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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第3章 真実のかけら

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32 確かめたいことがあって


 確かめたいことがあって、私は神殿へ向かった。

 嫌な予感ほど、当たるものなのよね。


 早朝にお屋敷を抜け出すのは簡単だった。


(警備、大丈夫なのかしら?)


 心配になっちゃうけど、ディーン様たちがいらっしゃらないから警備も緩いのかしら?

 もともと、私なんて警備対象じゃないものね!


 そして、フェルのお馬さんは、ものすごい名馬だったみたい!

 昼過ぎには、もうアルゴ神殿のある町に入った。


 以前一度だけ泊まったお屋敷はどこだったかしら?

 あの時は右も左も分からなくて、連れて行かれるままだった。(今もだけどね)


「いや、前はこの街道にはよく魔獣が出たんだ。今じゃ嘘みたいだ」


 ああ、そういえばクロード様たちと領地に向かう時もそんな話をしていたわ。

 あの時に祝福をかけておいたのは、つくづく私に先見の明があったってことだわ。


 何となく自慢したくて胸を張る。言っちゃだめなんだけどね。


 んっんんっ! と咳払いしてみた。


「ココ? どうした?」


 フェルが心配そうに背中を叩いてくれた。


 ああ、違うんだけど。喉に何かが詰まったわけではないのよ。

 でも、いつも街道を通る人が無事ならそれでいいわね。誰かの手柄だなんてどうでも良いことよ。


 ちょっと、がっかりしながら手を振った。


「大丈夫です。何でもないわ。それよりもフェルのお馬さんは名馬ね」

「はは、そうだね。たしかに名馬ではあるけど、こんなに元気なのは初めてだな」


 やっぱり昨夜からのおまじないの水が効いているのね。私はそっとお馬さんのたてがみを撫でた。

 お馬さんは少し嬉しそうに鼻面を私に寄せてきた。最初は怖かったけど、一緒に乗っているうちにだいぶ慣れてきたわ。


 お互いに、ってことかしらね。


「ところで、アルゴ神殿にはどうやって入るんだ。門番がいたと思うが」


 なんだ、そこは簡単なのよね。


「門番の二人は、たぶん代わっていないと思うから、お酒の瓶をあげればいいわ。私は顔見知りでしょう。だから大丈夫」


 私は荷物の中から小瓶に入ったお酒を取り出した。予備も含めて数本ある。抜かりないのよ!


 そんなわけで門番の二人にはちょっとご挨拶して、お酒をあげればご機嫌で、クロエに会いに来ただけだと言えばすんなりと通してくれた。


 ……でも、なんだか前と空気が違う気がする。


 門番の笑顔が少し固いような……。

 気のせいかしら……。


 そんなことより、クロエが聖女見習いになったと聞いたの。

 たぶん夕方までは奥庭には戻ってこないと思う。

 アマリ様にご挨拶しておこうかな。


 ここから先にはフェルは連れていけないから、中庭で待ってもらうことにした。


「ここで待っていてね。ご挨拶したらすぐ戻るから」

「分かった。あの塔に行くんだな」


 フェルが何か言いかけてやめて、一瞬振り返った。


 そう、聖水の間は中庭を挟んだ向こう側にあるんだ。治療棟の隣。

 授業がなければたぶんクロエもそこにいると思う。聖女見習いたちが働く場所だから。


 まだここから離れて数ヶ月しか経っていないのに、雰囲気がすっかり変わっていた。

 なんていうのかしら、殺伐としているというか、人が少ないというか……。


 門番の二人が言うには神殿長は王都に出向いていて不在だと言ってたから、たぶん婚約式に呼ばれているんだと思う。


 聖水の間を覗くと、アマリ様以下数人の聖女と聖女見習いたちが、聖水を詰めているところだった。皆疲れた顔をしていた。雰囲気も暗かった。


 中で瓶詰めをしていた神官の一人が、なぜか私の方をじっと見つめてきた。


 え……?

 知り合いだったかしら?


 私は軽く会釈して通り過ぎようとしたけれど、その神官は目を見開いたまま固まっていた。


「……あれ……?」


 小さく呟く声が聞こえた気がした。


 どうしたんだろう。私、変な格好でもしてるのかな?

 そう思って首を傾げた瞬間、近くの棚に置かれていた聖水の瓶がほんの一瞬だけ、きらり、と光ったように見えた。


 気のせい……よね?


 神官は胸元の聖印を握りしめて、震える声で何か言っていた。


「……光が……戻った……?」


 でも、私には何のことだか分からない。


 それにしても、用意されている瓶の数が半端じゃない。ものすごい量だ。

 これじゃあ疲れるわね。扉の陰から覗いているとクロエと目が合った。


 ――さすがだわ。

 私の気配がわかるなんて、以心伝心ってやつね!


 クロエがそっとこちらにやってくる。


「ココ? どうしたの? もう追い出されたの?」


 私は急いで首を振った。


「違うの。近くに来たから寄っただけ。元気?」


 クロエは苦笑いをした。


「忙しくてね」


 そう言うと聖水の空き瓶に視線をやった。


「あの量は、大変だわ。何かあったの?」

「最近水の質が落ちていて、聖水を作るのも三人がかりなの。おまけにあの量だし」


 水の質が落ちている? なんだか最近聞いたことがある。そうよ、熊五郎が言ってたんだわ。


「それ、うちの領地でもあったわ。もしかして……私わかるかも」

「本当? どうすればいい?」

「とにかく水源に行かないとだめだわ。クロエ、わかる?」


 クロエは少し考え込む。下働きには教えてもらえなかったし、聖女見習いでも知らないかも。


「アマリ様に聞いてみる。ココ、良いかしら?」


 私は黙って頷いた。連れて行ってくれるといいけど……私はただの下働きだったからね。


 しばらくドアの横で待っていると、クロエがアマリ様についてこちらに来る。


「ココ、久しぶりね。元気そうで何よりだわ」


 私がお辞儀をすると、アマリ様が手を伸ばして止める。


「挨拶はいいから、クロエが言っていることは本当なのかしら」


 私は手短に領地で見たことを話した。アマリ様は少し何かを考えていたけれど、すぐに私の方に向く。


「行きましょう。何か出来ても出来なくても構わないわ。何が起きているのかを知らなければなりません。クロエ、あなたも付いていらっしゃい」


 そう言うと、聖水の泉の横にある扉から通路を通って地下へと向かった。


 




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