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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第3章 真実のかけら

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20 ココとポプリ


 初夏の庭は花盛り。

 もったいない気持ちから、私は少し楽しいことを思いついた。


 ここ、ディーン様の領地では、 初夏にかけて花々が咲き乱れ、私は庭仕事に忙しい。

 

 綺麗な花びらがもったいなくて、ふっとひらめいた。


 そうだ、ポプリを作ろう!


 色とりどりの花々を乾燥させて、小さな袋に詰めていく。


 レース編みの小さな袋に詰めてリボンを付ければ、前世でよく見た、神社のお守りの袋みたい。


 ……うん、これは可愛い!


 いつも世話になっている人に向けに、たくさん作っちゃった。もちろんお屋敷の侍女達にも手伝ってもらった。


 「ココ様、このポプリは本当に良い香りですね」

 「でしょう。お部屋に置いておくとリラックス効果もあるし、枕に入れておくとよく眠れるのよ!」

 

 私が言うと皆一斉に頷く。


 「これを販売しても、良いんじゃありませんか」


 おお、もしかして、居候のお金ぐらい払えるかも知れない!

 顔を上げるとパンッと両手を打った。


 「えっ!本当!?」

 思わず声が裏返った。


 「誰に相談すれば良いかしら?」

 「やっぱり、クロード様かディーン様の許可は必要になりますよ」


 なるほどね、聞いてみる価値はありそう。


 「今日はフルーツティーもお作りになっているから是非お茶のお誘いをされてはいかがですか?」

 「そうね、お二人ともお屋敷にいらっしゃるかしら?」

 「いらっしゃいますよ」


 と聞いた瞬間、ぱっと顔が明るくなる。

 ——いいタイミング!


 後ろから侍女長のマドレーヌの声がした。


 「ココ様。丁度、お呼びしようと思っていました。先ほどお戻りになられましたので」


 そう言うことなら、善は急げね。私は、山のように作ったポプリ達と、たっぷりのフルーツを入れたティーポットに熱々のお湯を注いで蒸らすと、自らワゴンを押す。


 「ココ様。お待ち下さい!」


 後ろから侍女達の声が聞こえるけど、待ってなんかはいられません。私、仕事は早いのでね!


 ディーン様の執務室のドアをノックする。


 「入れ」

 クロード様の低く響く声がした。


 ワゴンを押しながら部屋に入るとクロード様とディーン様は打ち合わせの最中だったみたいだ。書類から顔を上げたディーン様がワゴンに積まれたポプリの山に目を留めた。


 「ココ、今日は何のお茶かな、良い香りがする」


 そうなのよね、最近はお茶と茶菓子が楽しみみたいで、午後のこの時間は、戻ってこられることが多くなったの。領地が落ち着いていることもあるみたいなんだけどね。


 「ふふふ……今日はフルーツティーにプラムのタルトです」

 「で、その山のように置いてあるのは、何かな?」


 「これは、ポプリです」


 私はお二人用に特別に仕立てた物をお渡しした。

 水色のリボンがディーン様、青灰色のリボンがクロード様だ。


 「えっと…お守りみたいな物で、よく眠れるの」

 「はっはっ、そりゃいいな。だが、私は不眠ではない」


 クロード様が面白そうに言う。

 袋の匂いを確かめる様子がどこか犬みたいで思わず微笑んでしまう。


 「クロード、これはなかなかの物だ。そう思わないか?」

 ディーン様が言うとクロード様も頷いた。


 「安眠効果だけではないな」

 「その山はどうするのだ」

 「街で売れば、居候のお金ぐらいにはなるかなと……どうですか?」


 顔色をうかがうように言うと、ディーン様が驚いた様に目を見開いた。


 「そんな事を気にしていたのか……君は大切な客人だよ……」


 一瞬、室内に静寂が落ちた。

 ディーンはポプリに視線を落とし、何かを量るように指先で袋をつまむ。


 「ディーン、これを騎士団で買い取りたいが。どうだ」


 クロード様が口を挟んだ。

 ディーン様はクロード様と目を合わせると力強く頷いた。


 「ココ、今回はそうさせてくれるか?騎士達をねぎらいたいからな」


 そうか、騎士達は不眠症が多いのかも知れないわ。少しでもお役に立てば嬉しい。


 「えっ!それなら全部あげます。ディーン様からお金なんて受け取れません」


 私は慌てて手を振る。お世話になっているのにお金までもらうわけにはいかない。


 ディーン様は空色の瞳を優しく細めた。


 「ならば、ココ、そなたも気にするな。どうだ、ここにいることが気になるなら、今後、何か作ったら僕にくれないか?クロードでもいい。どうかな」


 「えっと……それで良いのでしたら。たいした物は作れないですが……」

 「良いんだ。君が作った物は大切にしたいから」


 う~~ん、ディーン様の言う事が良くわからなかった。ポプリなんて騎士団がもらって嬉しいのかしら?前世のイメージだと女性が喜びそうなんだけど……


 あっ!もしかしたら、騎士団の宿舎が汗臭いとか、靴下が臭いのかしら。


 ……ううん、さすがに失礼よね?


 じゃあ今度はブーツに入れるようなのを作った方が良いかも。


 でもそれを、ディーン様やクロード様にあげるって言う事は、靴下が臭いって言ってると思われちゃう!悩みどころだわ。


 そんな事を考えていると、よっぽど難しい顔をしていたみたいで、ディーン様に働き過ぎじゃないかと心配された。とんでもない誤解だ。いつも遊んで、美味しい物をたくさん食べさせて頂いているから。


 焦って、両手も、顔もブンブン振った。


 どこまでも笑い声の響く午後だった。



     ♢      ♢     ♢



 夕食も終わりディーンは、執務室の机に積まれたポプリを手に取る。


 部屋にはクロードと二人だけだ。


 「クロード、気が付いたか」

 「ああ、祝福をかけたてあるのか?淡く光を帯びている」

 「これを身につければ、瘴気に侵されることはない。危うく街に出回るところだった。下手をすれば国が揺らぐな」


 ディーンの目にはキラキラ輝く光の粉が振ってあるように見えた。安眠効果もあるだろうが、それどころの効果ではないだろう。気が付く者がいないのが幸いなのか……


 ポプリを手に取りながら、夕闇に目をこらす。


 君はどれだけのものを、もたらすのだろう。


 「目が離せないな」


 その言葉にクロードも頷いた。



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