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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第1章 光のかけら

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3 ココ、隙を狙う


 そろそろ神殿に限界を感じてきた私。

 ……でも、ここを出るには“隙”が必要なのよね。


 自分には、人と違う記憶がある。

 そしてここは、前世とはまったく違う世界だった。


 前世で二十歳まで生きた私は、おとなしくて、ちょっと奇妙な赤ん坊だったらしい。

 手はかからないし、気づけば喋るし、なんでも一人でできた。


 でも孤児院では、それを不思議に思われることもなく、すくすく育っていった。

 だって、あちこちで子どもたちが泣きわめいてるんだもの。

 おとなしい子なんて、放っておかれるだけ。


 上手く孤児院を抜け出すつもりだったのに、なぜか神殿なんてところに送られてしまった。

 前世も今世も信仰心なんてカケラもないのに、まったく、ヤレヤレ……。


 でも、大学生だった前世の記憶はすごく役に立った。

 前世は魔力のない世界だったけれど、本の読み方や勉強の仕方は身についていたから、

 どんな本を読んでもスルスル頭に入ってくる。


 そう、この世界には魔力がある――まるでファンタジーの中みたい。


 ふふふ…… 


 本好きの私にはたまらない世界だわ。


 独学で魔力操作を覚えた。最初はヨガの呼吸法を応用した。


 大事なのは、呼吸と想像力よ!


 今では魔力を扱うなんてお茶の子さいさい。


 えっへん!


 人との距離の取り方も学んだ。

 必要以上のことは言わない。


 孤児院の経験から、能力は隠すのが一番だと悟ったの。必要最低限しか働かないわ。


 どんなに簡単なことでも「大変です~!」と大袈裟に嘆くくらいがちょうどいい。

 

 そんなある日、私は気づいてしまったの。

 ここは、聖なる場所なんかじゃない。


 ――この神殿、正しくないって。


 神殿のやり方は汚かった。


 信仰心はないけど、正義感ならある。

 悪代官みたいな神官たちのやり方、許せない!


 いつか成敗してやりたい!


 女の子が危険を助けてくれた騎士様に惚れるのと同じように、

 怪我を看病してくれた“聖女様”に落ちていく男の人たちを何人も見てきた。


 目が覚めると、優しくて綺麗な聖女様がニッコリ微笑む――。

 その裏で、悪代官(もとい神官様)は、けが人の素性や家族構成まできっちり調べておくのだ。


 そして狙いを定め、獲物を逃さない。

 「聖女」という名の魔女たちが、微笑みながら男を虜にしていく。

 

 この町は国の外れ、辺境に近い。

 来るのは魔物と戦う騎士ばかり。

 そんな彼らを、神殿は“聖女”を使ってコントロールしていた。


 聖女を嫁にして、その家ごと神殿の傘下に取り込む――それがこの町の神殿のやり方だ。


 まさに、“聖女という魔女たち”だ。


 さっき見た患者たちも、いずれ聖女様の餌食になるのだろう。

 身なりからして、かなりの貴族に見えた。


 ――悪代官のお手並み拝見、ってところね。


「はぁ~~~っ」


 大きくため息をついた。

 私もその一端に関わっていると思うと、頭が痛い。


 ただ、人を助けたいだけなのに。


 ……もういい。神殿を出よう。

 これ以上、利用されるのはイヤだ。


 今は従順なふりをして、チャンスを待つ。


 もう十歳。十二歳までに出ないと、洗礼の儀式を受けなければならない。


 神殿との正式な契約を交わし、抜け出しにくくなってしまう。

 おまけに、教育という名の、洗脳教育まで始まる。

 

 前世の知識のおかげで、私は気が付いたの。


 外部との接触がない神殿。神殿の女神様を絶対だと思わせる教育。

 少しでも疑問を持とうなら、暗示を掛けていた。


 たまたま聖水を取りに行った時に、見てしまった。

 窓のない小さな小部屋で行なわれていることを。


 だから私は気をつけている。


 従順なふりに、出来損ないなふり、だけどいれば役に立つ。

 そうして身を守る。


 「ココ、大丈夫? 少し休んだ方がいいんじゃない? だいぶ魔力、使ったでしょう?」


 戻ってきた私に声をかけたのは、一つ年上のクロエ。

 同じ見習いで、彼女は癒やしの魔力が使える。


 ケガの手当てでは引っ張りだこ。

 どんな傷にも効くのだから、そっちのほうがよっぽど役に立つ。


 クロエはもうすぐ“聖女見習い”になる予定だ。


 「ううん、平気。」


 クロエは、私が密かに瘴気を払っていることに気づいている。

 けれど、何も言わない。優しい子だ。


 ……できれば、クロエと一緒に出たかった。

 でも、彼女は聖女様に憧れている。たぶん、神殿を離れることなんてできないだろう。


 夜空を見上げると、満月が輝いていた。


 月の光は陰の力を強め、魔力が世界に満ちていく。

 魔物たちの活動が活発になる夜――。


 その光を見上げながら、私は静かに決意した。


 この世界で、今度こそ自分の意思で生きるのだと。



 読んでくださりありがとうございます。

 次のお話は明日の午後の予定です。

 良かったらリアクションもらえると嬉しいです。

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