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第4話 魔物喰らい

 俺の全身に浮かんだ魔紋、その力は圧倒的だった。

 力は何倍にもなる、感覚も全てが強化されている。

 さらに世の中に存在する魔力を感知できるようになり、精霊魔法も使えるようになる。

 ルーン魔法は内への変化やごく短距離への変化を及ぼす。

 例えば風の刃をルーン魔法で発生させても、距離が離れるとその刃は形を維持できない。しかし、精霊魔法は遠い距離まで魔力によって作られた刃が飛んでいく。その代わり、肉体内部への干渉は出来ない。肉体強化はルーン魔法、外部への放出は精霊魔法のほうが得意といった具合だ。

 精霊魔法の訓練と魔紋のコントロール。

 そして、魔石を喰うことが日課に加わった。


「ぐああああああっ!!」


 その度に地獄の苦しみを味わうのだが、喰らえば喰らうほど明らかに力が強くなるのを感じる。

 この苦しみも、全て、魔物への怒りへと変えていく。

 1年が過ぎると、中級の魔物の魔石を喰えるようになった。

 師匠は更に体調を崩していた。

 

「アレス、剣を取れ。卒業試験だ」


「……はい」


 師匠の死期はすぐそばに迫っていた。

 俺は、師匠からの試験を受ける。

 これが、師匠が俺に教える最後だ。

 人の殺し方。

 師匠は俺にそれを教えようとしていた。


「賢いお前のことだ、儂が何を伝えたいのか、もう知っているな。

 酷い師だと責めるか?」


「いえ、師匠は、最高の師匠です」


「そうか、アレス。俺もお前を誇りに思う。

 だからこそ、本気の私を相手してもらう」


 師匠は全身聖騎士の装備で固めている。

 そして、一本のポーションを取り出した。


「師を乗り越え、自らの願いを叶えろ、アレスっ!!」


 ぐいっと飲み込む。

 俺は知っている、魔石を使った禁呪のポーション、永遠に咲く薔薇(エヴァーブロッサム)、飲んだものに確実な死を与える代わりに爆発的な力を与える薬だ。


「行くぞ、アレス!」


 すっかりと弱りきった師匠の力強い声を久しぶりに聞いた。

 しかし、そんな事に感動している暇はなかった。


 師匠の姿が消え、俺の首元に刃が迫っていた。


「せりゃあっ!!!」


 既のところで刃を弾く。


「ぼーっとしてると、ころすぞっ!」


 師匠の瞳が赤く光っている。

 人間の魔人化、その力は圧倒的だ。


「そらそらそらぁ!!」


「くっ!! Uruz()、力を! 身体に宿れ、山の力! Raido()、加速せよ!

風よ、我を駆け抜けさせよ!」


 力と加速ルーンを即座に組んで対応する。

 剣と剣が交差する。ルーンを組んで魔紋を発動してなお強大な力で押し込んでくる。師匠の最盛期はこれくらい強かったのだろう。

 

「うおおおおおおっ!!」


 だからこそ、超えなければいけないっ!!


Sowilo()、光よ!

精霊の力、刃となれ!」


 精霊魔法とルーン魔法を組み合わせたオリジナル魔法。

 混ざり合うことのない2つの魔法魔紋で無理矢理に絡め合う。

 油断をすれば大爆発を起こすリスクを背負っているが、その代償は大きい。

 光り輝く剣は師匠の聖剣の力を凌駕する。


「見事、アレスっ!!

 我が必殺渾身の一撃を見事討ち果たしてみろっ!!

 神聖裁断 神威の斬撃 ヘブンズゲートっ!!」


 聖なる力が空間をも切り裂く一閃を繰り出してくる。

 究極とも言える強大な一撃、まともな攻撃では飲み込まれ、俺は死ぬだろう。

 師匠は本気で俺のことを殺しに来ているし、同時に俺のことを本気で信頼している。この技を破ることが出来ると……

 この一撃を打ち破る方法は、一つしかない。

 ルーン魔法と精霊魔法を完璧にコントロールし、肉体を極限まで強化した状態で放つ、夢物語の一撃だ。


「ししょおおおおぉぉぉ!!」


 師の美しい一撃には遥かに見劣りのする、ただ、全ての無駄を削ぎ落とした力の権化。

 そんな、暴力に名をつけるなら……


「0の斬撃」


 キィンっ!

