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第5話 太古の合成獣

 永劫の時の中を生き抜いてきた魔獣は、他の魔獣とは一線を画す存在だった。

 複数の動物が混ざりあった姿に、魔石による鱗のような物が全身にへばりついている。溢れ出る魔力の波動から、それが全て魔力の物質化によって作られていることが理解できる。


【クァルザス・ノルン・ヴァラシン、エルドラ・ザクレシュ・ナグル!】


「しまっ!?」


 太古の言葉による詠唱。言葉自体に魔力が乗っており、強力な魔法が猛スピードで発現する。俺の位置もすでに把握されており、突然地面から無数の巨大な槍が迫ってくる。


「ちぃっ!!」


 なんとかその魔法の槍から身を逸らす。


【フュン・ヴァール・グリモルス、アルダニス・テムラ・カディス!】


 俺の周囲に火球が現れて降り注いでくる。


「水の精霊アクア、その力を示し我が刃となれ!」


 俺は水弾で敵の魔法を迎撃しながらキマイラへと接近していく。


「力のルーン、加速のルーン、貫きのルーンよ、我が呼びかけに応えよっ!!」


 魔紋に大量のルーンが浮かび上がる。これは俺が日々刻み続けているルーンだ。世界が加速し、キマイラの火球がスローモーションで俺を掠めていく。


【ドゥール・ラヴェリン・フルカス、ザンティ・ロクヴァス・エンデルス!】


「遅いっ!! 光の精霊、収束のルーン、顕現せよ光の剣!」


 俺の腕から光の剣が出現する。敵の魔法が発現する前にキマイラの肉体に剣を突き立てる。バチバチと魔力の鱗と光の剣が拮抗するが、ズブズブと剣が肉体を抉っていく。


「爆ぜろ、爆炎のルーン!!」


 体内に爆発を起こさせてやったが、どうやらあの鱗は魔法をかなり強力に弾くようで思ったよりダメージが通らない。


【ガアアアアアアアアッ!!】


 それでも痛みを受けたのは久しぶりだろう。怒りで目は爛々と赤く輝いている。巨体とは思えぬ動きで俺に襲いかかる。その巨体が動くだけで人間には脅威だ。踏み潰されても、どこかに触れれば大怪我に繋がる。だが、今の俺は敵の竜の尾をむんずと掴み上げ、締め上げる。そしてそのまま力のかぎりっ……ぶんっ……回すっ!! ギュンギュンと回転し、巨大な崖に叩きつけるっ!!


 ドギャアアアアン!!


 べきべきべきと鱗が砕け、骨が砕ける音がする。


【エンヴェル・シルカン・オルフィス、ナグラ・ヴィリオス・アルガス!】


「やらせるかよっ!!」


 回復の魔力の流れを感じ、俺は魔法に割り込んで破壊のルーンを起動する。魔力が爆発するように霧散し、魔法の発動を阻害する。


「くらえええぇえぇ!!」


 光の剣を脇の下からねじ込み、力のかぎり振り払う。


 ブシャァッ!


 大量の血液が吹き出し、右腕がぶらりと垂れ下がる。


【ゴギャアアアアアッ!!】


 背中から巨大な翼が生えてきた。


「逃がすかよっ!!」


 俺は素早く背に回り込み、その翼を力いっぱい引きちぎる。飛び立とうとしていたキマイラは俺を乗せたまま螺旋状に落下していく。魔獣の血を浴びた場所がじゅうじゅうと焼けるが、魔紋に刻んだ治癒のルーンが治していく。この痛みも、魔獣への恨みと怒りを忘れないためには必要だと感じている。


「貴様らからすべてを奪ってやる!!」


 引きちぎった翼から剣をねじ込む。


「爆ぜろ爆炎、荒れ狂え暴風、穿て雷、潰せ大岩、貫け水柱!」


 キマイラの体内に次から次へと魔法を撃ち込んでいく。俺の詠唱が終わるたびにビクンビクンとキマイラの身体が震えて、情けない悲鳴をあげる。


「くはははははっ!! 鳴け!! そして、死ねぇ!!」


 最後に光の剣を体内で爆発させる。ビシャァとキマイラの口から大量の内臓と血液が混じったものが噴出し、ピクリとも動かなくなる。


「ここか?」


 俺はキマイラの体内に腕を突っ込む。焼けるような痛みを感じるが、その先に強大な魔力の流れを感じる。でかい……俺は両手を身体にねじ込んでキマイラの魔石を乱暴に引き抜いた。両手で持つその魔石は、ちょうど人の頭ぐらいある。妹の姿が重なり、胃が躍動する。そして、持ち上げたその魔石に体表の魔力の鱗が吸い込まれていく。そのままでも美しい魔石の内部にまるで星空のように大量の魔力がキラキラと光っている。今まで見たどの魔石よりも濃い、血よりも濃い赤、そしてまるで宇宙を封じ込めたような魔力の流れ。これを取り込んだら、俺はもう、人ではなくなると確信できる。


 魔石は割ってしまうと内部の魔力が消耗してしまうこともあるので、専用の加工をして砂状にすることが多い。しかし、この極上の魔石を取り込むためには、融合と吸収のルーンを組み合わせた物を用意する。


