22 おまじないの水とポプリ
のんびりした領地で、今日もココは良いことを思いつく。
それが、思わぬ波紋を広げていくとも知らずにーー。
翌朝、庭で草木に水をやっていると、ローレンツが手押し車に木箱を積んで運んでいるのが見えた。
あれ?どこへ行くんだろう、何を運んでいるのかしら?
手を振るとローレンツは嬉しそうな顔をして、こちらの方へやって来た。
ローレンツの額には見慣れない汗が浮いていた。
朝からそんなに走ったの?
私は興味津々で木箱の中を覗く。
木箱の中にはビッシリと水の入った小瓶が並んでいた。
あ、もしかして昨日のお水かしら……
「ココ様、丁度良かった。クロード様がこれにおまじないをと言っていて……何のことだかわかりますか?」
ローレンツは怪訝そうな顔をして、聞いてきた。
「昨日のお水はどうしたの?」
やっぱりお馬さんに悪いと思って、お馬さんに戻したのかしら?
「あ、あれはもう配り終えました。まだ足りないのと予備の分です」
「あ、そうなのね。ちょっと待ってね」
私は、おまじないは得意なのよ。
ちょっと自慢げに腕まくりをする。
それから人差し指を立ててローレンツの前に差し出した。
「いい、よく見ててね」
ローレンツは何が始まるのかと、期待に胸を膨らませている……と、思う。
人差し指を空中で、くるくるっとまわした。それからいつものおまじないを唱える”ちちんぷいぷい”そして、えいっと指で木箱を指した。これでおしまい。
どうだとばかりにローレンツを見るけど、木箱に目をやったままこちらを見ない。
んっ?終わったんだけど。
「ローレンツ、かけたわよ。おまじない」
……静寂。
ローレンツは木箱と私を交互に三回見てから言った。
「……あの、終わりですか?」
私は力強く頷く。何か問題でもあるかしら?
ローレンツは何か首を傾げたままだ。
さっきと何の違いもないけどなぁ~~などとぶつぶつ小声で呟いているのが聞こえる。
私、地獄耳なんだから、失礼ね!
でも香水を入れるみたいなちいさくて綺麗な瓶。
物足りないのもわからないでもない。
そうだわ!
私は両手をパンッと打つと良いことを思いついた。
「ローレンツ、実はね、最後の仕上げがあるの。ちょっと待っていてね」
私は、庭の隅で作っていた、小花のポプリを手に取るとローレンツに渡す。
「これは……入れるのですか?」
「可愛いでしょ? お水って見た目も大事なのよ」
「……は、はあ……(そういうものなのか?)」
「いい、見ててね」
そう言うと瓶を1つ取って蓋を取り、中にポプリの花びらを落とした。
ピンクや薄紫のポプリが水に映えて綺麗だ。
「こんな風に、ポプリを入れてね。色は揃えた方が良いのよ。黄色は黄色だけとかね」
そう言って、二人で瓶にポプリを入れていった。
ローレンツはこれは綺麗ですね。と言いながらご機嫌で手押し車を押して戻っていった。
ふふふ……今日は、朝から良いことをした気分。
何か良いことがありそうな気分だわ……
♢ ♢ ♢
数日後。一仕事終えてのんびり昼を食べていると、侍女達がひそひそ話していた。
「クロード様とディーン様、今日は随分早くお戻りね」
え、もう帰ってきたの?
まだ昼よ?
何かあったのかしら……と思いつつ、私は今日のおやつをどうしようか考えていた。
その時、侍女が私を呼びに来る。
「クロード様がお呼びです」
あら、やっぱり何かあったのね。
もしかして、この間のポプリ入りのお水のことかもしれない。
ついに、褒めてもらえるのかしら……!?
スキップしそうな気持ちを抑えながら、執務室の扉をノックする。
部屋に入ると、机の上には色とりどりのポプリ入りの水が並び、光を受けてキラキラと輝いていた。
やっぱり綺麗!ポプリを入れて正解だったわ。
ディーン様は書類から顔を上げ、クロード様はソファーから立ち上がる。
「ココ、こちらにかけてくれ」
促されて座ると、クロード様が正面、ディーン様が横に座り……なんだか面接みたいな雰囲気になった。
えっ、今さら面接?
もうここに来て二ヶ月は経っているのに。
「悪いね。今まで君のことをちゃんと聞いてこなかった。生い立ちや神殿でのこと、仕事内容を教えてくれるか?」
ディーン様の優しい声に、ああそう言えば……と思った。
私は突然“身請け”されて、この領地でふわふわ過ごしていただけだもの。
孤児院で育ったこと。
鑑定も受けず神殿に入ったこと。
下働きの内容。
そして神殿で読んだ本のことを話すと、ディーン様は特に本の話に興味津々だった。
(本好き仲間だわ……ふふ。図書室、期待できそう!)
「君は魔力測定を受けていないな」
クロード様の問いに頷く。
「君は魔法を使える。違うか?」
え……どうなのかしら?
治療魔法は使えないし、何かを動かしたり壊したりもできない。
でも、前世の知識を使って色々やっているのは確か。
私は首を傾げた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
※少しだけお知らせ
年末に向けて、短い完結作品を一本予定しています。
詳細はまた近くなったら。




