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ある実験  作者: 砂川
5/13

4日目 ――不破海音①――

 朝の定時連絡を終え、海音はほっと息を吐く。


 4回目であったが、まだ湯上谷先生とのやり取りは緊張した。


 話すたびに、何か自分のミスを指摘されるのではないかと、びくびくしていた。


 さてこれから試合までどうしようと、無意識にポケットをさすり、()()海音はスマホを没収されたことに気付かされる。


 湯上谷先生から指示された旅行は特に問題もなく順調に進み、2日目から観戦した試合も楽しかった。


 内気な海音にしては珍しく、興奮して隣にいた女性のファンと肩を組んで応援歌を歌ったほどだ。


 試合観戦以外の観光は経費に含まれないので自腹を切る必要があったが、それでも豪遊しなければ今までの貯金だけでも十分楽しめた。


 ただ問題がなかったわけではない。


 スマホだ。


 移動や試合が始まるまでの空き時間には、普段ならLaplaceを見るなりゲームをするなりして時間を潰していた。


 それが北海道に来てからは一切できない。


 暇な時間が全て何もすることがない手持無沙汰の時間になってしまっていた。


 湯上谷先生に「暇つぶし用だ」と渡されたのは高尚な学術書では、到底その役目は果たせなかった。


 それでも最初の頃はただ退屈と思っているだけマシだった。


 次第に海音はこう思うようになっていった。


 自分がこうしてデジタルデトックスをしている間、友人達は自分のことをどう言っているのだろうか、と。


 もとより気の小さい海音は、自意識過剰で人からどう思われるのかが異常に気になる。


 だからといって現実の世界では見た目や接し方を変える勇気はなく、その代わりにネットの世界では陽気なおちゃらけキャラを演じていた。


 そんな自分が全く反応がなくなった場合、友人達はどう思うか。


 次第に退屈より、そちらの方が気になるようになっていった。


「どうにかして知る方法はないかな……」


 今日も試合があったので、宿泊先から球場に電車で向かったが、移動中はそのことばかり考えていた。


 皮肉にもその行為自体は暇つぶしになり、退屈を紛らわすどころか危うく駅を乗り過ごしそうになった。


 ただ、試合に関しては昨日ほど楽しめなくなっていた。


 試合中も不安が大きくなり、さらに日ハムが大差で負けたことも重なり、気持ちは沈む一方である。


 帰りの電車で出るのはため息ばかりだった。


 せっかく宿泊先のホテルで出た北海道の珍味も、味がほとんど分からない。



 夕食後、海音はベッドに寝転がり、これからどうしようか考えた。


 今は野球よりスマホでLaplaceが見たい。


 しかしそれは湯上谷先生との約束を破ることになり、旅費の返還を求められる。


 スマホがないので値段は見ていないが、宿泊先はなかなか高級なホテルで、今の自分の貯金ではとても払えそうにない。


 往復の飛行代だけでもいっぱいいっぱいだ。


 湯上谷先生との約束を破らずLaplaceを見る方法。


 海音はそのことばかり必死で考え、気づけば深い眠りに落ちていた……。

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