「耐えきれるだろうか……やるしかないが」


 今までと桁違いの魔石を取り込むことに少しだけ不安を感じたが、俺は、全ての魔物を殺すと師匠に誓っている。魔法陣に魔石を置き、魔力を注ぎ、ルーン魔術を発動する。魔石を取り囲む魔法陣が俺とのラインを構築し、次の瞬間、魔石がシュンっと消え、俺の体内に取り込まれていった。


 それは突然訪れた。身体が爆発四散したかと思った。全身が引きちぎられるほどの痛み。


「があああああああぁぁぁぁぁ!!!」


 魔紋は激しく光り、脈動する。身体を中心から細切れにされ引きちぎられるかのような、中心から末端までに焼けた鉄棒をねじ込まれたような、魔石の強大な魔力が体内から俺の身体を引きちぎって霧散させるつもりなのかと思わせる。


「うごあああああああっっ!!」


 マグマが血管を流れ、身を焼きながら全身に広がり、筋肉、骨、皮膚、全てを焼き尽くしていくように感じる。


「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 頭を地面にガンガンと叩きつけ、その痛みをなんとか和らげようとするが、全身が爆発しそうなほどの苦痛は一向に収まらない。魔力が全身に行きわたり、魔紋を循環し始めた瞬間、突然全ての苦痛が取り払われた。


 脈々と拍動して全身を流れる大河のような魔力。煌々と光り輝く魔紋。俺は、完全に、人間を超越した力を自分の物へとした。


「俺は、俺だ」


 大丈夫、魔力に飲み込まれることはなく、今、完全に制御した。


「このままじゃ駄目だな」


 今までと同じように体内の魔力を極限まで圧縮し、丹田へと押し込む。煌々と輝いていた魔紋が穏やかな光に変わり、そして首飾りの力で人間らしい皮膚になる。


「こ、これはキツイな……」


 この圧縮、今までもやっていたのだが、桁違いの魔力を手に入れた今はその作業も非常に大変なものになる。それでも人間社会で生きていくためには、常時これを続けなければいけない。実はこの過程は、魔法の鍛錬のひとつなのだが、このときの俺は気がついていなかった。


「師匠、全て、終えました」


 嬉しいような寂しいような、複雑な気持ちが胸を渦巻いていた。俺は、ついに死の森を制覇することに成功した。流石にキマイラの皮や爪と牙は捨て置くわけにはいかない。全て解体して荷物に加えて、俺は歩き出した。俺は、外に出る。死の森から、人々のクラス社会に、俺の目標は魔物の全滅、そして師匠の無念を晴らすために大臣であるヴィルヘルムに一発食らわせるために、旅立つのであった。


「……はぁ、はぁ、くっそ、魔力を抑え込むの、きっつい……」


 気を張っていないと魔素をどんどん吸い上げていってしまう。この魔力の調整は本当に大変で、特に慣れていないと寝ているときとかに魔紋が発動していたりしていた。ルーンの力を借りたり、とにかく常時魔力操作に気を払い続けていることで森を出るころには呼吸をするように魔力のコントロールが出来るまでになった。

 

「さて、どうするか……」


 森から出るには王国の警備兵が詰める砦を抜けなければいけない。

 森と王国を隔てるこの巨大な砦、そして反り立つ崖によって死の森は隔離されている。

 

「確かこの砦を超えてしばらく行くと大き目な町があるんだよな」


 師匠が持っていた地図は古いので今はどうなっているかわからないと言っていた。

 俺も村にいたときにはあまり外に興味がなかったので、そこらへんは旅をしながら知っていかなければいけない。

 砦の上部から監視している兵に気が付かれないように様子をうかがいながら都合の好さそうな場所を探していく。

 対人を想定していないので、それほど探さなくてもちょうどいい場所は見つかる。

 

「少し、工夫するか」


 俺はもう一度森へと潜る。

 お目当ての野獣はすぐに見つかる。

 ビッグボア、巨大なイノシシの動物で、普段はキノコをほじって食べているおとなしい動物だけど、危機を感じるとすさまじい突進で突っ込んでくるから結構危ない。

 獣臭いけど旨い、師匠ともよく食べた。

 この集団を砦に向けて突っ込ませて、その隙に目を付けた場所から砦を超えることにする。

 俺はほんの少し魔力を開放し、ビッグボアたちを威圧をかける。


ぼわっと衝撃波のようなものが周囲へと発せられ、森がざわつき周囲の木々から鳥が一斉に飛び立った。ビッグボアたちはびくりと反応したが、しばらく固まってしまった……調整が難しい、さらに精度を絞って弱い魔力の波動をビッグボアにぶつける。


「ぶ、ぶひーーーーー!!」


 一匹が断末魔のような雄たけびを上げると全員が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。何匹かは砦のほうに向かったので作戦通りだ。

 俺はすばやく砦に戻ることにした。

 ビッグボアは防壁にうまく突っ込んでくれたようで砦は混乱している。

 兵士たちは防壁上部からビックボアの対応に集中しているので、俺はするすると壁を登って兵士たちを遠目に見ながら防壁を乗り越える。


 こうして俺は、かれこれ7年ぶりの森の外に降り立つのだった。


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