27 正義という名の思い込み
それぞれの思惑が、静かにすれ違っていく。
その小さな違和感が、やがて大きな波紋になることも知らずに。
「殿下~~~~!!!お待ちくださ~~い~~」
遙か後方から、ジル達の声が聞こえて来る。
ふん、誰が待つものか。
それにしても、馬の水の効果は凄いな。あっと言う間に全員置いてきぼりだ。
まっ、これは想定内だ。俺はここから別ルートを行くからな。ジルには、はぐれたら王都で待ち合わせるように言ってある。永遠に待ちぼうけ確定だ。
俺は王都になんぞ行かない。目指すは、ポプリを手に入れた街だった。母上はポプリさえ持って帰れば特に文句は無いだろう。
俺の勘は、王都ではないと告げていた。あっちだ。
もうここまで来れば大丈夫だと思い、馬の歩みを緩めた。この間もそうだが、この領地に入ってからは空気が澄んでいる。心なしか、お天道様も輝いて見えた。
祭りはもう終わってしまっているな。胸に街で出会った少女の面影がふんわりと浮かんだ。良い香りだ。それにしてもあの赤毛の騎士さえ見つければ、またあの香りを手に入れられるだろうか。
新鮮な空気を思いっきり吸い込む。
良い日になりそうだ。
♢ ♢ ♢
「お前は今日から下働きだ」
そう言って副団長がほうきをこちらに投げてよこした。
「くそっ!」
思いっきりほうきを庭にたたきつける。
俺の手はほうきを持つためにあるんじゃねぇぞ。一体何だって、毎日庭掃除なんだ。騎士になりたくてずっと頑張ってきたと言うのにだ。
1に素振り、2に素振り、3、4がなくて5に素振り。毎朝じいちゃんとやって来たんだ……
くそっ、くそっ!
俺はほうきを振り回した。学園での失敗がこんなことになるとは思わなかった。
王都で赤い制服の近衛隊に入るのが俺の夢だった。小さい頃からあこがれていた、従兄弟の兄貴はそれは格好良かった。王家を直接護衛しているんだ。先鋭揃いだと聞いていた。
それが突然の辺境の騎士団所属になり気の毒に思った。
まさか……自分が学園卒業と同時に行く事になろうとは……
とほほほ……
全てはあの女のせいだ。いいや、あの女がいたという神殿のせいだ。
ここの領主様もクロード様も団長達だって、俺と同じだ。
あの神殿から来た子に、気付かぬうちに絡め取られている。
目を覚まさせてやらないといけない。今がチャンスだ。皆王都に行っているからな。
そう思うと元気が出てくる。
あのやせっぽちなガキは、大抵屋敷の庭にいるからな。屋敷じゃ誰も彼もがあいつに気を遣う。それも気にいらねぇな。
ふん、今に見てろ。皆を助けるんだ。
そういやこの間野菜を売りに来たおばさんが人手が欲しいって言ってたな。そうか、良いことを思いついたぞ。
屋敷の庭に行くとやせっぽちなガキは、やたらと機嫌良く歌を口ずさみながらほうきを振り回していた。
俺と同じく庭掃除をしていた。俺を見るとあいつは愛想良く手を振ってきやがった。
ふん、俺はその手には乗らない。王都で懲りたからな。清楚な顔をした、とんだ毒婦だった。
「おい、お前、働かないのか?」
俺が聞くと、申し訳なさそうに俯いた。
けっ、しおらしいふりは、あの神殿の18番だからな騙されないぞ。
「俺が、良い勤め先を紹介してやっても良いぞ」
「本当?」
ガキは嬉しそうに目を輝かせて俺を見た。
濃い紫の瞳は、紫水晶みたいにキラキラしていやがる。金の光の筋まで入っているぞ。見た事のない瞳に見入ってしまいそうになった。
ダメだ。目を合わせたらいけない。石になっちまうかも。
そんな恐怖が背筋に走る。急いで目をそらせた。
「お、俺に付いてこい。どうせ暇なんだろう」
俺はそう言うと、丁度野菜を届けに来た農家のおばあさんに、1週間の期限付きで貸し出した。
「ディーン様たちが帰る前までだからな」
おばあさんにもガキにも念を押した。バレると俺の身が危ない。それぐらいはわかる。
せいぜい、庶民の労働を味わってくるんだな。
俺はスッキリした気分になるはずなのに、どこか取り返しの付かない事をしているような気分になった。
くそっ、一体何なんだ!
その胸騒ぎが、正しいものだと知るのは、もう少し先の話だ。
いつも読んでくださってありがとうございます!
今、年末に出した新作の続編もゴリゴリ執筆中でして、どちらも全力で書き上げるために、本作の更新を一旦**「週1ペース」**に調整させていただきます。
お待たせする時間が増えてしまい心苦しいのですが、面白い展開にできるよう頑張ります!
続編の方もあわせてチェックしていただけると、執筆の励みになります!これからも応援よろしくお願いします。
次回は来週の土曜日に更新します。




