表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第2章 闇のかけら

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/24

14 高笑いが止まらない


 ミレイユ視点の回。

 順調すぎる彼女に、まだ気づけない影が近づいていました。


 王都の宮廷は、朝の光を浴びて静かに輝いていた。


 大理石の廊下が白く反射し、開け放たれた窓からは花の香りを含む風がそよぐ。


 その先の中庭では、小さなお茶会が開かれていた。


 その中心には一見清楚な少女。


 サラサラと流れる金髪は、そよ風に吹かれ、少し風になびいた。

 小さな顔は愛らしく切れ長の深紅色の瞳を伏し目がちにしている。

 

 清楚な印象は、彼女が顔を上げた瞬間に崩れ去った。


 「フフフフ、ついに私の時代ね!」

 高らかに笑うのは、聖女ミレイユ。


 先ほどまでの清楚な雰囲気はもう、みじんも感じられなかった。

 胸を張り、まるで世界の中心は自分だと言わんばかりの誇らしげな姿だ。


 その傍らでは、取り巻き達が笑顔で付き従う。

 誰もが、彼女の華やかな表情に見惚れ、口元を緩めてしまう。


 「第二王子殿下との婚約が決まったわ!」

 その声は、宮廷中に響き渡る。


 「ミレイユ様の魅力にはリアン殿下も骨抜きですわ」

 「私にも、その手腕、ご伝授頂きたいですわ」


 口々に褒め称えられてミレイユはご機嫌だ。


 「神殿での奥義ですわ。お教えすることは出来ませんのよ」


 その言葉に少女達は少しガッカリしたように、息をつく。


 「お見事でしたわ。あのエリザベート様でさえ、お二人の仲睦まじいお姿には、何も出来なかったのですもの」


 エリザベート フロレンティス公爵令嬢、リアン第二王子の元婚約者。


 幼い頃から仲良く育ったであろうお二人の仲を裂くのには、苦労した。


 華やかな金髪を綺麗に縦ロール。魅惑的な瞳はエメラルド色。魔力も高く頭も良かった。

 ただ、その分、リアン殿下が少し劣等感を持っていたのだ。


 それに気がついた時、勝機を確信した。


 学園に入って一番最初にする事は、神殿で習った事を確かめる事。それに練習も必要だった。


 はじめは、おとなしい男が良いわ。後で捨てても後腐れないようなタイプ。


 そこで目を付けたのが、おどおどした伯爵家の次男。どちらかというと内向的な人物で、実験や魔法がすき。女子とは縁がなさそうなタイプだ。


 あれで試してみようかしらね。男はプライドが高くて、庇護欲があるって言うけれど……


 観察すること数日、教室でもいつも一人で本を広げていた。


 最初は偶然を装いぶつかり、彼が読んでいるのと同じ本を落とす。


 その後は距離を詰めるのは容易だった。


 頬を赤くして戸惑う姿があまりにも単純で——


 ほんの少し“大人の階段”を登らせてあげただけで、忠実な犬になった。


 最初の実験台としては十分だった。今でも私の大事な情報源よ。


 次に目を付けたのは、赤毛の脳筋。将来は騎士を目指していると言っていた。


 筋肉を褒めれば簡単に心を許す。少しボディータッチは多めにして、甘えたように下から見上げれば、直ぐに抱きしめてきた。


 ふふふ……。チョロかったわ。


 落とすのは簡単でも、処理は少し厄介だった。騒がれたら困るから、神殿に手を回して黙らせたわ。

 彼はもう出世は出来ないだろう。良くて辺境の騎士団ね。


 優雅にお茶をすすりながら、思い出す。男なんて簡単に引っかかるわ。


 ウサギ小屋に紛れ込んだ狐って、こんな気分かしら。


 さすがに、私も、もうこれ以上、他に手を出すわけには行かないから、本命のリアン殿下に的を絞ったの。


 王族だけあって、身持ちが堅い分、攻略には時間がかかったけれど……神殿の“心理操作”の授業は伊達じゃない。


 思春期の男なんてチョロいものね。

 神殿で身につけた“心の扱い方”が、本当に役に立つわ。


 私は取り巻き達と優雅にお茶を飲む。後は卒業のダンスパーティーで、エリザベートの悪事を発表して断罪。


 準備は万端。証拠もバッチリねつ造してある。あの伯爵家の次男が良い仕事をしてくれた。


 そして婚約破棄。エリザベートの悔しがる顔を思い描いてまた笑いが止まらない。

 散々、私のマナーがどうだとか、言葉遣いがなってないとか、うるさくてしょうがなかった。


 リアン殿下が窮屈に思うのもわかるわ。おかげでこっちはやりやすかったけどね。

 その後、私達の婚約発表よ。


 後一ヶ月もすれば全ては、私の物になるわ。


 「ほっーほっほっほーー」


 広い中庭に、聖女の高笑いだけがいつまでも響いていた。


 なぜだか、今日は光が少し霞んで見えた。

 ミレイユは気のせいだと笑い飛ばしたが——


 その笑い声の奥、どこかで小さな闇が確かに揺れた。


 


 




 いつも読んで頂きありがとうございます。次回は土曜日投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