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ある実験  作者: 砂川
13/13

後日2 ――湯上谷宗助⑥+調査報告――

 ()()()()から数日後、宗助はこれまでの協力に対する感謝と、近況報告のためにあの元SEの友人と飲むことになった。


 場所は大学近くにあるチェーン店の飲み屋で、以前は宗助達が学生時代も使っていた老舗の飲み屋であった。


 チェーン店になってからは2人とも行った事はなかったが、場所はどちらも覚えていたため待ち合わせには丁度良かった。


 2人は学生時代のようにビールを頼み、まず乾杯をする。


「――で、例の実験はどうなったんだ。数日前から音沙汰無くて実は気になってたんだよ」


「論文や後処理も含めて色々忙しくてな、すまない」


 宗助はまず謝る。


 そしてあれからこれまでの話を始めた。


「幸いにも論文は完成し送付することはできたが、大学当局からは大目玉を食らってな。クビ寸前までいったが、なんとか減給処分で手を打ってもらったよ」


「それは災難……と言うか自業自得だな。まああの集団ヒステリーは俺も驚いたが、結局そこがクライマックスで、後は沈静化して良かったよ」


「それなんだが……」


 不意に宗助は声のトーンを落とす。


 聞かれたくない話であることは明らかで、友人も自然顔を近づけた。


「実はあの事件が起こったすぐ後に盗聴器を仕掛けた学生が謝りに来てな。バレるのは時間の問題と思って自首のつもりで来たらしい。それで、その学生の話を聞いていたが妙なんだ」


「妙、とは?」


「・・・・・・」


 すぐには答えず、宗助はビールを飲み干す。


 彼にとってはアルコールの助けがなければ、話せないような内容だった。


「彼の話を詳しく聞いていると、どうも盗聴データをLaplaceにアップロードしたのは彼ではなかったらしい。さらに毛受君にそれとなく聞いてみたが、Laplaceに関してはアカウントを乗っ取られて、最近はほとんど触れてないらしい。集団ヒステリーの場にすらいなかったそうだ。つまりLaplace内でのあの異常なやり取りは、別の誰かが書き込んだものであったのだ」


「乗っ取り……と考えるのが普通だが、そうであればお前もそんな顔はしないよな」


 宗助は無言でうなずく。


「門外漢の私では心もとないので、毛受君にいろいろ理由をつけて調べてもらったのだが、どうもシステム上は確実に本人が書き込んだものであるらしい。お前が言う乗っ取りの可能性は0だそうだ。これは本当に非科学的な話なんだが、まるで別次元の自分が書き込んでいるかのような現象といえるらしい……」


「それはまた不可解な話だな……」


 友人は枝豆をつまみながら、楽しそうな顔をする。


 この男は学生時代から問題が起こるとこういう顔をして、率先して火中の栗を拾うタイプの人間だった。


 そうでなければ盗聴器の件で協力したりはしない。


 だからこそ優秀でありながら結局出世できず、今こうして宗助と愚にもつかない旧交を温めているのである。


「……これは俺が聞いた噂なんだが」


「最後の最後でまた噂か」


 宗助はため息を吐いた。


 さすがの宗助も、しばらく噂話と距離を取りたくなっていた。


「Laplaceを開発したのが、うちの大学の関係者だってことは知ってるか?」


「いや初耳だ」


「時期的にはお前が大学にいる頃にはあった話なんだが、そうか、()()()()知らんか。まあそこは置いておいて、Laplaceを作ったのはうちの学生とその担当教授で、ちょうど今お前がいる教授室で開発したらしい。この話は盗聴器の件の後、気になって個人的に同期だった奴に聞いた話なんだが、そいつは最後にこう言っていた。その開発に携わった学生と教授は、Laplaceの開発を完了させると、急に発狂し「神の声を聞いた」だの「悪魔の声を聴いた」だの叫んだらしい。どうも例の噂話が誕生したのは、それが原因だそうだ」


「そんな話があったのか。……いや、待て。それはおかしい」


 納得しかけた宗助であったが、すぐに考えを改める。


「私は今の教授室を助教授時代から長い間使っている。それこそLaplaceが誕生する前からな。それにもかかわらず、発狂した話を私が知らないはずがない。そもそもあの部屋で作業をしていて、私が気づかないことなどありえない」


「マジか」


 宗助と同年代であるのに、その友人は最先端の分野にいたせいか、言葉が若々しい。


 ただ、口ではそう言ったものの、あまり驚いているようには見えなかった。


 まるで宗助がそう答えるのを予想していたかのように。


 気になった宗助はさらに言葉を重ねる。


「その動機と言うのは何者だ。私も知ってる人間か?」


「ああ、よく知ってる奴だ。残念ながらつい最近死んだようだが」


「だったらなおさら名前を知らなければならん。教えてくれ」



「湯上谷宗助」



 友人は真顔でそう言った。


 宗助は呆気にとられる。


「お前が考えた別世界の可能性は、実は俺もとっくに思いついていたんだよ。ほら、頭が柔らかいから。それで試しに俺もLaplaceを使ってみたのさ。そしたらお前の名前が見つかって連絡とってみたら御覧の通り。本当に面白いアプリだよこれは。別世界で誕生した噂が、アプリを通してこっちでも流布するんだからな。そもそも向こうの世界にしか存在しないはずのアプリがこちらの世界にあること事体おかしいんだよ。なんで今まで問題が起こらなかったのか分からないぐらい」


 そう言うとその友人は、心の底から楽しそうに笑うのだった……。

湯上谷宗助(68) 死亡

死因:妄想に取りつかれた学生に盗聴され、盗聴内容を曲解した加害者に刺殺される

なお犯人の学生もその後、車に轢かれて死亡した

突然車の前に飛び出ししため、自殺とみられる


毛受武人(20) 死亡

死因:誇大妄想が膨らみ、大学を悪の根源と思い込みガソリンで放火に及ぶが、その際服に引火し、焼死する

その絶叫は街中に響き渡ったが、直前まで何故か誰にも気づかれることはなかった


不破海音(20) 死亡

死因:北海道旅行からの羽田空港に到着後、空港施設から飛び降り自殺する

その死に関して先に死亡した湯上谷宗助が関わっていた可能性が高いが、その詳細は未だ分かっていない

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