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第7話 微温湯

【な、なんなんだ、貴様は……】


「お前らに全てを奪われた者だ。これからは、お前らから全てを奪ってやる。さて、魔王軍とはなんだ?」


【な、なにを……ぐあっ!!】


 俺は魔力を打ち出し、この魔物の足を撃ち抜いた。


「余計なことを話すな。殺すぞ。魔王軍とはなんだ?」


【文字通り、魔王様の元に集った兵たちだ】


「魔王軍の目的は?」


【世界をこの手に】


「お前、第何師団とか言っていたな。軍隊の規模は?」


【8大魔人の下に、8師団ある。それぞれ万を超える魔物、魔人が所属する】


「よし、入ったな」


 グリムは先程までの苦悶の表情から、ぼーっと何も考えていないような顔で俺の言葉に反応するだけになっている。奴に支配の魔法が浸透した。これで情報は得放題だ。それから俺は、自分の知らない現状、魔王軍の実態の情報を色々と得た。どうやら8年前のあの事件も魔王軍の初めの侵攻だったことがわかった。


「俺の復讐相手がまた増えたな。魔王……」


 俺は必要な情報を得たので、グリムから魔石を引きずり出した。ルーンで強化した借りた剣は、魔人から魔石を取り出すと崩壊してしまった……


「……まさか、魔人の魔石はこの程度のやつでも魔獣よりも優れているのか?」


 引きずり出した魔石の輝きが違う。エンシェントキマイラのどこまでも深い赤とは異なり、複雑な赤紫色に輝いており、そのオーラも引けを取っていない。これは吸収する必要があると直感が言っている。


 俺は息を整えて吸収の術式を発動する。


「魔獣と、質が……ちがぅっっっっグアアアアアアッッッ!!!」


 相変わらずこの作業は気が狂いそうになる……しかし、初めての魔人の魔石、魔獣が激しく身体を引き裂くような痛みと苦しみだとすると、魔人の魔石は鋭い刃や槍で斬られ突かれているような痛みだ。新しい予想と異なる痛みに耐性がないせいで、俺は血反吐を吐くほどに苦しむ羽目になった。意識が飛べば身体はバラバラになるから、この痛み苦しみも全て魔物、魔人、魔獣、魔王、そして大臣への怒りへと変えて必死に堪える。


「がっは……がぁ……はぁ……おえっ……くそっ、予想、外れた……」


 俺は体中で激しく脈動している魔紋を抑え込んでいく。体中に広がる鈍痛が抑え込まれていく……


「はぁ、はぁ、はぁ……他の魔物の魔石は、金に変えるか、ふぅ。魔物を穿つ土の槍よ、大地に絶えし肉体より魔なる石を抜き取れ」


 こうして周囲の魔物の魔石を全て集める。


「さて、もういいか」


 俺は周囲の壁を破壊する。地面に吸い込まれるようにズルズルと壁が飲み込まれて、後には大量の魔物の死体と俺だけ……


 そして、遠く街から歓声が上がっているのが聞こえる。


「後の解体は、流石に任せるか、魔石も運んでもらわないとな」


 俺は街に向かって歩き始めた。


「おいっおいおいおい!! すごいじゃねーかよ!! 信じらんねーぜ!!」


 グレイさんが興奮した様子で街から駆け寄ってきた。その後には武装した兵が俺達の様子を伺っている。


「魔物は殺した。魔石はもらうが、後は好きにしてくれ」


 俺の言葉に兵士たちは慌てた様子で現場を確認し、そして増援を呼んだ。俺とグレイさんは一緒にヴァルガスの元へと戻ることになった。


「いや、良いですよ荷物くらい持ちますよグレイさん」


「こ、これくらい、俺にやらせてくれ、無茶なことをさせちまって……」


 俺の背負っていた荷物を一生懸命運んでくれるのは嬉しいが、フラフラして危なっかしいので途中からは俺が背負った。


「すまん」


「良いんですよ。気にしてませんから」


 いい人なんだな。そして、そういう人はこういう環境では虐げられたり利用されるってのは師匠から聞かされている。


「いやいやいや、アレスさん! よくぞお帰りに! 聞きましたよっ! あの魔王軍の大群を一人で血祭りにしたとっ!!」


「はぁ……」


 ヴァルガスがわかりやすく手のひらを返してきた。俺にかかってきた3人もヴァルガスの後ろでへらへらと笑っている。


「もらった剣は駄目にしてしまった」


「ああ、いいんですいいんです、あれはナマクラですから、っとそんなことより本当に魔物素材をもらってもよろしいので?」


「ああ、魔石はもらう」


「もちろんですとももちろんですとも!!」


 ……なんだろうな、このもみ手を見ているだけで、苛ついてくる。


「ここから北に敵に奪われた砦があると聞いた。そこもぶっ潰してくる」


「えっ、この街を離れるんで? いや、あの砦を今更取り戻しても、維持できないと言うか、その間にこの街が危険になるなぁーとか思ったり、なぁ? みんな!」


「そうですよアレスさん! この街を守ってくださいよ!」


「街の人間も喜んでますよっ!」


「守っていても、ずっと攻められるだけになるだろ?」


「ええ、まぁ、そうなんですが、とりあえず、アレスさんがいれば、死ぬこともないし……」


 ああ、はっきりわかった。こいつらに頭が来るのは、ぬるいからだ。こいつらは、魔物に完全に屈してしまっている。自分たちが生きるためなら、魔物の足の裏だって舐めるだろう。そういう媚びた目をしている。


