4 ココの野望
読みに来てくださってありがとうございます。
第4話前半は、いつも通り中庭で働くココと、
なぜかしょっちゅう神殿に現れる“あの騎士”のお話です。
ココの密かな野望(?)も垣間見える回です。楽しんで頂けると嬉しいです。
私の1日は夜明けと共に始まる。
その日も中庭を掃いていると、先日私に頭を下げていた背の高い騎士が向こうからやって来るのが見えた。
ここは神殿の中庭。でも、外部の人が簡単に入れる所ではない。
はて?どこへ行くのだろう。
そんな事を考えていると、彼は私の横にある石に腰掛ける。
んっ、邪魔だけど……。
「君は聖女なのか?」
騎士が唐突に聞く。
まだ日が昇るかどうかの時間帯だ。
私は、これからが忙しい。1日が始まるのだ。仕事は目白押しなのよ。
そんな事を聞きにわざわざ来るほど暇人なのだろうか?
神官に名簿を見せてもらえば済むことよね。
何か他にあるのかしら?
疑問が浮かぶけれど、外部の人とは話さないように、と言うのが神殿の方針だ。
私はなるべく目立ちたくはなかった。
目を付けられたら抜け出しにくくなるから。当たり障りのないように逃げるのが一番だ。
「いいえ違います。ただの見習いです。聖女様は白い衣装を着ていらっしゃいます。見習いはこのグレーの洋服だけです。ねっ、聖女様とは、違うでしょう?」
グレーのお仕着せを片手でつまんでクルッとまわって見せた。
無礼だと言って、いなくなってくれれば良いな、と思いながら。
騎士は手に持っていた何かをこちらへ、ポンと投げてきた。
見なくても感覚でわかる。魔石だ。
私はほうきの柄でコンとそれを打ち返すと騎士の手に戻した。
手もとを確認すると驚いた様に私を見る。
ナイスキャッチ!と心の中で言ってあげた。反射神経は良いみたいね。
「いきなり石を投げるのはおやめ下さい」
くれようとしたのはわかっているけれど貰うわけにはいかない。
ここは中庭なのだ、誰がどこから見ているかなんてわからない。
何の楽しみもない神殿では、格好の噂の種になる。
女子は噂話が好きなの。ある事、ない事、尾ひれがついちゃうんだからね!
「ほう、これが何かわかるのか?」
そんなの子供でもわかるでしょう?
バカにしているのかしら、と思いつつ頷いておく。
「見習殿、先日は助かった。ありがとう」
そう言ってまた深々とお辞儀をする。
騎士を謝らせている図なんて、想像するだけで、恐ろしい。
遠くから見たら、一体何が起こっているのかと、思われちゃう。
「騎士様、おやめ下さい。私はお手伝いしたに過ぎません。全ては聖女様がなされたことです」
穏便にこっそり去りたい私の野望が困難に満ちてくるからやめて頂きたい。と言う言葉の飲み込んで走り去ることにした。
逃げるが勝ちよね!
猛ダッシュでその場を離れ、柱の陰に飛び込む。そこでゼイゼイと息を整えた。
中庭の方をそっと覗くと、さっきの騎士がようやく立ち上がり、出口へ向かって歩き出している。
……よかった。どうやら追ってくる気はないらしい。
もう! 本当に困るんだからぁ~~~!
自由になって、この世界あちこち見て回りたいんだから、もうっ!
朝から晩まで働いて将来を夢見ているのにここで茶々を入れて欲しくなかった。
騎士に気に入られているとでも勘違いされたなら監視の目がきつくなる。
冗談じゃなかった。私の野望が危うい。
だのに、だのに、あれから、空気読めない騎士は何かと神殿に現れる。
背が高いから遠目でもわかるのが幸いで、逃げまくった。
……もしかして、これって付きまとい?と言う嫌な言葉が頭に浮かぶ。
精悍な雰囲気でイケメンだけれど、人は見かけにはよらないのかしら?
もっとも、ストーカーの人となりを知っているわけではないけれど、イメージ短気で神経質。
どちらも持ち合わせてはいなさそうだわ。
目立たないように過ごしてきた私に危機が迫っている。
あの背の高い騎士が現れてからは、かかわらないように避けている。
話しかけられるだけで、ここでは目を付けられるのだ。
ここを逃げ出すなら春か夏が良いんだ。
冬だとその後が大変そうだから、冬になる前に何処かの街に落ち着きたかった。
今は5月。
夏になる前にとんずらしようと思っていた。
中々踏ん切りがつかなかったけれど、これは良い機会かも知れない。
神様が私の後押しをしてくれているんだわ。
何事もポジティブに考えなきゃ。
そんな事を考えながら、その夜、奥庭で満月を眺めていた。
お読みいただきありがとうございます。
少しずつの更新ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ブックマークや感想、本当に励みになっています。
次回もどうぞよろしくお願いします。
明日の朝投稿予定です。




