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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第1章 光のかけら

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10 明けの明星


 明け方の祝福の余韻がまだ胸に残るまま、静かな朝を迎えます。


 その夜は、空気がやけに澄んでいた。


 街道沿いの林のそばに野営の灯りがいくつも瞬いていて、焚き火の匂いが風にのって流れてくる。


 皆、もう眠っているみたい。見回りの騎士か枯れ葉を踏む音が静かに聞こえていた。


 あの道、ずっと魔獣が出るって言ってた。

 それなら――少しでも何か、出来ることをしておきたい。


 毛布をそっと抜け出し、夜風に身をすくめる。


 出来るだけ野営地から離れて少し小高い丘の上まで登ってきた。

 月は隠れているけれど星々の明かりが地上に落ちていた。


 空を見上げると、星がこぼれ落ちそう。手を伸ばせば届くかしら……


 心の奥で光が小さく揺れた気がした。


 草の上に膝をついて、両手を合わせる。


 静かに息を吸い、吐いて――


 「風よ、夜の穢れを払い、

 この道を行く者たちを光で包みたまえ……」


 掌から淡い光がこぼれた。

 それは藤色と金の糸が混ざり合うような、柔らかい光だった。

 草の上を伝って、ゆっくりと広がっていく。


 光が星座みたいな形を描いて、地面の上で輝いた。

 まるで夜空の星が、降りてきたみたい。


 風がひとすじ、髪を撫でる。

 草がざわめいて、森の奥がざわりと息をした。


 「……え?」


 光が一瞬、強く瞬いて――すぐに静かに消えた。

 その瞬間、世界の音が止まった気がした。

 辺りはまた夜の闇に包まれる。


 胸の鼓動が早い。

 でも、不思議と怖くなかった。


 「きっと、うまくいった……はず」


 空気が少しだけ柔らかくなった気がする。

 どこか遠くで、梟がひと声鳴いた。


 夜の静寂の中、私はそっと両手を胸に重ねた。


 そのとき――

 森の奥で、何かがこちらを見ているような気配がした。


 「……?」


 目を凝らしてみたけれど、そこには何もいなかった。

 気のせい、かな……。


 東の空が、うっすらと白んでいく。

 朝が、すぐそこまで来ている。


 「これで、もう大丈夫ね、きっと上手くいったわ」


 早く戻らないと……

 朝日が地平線の向こうから顔を出しはじめる。


 急いでテントに戻る、途中ですれ違った見回りの騎士に挨拶をする。


 トイレでも行ったと思ったのだろう。騎士は何も聞かなかった。一応乙女なのでね。


 毛布に潜り込むと二度寝。


 次に目が覚めた時は、いつの間にかテントの外は薄く霜が降りていた。吐く息が白い。


 ――少し寝坊しちゃったかも。


 外からは騎士たちの声が聞こえる。

 馬のいななき、鎧の金具の音、焚き火で焼かれるパンの香り。


 旅の朝は、思っていたより賑やかで、なんだか心が弾んだ。


 外に出ると、クロード様が馬に鞍をつけながら何かを話していた。


 「今日も快晴だな、これなら早く進めそうだ」

 「そういや、霧が出ないな」

 「珍しいな」


 穏やかな雰囲気で、やっぱりキャンプに来たみたいで楽しかった。


 周りでは、騎士達が皆真剣に出発の準備をしていた。


 何となく、一人でウキウキ、ニコニコしているのは場違いな気がする。


 一人でにやけていたら、罰が当たっちゃうかも。


 夜中に起きたせいか、少し身体がだるかった。頭も重いし……

 ……大きな祝福をかけたせいかもしれない。


 これからまた馬車に長時間揺られて行くのだから、少し身体を動かした方が良いわね。


 なるべく真剣な顔をして、伸びをして、身体を回してほぐしておく。


 すれ違う騎士に、不思議そうな眼差しを向けられているのは気のせいよねーーきっと。


 でも、本当に気持ちの良い朝だわ。


 大きく深呼吸して、新鮮な朝の空気を胸一杯に吸い込んだ。


 視線の先――昨日まで薄暗く煙っていた森が、

 今日は朝日を受けて金色に輝いている。


 風に揺れる木々が、まるで祝福を受けたみたいに光っていた。


 「まさか……」


 クロード様が目を細め、険しい表情を見せる。


 「ディーンを呼べ」


 すぐにローレンツが駆けていった。

 程なくして、まだ外套を羽織ったままのディーン様が現れる。


 「……これは」


 彼の空色の瞳が、森を映して淡く揺れた。


 「魔の気配が……薄い。いや、ほとんど感じない」

 「ここ数年で初めてですね」ローレンツが低く応じる。

 「このあたり、結界のような光の残滓が見えます」


 ローレンツが空気を確かめるように手をかざす。


 「……祝福の類でしょうか」


 その言葉に、ディーン様の視線が一瞬だけこちらを向いた。

 空色の瞳が、何かを測るように揺れた。


 ――目が、合った。


 「まさか……いや、そんなはずは」


 彼はすぐに視線を逸らしたけれど、胸の鼓動が早くなる。バレていないよね?


 クロード様がいつもの調子で笑う。


 「まあ、何にせよ道が安全になるのはありがたいことだな」


 その言葉に、皆が頷く。


 えへへへ……。ごりやく、ごりやく。




 次は、また明日の朝投稿します。

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