「俺は、全ての魔物を殺す。魔物がいるなら、殺しに行く。魔王も殺す」


「す、素晴らしいと思います! とりあえず、今夜は久しぶりの勝利を祝いましょうよ、ね?」


「アレスさん……」


 グレイさんが不安そうな顔でこちらを見ている。……そうだよな、ずっと、負け続けていた彼らを責めるのはお門違いだな。俺は、たまたま師匠に出会えたからこうして戦えるが、ここにいる人達だって、村の皆と同じ、被害者なんだ……


「わかった、今晩はゆっくりさせてもらう」


 俺の言葉に周りの人間達は安堵の表情を浮かべる。仕方ない、俺の存在で今日ぐらいは枕を高く眠れるようになってもらえるのであれば、それで、いい。

 町の人々は、本当に抑圧され続けていたらしい。この一戦の勝利で、今まで押さえられていた物が全て解放されたかのように大騒ぎになった……俺は英雄のようにもてはやされて、皆が俺に称賛、美辞麗句を並べる。しかし、その言葉の端々に、これからも大丈夫だよな、全部、任せるぞというような、同調圧力や、媚びたような気配を感じてしまい、俺は本当に居心地が悪くて仕方なかった……

 しかし、同時に理解もしてきた。人間が、この世界を生き残る過酷さ、ギリギリの死と隣り合わせの日々を過ごしてきた人々の気持ちを、俺みたいなよそ者の世間知らずな若造が知ったふうな感想を持つことは、ズレている、傲慢なことだということを……俺は、異常な力を持っている。この世界の人間からすれば、魔物とも変わらないような、異質の力だ。もちろん、力を得るために俺は苦難を乗り越えて、死ぬ思いだって何度もしたが、それだって師匠と出会ったからだ。魔物は殺す。だが、人間を蔑むのは止めよう、そう改めて心に刻んだ。


「お疲れですか?」


「グレイさん、俺はこんな事をされるような人間ではない」


「それでも、こんなに明るい街の様子は、本当に久しぶりです……本当に」


「戦う者はいなかったのですか?」


「魔物に? 国王軍が半壊した初戦で、もう、我々の心は折れてますよ」


「半壊」


「アレスさん、あなたがいくら強くても北の砦には近づいてはいけない。あそこには魔王軍8柱の一人、絶界のアルドリックがいます。魔王軍の中でも魔法を使わせたら随一の魔人で、そのたった一人の魔法によって王国は抵抗もできなくなったのです……」


「魔法使いか」


 それは好都合だ。俺の魔法が魔王軍に通用するのかがわかる。そのアルドリックと戦えば、俺の魔法で魔王軍を壊滅できるのかどうかを確かめることができる。


「アレスさん、俺達は今必死に生き残っています。戦線が拡大し、ようやく戦争が膠着して生き残れてます。アレスさんが死んだら、また狩られる日々を過ごすことになります。どうか、どうか、危ないことはやめてください」


「危ないこと、か」


 グレイさんの言葉に、思わず笑ってしまった。確かに、魔物と戦うのは危ないことだな。


「それでも俺は、家族と村、そして師匠の敵を取る。そのために、生きてきたんだ」


「……わかりました。でも、本当に無理はしないでくださいね」


 グレイさんの瞳は、本当に俺を心配してくれている。そこに打算や計算がない。こういう人がいるということを知れただけでも、俺の目標を遂げるやる気に繋がる。空を見上げると、こんなクソッタレな世界でも、星は美しく輝いていた。


 翌朝俺はギルドに訪れ、魔石を受け取る。持ってきた素材の一部と魔石の半分を換金してもらった。あの大量の魔物の素材で経済的にぐっと助かることをヴァルガスは喜んでいた。


 昨日の宴でわかったことがある。このどう見ても胡散臭いヒゲのおっさんであるヴァルガス、少し行動は短絡的で粗暴だが、きちんと街のために働く有能な人物だということだ。そして、取引においては誠実だし頭も切れる。気がつけば、俺はヴァルガスのいいように防壁の修理や周囲の整備などを手伝わされていた。この街が最前線で維持できていたのは、間違いなくヴァルガスの手腕によるものだと確信した。


「いや、凄まじいですねアレスさんの魔法は、予定では3ヶ月はかかると思っていたのですが……」


「しかし、容赦なく働かせるよな。適当に仕事をこなしたら出立しようと思っていたんだが、すっかり長居している」


「しかし、それも限界ですね。これほどの尽力に街を代表して感謝いたします。いかれるんですよね、砦へ」


「ああ」


「ここのところ間近でアレスさんの魔法を見ていた上でいいますが、死にますよ?」


「かもな」


「考え直してはもらえませんか?」


「悪いが、俺は魔物を殺すために生きている。街の中では生きられない人種なんだ」


「そうですか……絶対に帰ってきてくださいな、勝てない時に逃げるのは恥ではありませんぞ」


「俺もそう思っている」


「ならば何もいいますまい。ご武運を」


 気がつけば俺はヴァルガスの手を力強く握っていた。巧いんだよな、こういうのが……


「アレスさん、絶対に戻ってきてくださいね」


「ああ」


 俺は、翌朝、皆に送られ街を後にした。すっかりきれいになった防壁は朝日に輝いて白く光っている。砦へと続く一本道は、地平線に向かって伸びていた。


俺の戦いはここから始まるのだ

書いていて、どうにも納得がいかず、

プロットをいじったらいい感じになったので、供養のために投稿します。


改造した作品もいずれ投稿するかも知れませんが、

あまりにも読まれない作品を延々と投稿する胆力はもう無いのかなと感じています。

なろうには本当にお世話になりましたが、私のやりたいこととのズレが

大きすぎて、これは埋められそうにないなぁと思っています。


最期までお読みいただきありがとうございます。

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