、フェルはココの顔を可笑しそうにのぞき込んだ。


 「そのうち追ってくるさ。国境にある宿場町で待とう。あいつも待ちぼうけているからな」

 「えっ? あいつって誰?」

 「さっ、急ぐぞ。舌を噛まないようにな」


 フェルはそう言うとまた馬の速度を上げた。


 「や、やめて〜〜! いくらなんでも速すぎるってば〜〜!」


 ココの絶叫が街道にむなしく響き渡った。


 ♢      ♢      ♢



 「ジル様、本当にフェリクス殿下はこちらに寄るんですか? まっすぐ帰られるんじゃ……」

 「お前、俺が何年殿下に仕えてると思っているんだ。大体のことはお見通しさ」


 ジルはイライラを隠すようにビールをあおる。

 付き人の二人はナッツをつまみながら、半ば呆れたように言った。


 「信じられないよなぁ」

 「お見通しなら、王都へ行くのも嘘だってわかったはずだしな」


 (鬱陶しいやつらだ。俺が一番振り回されてるんだぞ……)


 ジルは肩をすくめた。

 もう半月もこんな田舎町に滞在している。そろそろ殿下が姿を見せてもいい頃だ。


 ドアのベルがチャリンと鳴り、風とともに新しい客が入ってきた。

 何気なく視線を向けたジルは、マントのフードを外した青年を見て二度見した。


 金髪がランプの灯りにきらめいた。


 「フェリクス殿下!」


 三人の声が食堂に響き渡った。


 まさにその時だ。


 バンッ!!


 勢いよく食堂の扉が蹴り開けられた。


 「ココ!!」


 そこに立っていたのは、血相を変え、肩で息をするディーンだった。背後には、長時間の猛烈な乗馬で疲労困憊のバルドゥが、今にも倒れそうな青い顔をしてへたり込んでいる。


 「お、来た来た。遅いぞ?」


 つかつかとフェルに歩み寄るディーン。


 「貴様っ、どの口が言う」


 このままでは喧嘩になってしまうと、ココは半ばパニックになりながら間に飛び込んだ。


 「ディーン様! お、お迎えありがとうございます! ご一緒できて嬉しいです……!」


 不器用な平和主義者の精一杯のフォローに、フェルの胸ぐらをつかもうと伸ばされた手が、毒気を抜かれたようにココの腕をつかんだ。


 今にも飛びかかりそうなディーンに、ジルたちは目をむいた。「フェリクス殿下、一体何をしでかしたんですか」と言いたげに非難の目を向け、頭を抱えた。


 第二王子と辺境公爵。ココと付き人たちは呆然としていた。


 小さな宿場町の食堂に――役者が揃ってしまった。


 ジルは固唾をのむ。


 穏やかな午後の小さな宿場町。……のはずだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。