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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第3章 真実のかけら

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34 静かに帰るつもりだったのに


 静かに帰るつもりだったのに。

 気づけば、いつものメンバー勢ぞろいでした。


 フェルは矢のように馬を操り、私は悲鳴を噛み殺しながら必死でフェルにしがみついた。日が暮れるころにお屋敷に着いた時は膝がガクガクして、生まれたての子馬みたいにプルプルだ。


 フェルがうまやの柱に寄りかかっている私を見て笑い転げた。


 な、なんて失礼なの!


 私が睨んでいると、すっと背を正してそばに来る。片手を差し出し、私の前に跪いた。


「姫様、お手をどうぞ」

「はぁ~、ふざけるのもいい加減にしてほしいわ。いったい誰のせいだと思っているのよ!」


 私は、その手をパンッと払う。馬には乗り慣れていないだけだし、おまじないを唱えればすぐに治るから放っておいてほしいのよね。


 払ったはずの手が、相変わらず目の前に差し出されている。

 まるで見えない壁に阻まれたみたいに、私はもう一度、しつこいハエを追い払うような手つきでフェルの手を拒んだ。


「あっち行ってくれる?」


 するとフェルは、その手を私の膝裏に回し、そのまま抱き上げた。


「ちょ、ちょっと、な、なにを……」


 私を軽々と抱き上げてフェルが歩き出そうとした、その瞬間。


「お前ら、何をやっている」


 鋭く低い声に呼び止められた。木の陰から現れたのは、赤い髪のランツだ。


「フェル、降ろして」


 私がフェルの腕から降ろしてもらうと、フェルは私を後ろへ庇うように前へ出る。

 なんだか雰囲気が、フェル対ランツ。

 開始ゴングを鳴らしたのは、まさかの、――わ・た・し?


 こんな時にバルドゥはどこへ行ったのよ~~!


「ランツ、ただいま帰りました。見回りご苦労様です」


 何気なさを装って私が声をかけると、ランツは冷ややかな視線を投げてくる。


「今まで、人様には言えないようなことをしたんじゃないだろうな」


 私はランツの言葉が核心を突いていたため、目が空中を彷徨った。図星です。皆には内緒のことをしていました。

 外に出たことだけでも十分怒られるのに、ディーン様たちまで絡んでいるなんて――。


 私の動揺している姿を見て、隣でフェルが噴き出した。


「ココ、ランツの認識はズレていると思うけど」


 フェルは震えた声でそう言うと、笑いを堪えるように肩を震わせて俯いた。


 この状況で、その態度って、いったい何なの!だいたい、十歳の私が何をするって言うのよ。


 フェルって笑い上戸だったのね。それはいいんだけど、ランツはますます憤慨している。


「この事を領主様が知ったらどうなるか。分かっているのか」

「僕たちは何も怪しいことはしていない」


 フェルがきっぱり言うから、私は彼の袖を引っ張った。

 だって、私たち……したわ。十分、怪しいことを。


 フェルの耳にこっそりと囁く。

「あれほど外に出るなって言われていたもの。しかもディーン様とクロード様が来ていたから。もう少しで鉢合わせだったし」


「ココ様ぁ~~!」


 情けないほどの大声を張り上げ、向こうからバルドゥが駆けてくるのが見えた。まるで怒り狂った赤い闘牛が、標的を定めてまっしぐらに突進してくるみたいだ。


「ひっ!」


 私はその勢いに押されてフェルの後ろに身を隠した。身の危険を感じるわ。


「ランツ、お前、まさか、またココ様に何かをしてないだろうな」


 バルドゥは来るなり、ランツの頭をバシッと片手で叩く。さすがに誤解だわ。まだ何もしていないからね。


「バルドゥ、待って。ランツはまだ、何もしていないわ」

「……まだ、だと?」


 私の言葉に、バルドゥは聞き捨てならないと言わんばかりに、さらに険しい顔でランツの胸ぐらを掴んだ。


「だ、団長。俺は何も悪くねえ。……あいつら、隠れてコソコソと……」


 ランツは最後まで言えなかった。バルドゥはランツを厩の壁に放り投げる。


「はぁっ! ココ様を守る以外にお前のすることはないんだ。まだ、分からないのか」


 バルドゥの両手が硬く握り込まれる。まっ、まずいわ。これは、殴るつもりよね。

 私は慌ててバルドゥに近寄ると、そっとバルドゥの腕に手を置いた。


「あ、あのう。お手紙読みましたか」


 そうよ、置き手紙を書いたんだわ。それでバルドゥが心配して、私たちを探していたのかもしれないわ。


「て、手紙? ……まさか、俺宛てに手紙を書いてくださったのですか?」


 バルドゥはハッとしたように私を見ると、みるみるうちに耳まで赤くして目を逸らした。


 えっ……?

 なんだか誤解していない?


「あ、いえ! 大したことではなくて……。ディーン様たちが戻られるから、その、歓迎会なんかの相談を……」


 とっさに思いついた言い訳を並べてみた。

 神殿に行ったのなら、早ければ明日、遅くとも数日中には戻られるはず。我ながら、窮地を脱するナイスな思いつきだわ。


「あっ、そうでしたか。では夕食後に打ち合わせを」


 バルドゥが少しがっかりしたように言った。

 私のお腹がそれに応えるように「きゅるる……」と、情けない音を立てた。


 私は慌ててお腹を押さえ、バッと周りを確認する。

 フェルは案の定「聞いたぞ」と言わんばかりにニヤニヤしているし、バルドゥは一切笑わず、逆に真剣な顔で「……すぐにご用意させます」と頷いている。


 その生真面目な対応も、フェルの意地悪な視線も、今はどっちも突き刺さるのよ!

 絶対に、全員に聞こえたわよね。あ~~恥ずかしい……。


 その時私は気が付かなかった。

 ランツが私をどんな目で見ていたかなんて……。





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