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ある実験  作者: 砂川
11/13

十ヲかme ―ー毛受武人(死〉-ー

 SNSを調べると、海音の話題であふれていた。


 やはり、海音はもう取り返しのつかない怨霊になったのだ。


 そして彼は復讐を欲している。



 自分をこんな目に遭わせた、大学当局を。



 武人はあれからあらゆる手段を考えた。


 自分には霊的な力はない。


 そのため、海音の怨霊を直接どうこうすることはできない。


 だからといって、高名な霊能力者に頼もうとしても、ツテどころか当てもなく、たとえ見つけることができたとしても、間に合わないだろう。


 湯上谷教授を初め、次々と死者が出ている。


 現に武人には見えた。


 海音によって殺され、また自身も怨霊となってしまった犠牲者達の顔が。


 雑踏の中で武人は薄くぼやけそうな、明らかに生きている人とは思えない顔を何度も見た。


 その目は生気はないのに、何かを訴え続けているようであった。


 その何かが今ならわかる。


 武人にはわかるのだ。


 ――そう、全てが分かっていた。



 武人がその時の向かっている先は大学だった。


 レンタカーで借りたトラックに乗り、荷台には大量のガソリンを積んでいた。


 このガソリンを使って、大学を吹き飛ばすつもりだ。


 それがこの憎しみの輪廻を解く、武人が考えた唯一の方法だった。


 今の時代、個人によるガソリンの大量購入は非常に難しくなった。


 用途を考えればそれも当然で、本来なら容易に買う事は出来なかったはずである。



 だが武人は購入できた。



 本人にとってはどうでもいい事なのですっかり忘れていたが、まるでコンビニでライターを買う程度の容易さで購入でき、それをトラックに積み込む際にも誰にも注目されなかった。 


 バックミラーに映る真っ青な顔の海音が武人をじっと見ていた。


 その目が、もし引き返したら一緒に地獄に引きずり落とすと言っている気がした。



 ハンドルを握る手に力がこもる。


 自然と口の端から泡があふれ出していた。


 死んだ犠牲者達が、今度は加害者になり武人の体にまとわりつく。


 進んでも帰っても地獄であることは明らかだった。



 武人は大学の裏に車を止めると、大学校舎の周辺にガソリンを撒いた。


 普段なら絶対に誰かが気づくはずであるのに、亡霊達の力か、武人の凶行には誰も気づかない。


 近くに交番もあるというのに、その日に限って誰もいなかった。


「これで終わりだ……許してくれ不破……」


 武人は100円ライターに火を灯す。


 偶然にもそこは湯上谷教授の教授室の裏で、数十センチ先にはあの異界に通じていると言われた印があった。


 偶然かそれとも引き寄せられた結果だったのか。


 それが誰にも分からぬままこの物語は終わりを迎える。


「ああぁあaAぁaあ熱いぃぃぃひぃ!!!!!!?」


 ガソリンは校舎だけでなく武人の服にも染みついており、その瞬間足元から武人の体に引火したのだ。


 転げまわる武人。


 火は意志を持ったかのように燃え広がり、数秒で致命傷となる火傷が体全身に作られる。


「――――!!!!!!!!」


 もはや気管を貫いて肺まで焼かれ、叫び声は音声にならない。


 ただし、たとえ聞かれたとしても、それで助けてくれる人間はこの世界にはいなかったが。


 やがて毛受武人だったものは人型の炭なり、校舎は燃えることなく不快な臭いだけをその辺りに残す。


 こうして1人の教授が巻き起こした狂気の実験は幕を閉じ、最終的に()()()()()を出す大惨事となった。


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