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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第3章 真実のかけら

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23 金貨一枚のポプリ


 辺境騎士団に訪れた、穏やかで不思議な変化。

 だが、金貨一枚の善意が、静かに波紋を広げていく。


 辺境騎士団の執務室で、クロードは窓から訓練場を見下ろしていた。


 ここ辺境は魔の森との境にあり、いつ何時魔獣が現れるかも知れない。訓練場の騎士を始め騎士達は三交代制を取っている。若い騎士が多いせいか、血気盛んでいざこざも日常茶飯事だ。


 特に夜勤明けの騎士は、朝番の騎士が来ないと交代できず、トラブルも絶えなかった。

 寝坊が多いのが原因の1つに上がっていた。


 毎度呼び出される副団長達もたまらないだろう。


 そんな事を考えながら訓練場を見下ろしている。


 ここ数日、妙に静かだ。特にトラブルの報告は上がってきていなかった。

 だが騎士達が落ち着いた理由まではわからない。


 こんな日が続けば良いな、位にしか思ってはいなかった。


 「団長、ポプリの効果は凄いですね」


 そう言って部屋に入ってきたのは青い髪のローレンツだ。


 「どう凄いんだ。俺にはわからないが……」


 こいつらには、ここの光が見えていないはずだ。興味津々で聞いて見る。


 「いつも寝坊している奴らが、皆スッキリ起きられた。と言うので遅刻組がいなくなりました」


 寝坊が減ったのか?

 なるほど、よく寝られるとか、まあ、確かにそんな事は言ってたな。


 「皆、朝の挨拶は大事だなんて言い出して、自分の仕事でもないのにゴミ拾いもしてます」


 挨拶に、ゴミ拾い?ポプリと関係があるのか?


 「それが、ポプリとどう関係するんだ?」


 クロードは腕を組むとローレンツに向き直る。


 「良い香りに、ごみは似合わないとか言ってました」

 「なるほど」


 確かにゴミダメに花はおかしいな……


 「お前は、何かここの所変わったことはあるのか」


 ローレンツは上着を脱ぐとシャツの袖をめくった。何だ、腕自慢か?


 「バルドゥと毎朝、腹筋、背筋、腕立て伏せにランニングをしているんですが、ここ数日は調子よくて、つまり、今までの5倍は動けています。時間さえあればもっといけそうです」


 そこまで聞くとクロードは頭が痛いと言うように手を額にあてる。


 筋トレ5倍か……


 ……やっぱりココの力か? だが説明のしようがない。

 考え込んでいるとローレンツが心配そうに声をかけてきた。


 「団長?大丈夫ですか?」


 ”団長はポプリもらわなかったのかな……”などと呟いている。


 「ああ、わかった。報告事項が出来たから、ディーンの所に行く」


 クロードはそう言うともう行けとばかりに片手を振った。


 落ち着いた何の変哲もない日常。だが、確実に今までとは違う。

 

 これは何と説明がつくのだ。こんな事態は初めてだった。


 部屋を出て急ぎディーンの所へ向かおうとしていると、バルドゥが先日王都から連れ帰った、従兄弟のランツを引っ立てていた。


 ポプリのおかげでトラブルが減ったと聞いたがどうしたんだ?


 「バルドゥ、どうした」

 「団長、聞いて下さい。この野郎、先日ココ様から頂いたおまじないの水とポプリを街で人にやっちまったんです」

 「はあっ!あれは門外不出と言っただろう。ディーンに報告案件だな。一緒に来い」

 「ばかっ、だから言ってるんだ。少しは反省するんだ。いいな!」


 赤毛のランツは一回り大きなバルドゥに首根っこを掴まれて引っ立てられて行った。


 「ディーン、ちょっと良いか」


 俺がディーンに声をかけると、バルドゥがランツを引っ立てて、乱暴にディーンの前に正座させた。


 「顛末を説明するんだ。いいな」


 ランツはバルドゥに言われて渋々と口を開いた。


 「街で隣国から来た人が困っていたので助けただけだ。文句を言われる筋合いはない。たかがポプリと馬の水だろっ」


 バルドゥがバシーンとランツを殴る。筋トレ5倍の成果は、ランツが壁に激突すると、口を切り血が滲んだ。


 「何があったか、最初から説明しろ。バルドゥ、もういい、手は出すな」


 クロードが冷静な声でいう。


 「聖水を探してると言われた」


 (聖水…面倒な単語が出たな)


 「聖水は神殿がこちらには出さないと、皆に通達したと思うが」

 「はい、団長、騎士全員に徹底しております」


 バルドゥはピシッと背をただす。

 「聖水は売ってないと言いました」

 「そしたら、腰に下げていたポプリを手にとり、せめて土産に売ってくれと、金貨1枚出すのです。金貨ですよ、団長」


 「金貨だと!」


 クロードはもの凄い形相でランツの襟首を掴んだ。


 「どんなやつだ、まだ街にいるのか?まさか……おまじないの水もそいつに売ったのか……」

 「ポプリ1つを金貨でなんて、釣りもないし、おまけに馬の水も付けてやっただけです」

 「ぬっ、貴様……」


 ディーンが側によるとクロードの腕に手を置いた。


 「やめろ、クロード」


 いつになく低い声で言う。その低い声音に、バルドゥでさえビクリと肩を震わせた。


 「バルドゥ、お前の従兄弟だ。ちゃんと教育をするんだ。いいな。しばらくは反省室に入れておけ」

 「はっ、申し訳ありません」

 「それから、急いでランツがポプリを売った旅人の行方を捜すんだいいな」


 そう言うとディーンはバルドゥに早く行けと手を上げた。


 二人が部屋から出て行くとディーンは疲れたように息を吐く。


 「クロード、冷静になれ、これをどう見る」


 確か、影から報告が上がっていたな、例の客人が、聖水を探して我が領地に入ったと。

 クロードは咳払いを一つする。


 「隣国の高貴な者がお忍びで来ているとは報告が上がっています」


 落ち着きを取り戻した。冷えた声で言う。


 隣国の手に渡ったとなれば事は重大だ。国内いや、領内でさえ出回っていないのだから。


 「ああ、聞いている。だが、隣国の手に渡ったとなると、まずいな。兄上に報告をあげなければならない」

 「エドガー殿下、ですか……」

 「兄上は外交問題に最も敏感だ。下手をすれば、辺境だけでは済まない」


 執務室で頭を抱える2人であった。



 


 次回は明日投稿します。

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