 甲高い音共に、師匠の一撃、そして周囲の木々を半径100メートル全て切り捨てる横切り。


「見事……」


 師の放つ強大な力を受け強化された鎧も剣も、俺の一撃で寸断された……


「師匠っ!!」


「はぁ、はぁ、良くやった。倉庫の奥の箱、その下に隠し扉が在る。

 そこに、全てを残した」


 師匠の肉体がぼろぼろと破壊されていく。

 薬の代償と俺の一撃によるダメージだ。

 俺の瞳からは、大粒の涙が流れ落ちていた。


「泣くな、よくやったなアレス、頑張れよ」


 師匠の手が俺の頭を撫でる。そして、師匠は灰となり大空へと還っていった……


「し、師匠ーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 俺の叫び声は森にこだまし空へと消えていく。



 死を乗り越え、俺は、また一つ成長させてもらった。

 師への恩返しはこれから始まる。


「ヴィルヘイム、師匠の無念は俺が果たします。

 そして、魔物は全て俺が殺します」


 師匠の墓は森の中の高台に作った。

 ぼろぼろになった装備しか埋まっていないが、俺は祈りを捧げた。


 俺は師の残した物を求めて、倉庫の奥、聖騎士装備の入っていた宝箱の更に下を探す。


「あった」


 床下には小さな箱が入っていた。

 その中には首飾りと手紙が入っていた。




『アレス、お前がこの手紙を読んでいるということは俺はお前に負けたということだ。よくやったな。こんな辛い事をさせる俺は師として失格かもしれないな。

 まずはおめでとう。お前は俺から全てを受け継いだ。

 免許皆伝だ。

 そして、一緒に入っていた首飾りは偽装の首飾り。

 お前の身体に浮かぶ魔紋は魔物食いの証、教会や聖騎士に見つかれば粛清対象になってしまう。その首飾りをつけていれば魔紋は見えなくなる。

 ただし、力は常に抑えろよ、力を発揮したら隠しきれないだろう。

 できれば人前では力を見せるな。

 そして、最後にお前に更に酷い試練を与える。

 この死の森、最も深い場所にこの森の主がいる。

 その魔物は太古の昔から生き抜いているキマイラだ。

 多分お前の村を襲ったのは若いキマイラで別の個体だが、キマイラいるとわかれば絶対にお前はそいつを倒しに行くだろうし、俺を殺していないお前では勝てないだろう。

 お前は最後の覚悟をした。

 そして、俺を破るためには2つの魔法を同時に使うという永遠の命題を超えた事だろう。その力があれば絶対に倒せる。

 アレス、森の主、古き賢き(ワンダリングエルダー)合成魔獣キメラを倒せ。

 お前なら必ず出来る。

 そして、その魔石を喰った時、お前に勝てる魔物は居なくなるだろう。

 お前のことを息子のように思っていた。

 自慢の弟子へ


                    ガラハッド     』


 若い頃の師匠の口調が自然と脳裏に浮かんだ。

 ぼたぼたと手紙に涙が落ちていく、俺は、強くならないといけない。

 涙はもう流さない。

 俺は師匠の信頼に応える義務がある。

 首飾りをつけると本当に魔紋が消えた。

 それから、俺は倉庫や家から必要な道具を選び、荷造りをする。


 翌朝。

 俺は師匠と過ごした家と向き合っていた。


「火の精霊よ、我が呼びかけに応えよ。

古の炎よ、我が手に宿れ。


焔の力よ、敵を焼き尽くせ。

燃え盛る火の刃となりて、我が前に立つ者を滅ぼせ。


フレイムストーム!

我が意に従い、全てを焼き払え!」


 巨大な火柱が家を飲み込み空を焦がす。

 一瞬で家は消し炭となる。

 俺に変える場所は必要ない。

 これからは、魔物を全て殺すまで、俺はどこにも帰らない。


「まずは、キマイラを、殺す」


 死の森の奥へと歩き出した。


 すでにこの森で見かける魔獣は俺に狩られるだけの存在になっている。

 俺は、この森にいる全ての魔獣、魔物を討ち滅ぼすつもりで敵を探しながら奥へ奥へと進んでいく。

 濃厚な魔素も今では俺にとっては力となる。

 魔素が濃くなれば濃くなるほど魔紋が輝き俺に力を与えてくれる。

 

「ふんっ!!」


 ルーンで強化された身体は容易に魔獣の外郭を貫く、そのまま魔石を引きずり出す。魔獣の皮や牙は全て丁寧に加工して荷物にタップリと入っている。

 これは街で財産となるだろう。

 そして、俺自身の装備も整えなければいけない。

 長年の戦いですでに武器は枯れてしまった。

 今は強化した素手で魔獣を殺しているが、流石にこんな事を人前では出来ない。

 すぐに粛清対象に成ってしまうだろう。


「……いた」


 そして、森の一番奥、明らかに雰囲気が変わった。

 濃厚な魔素が停滞してる。

 巨大な木の根元にまるで地獄へいざなうような洞穴が空いている。

 この場に近づいてくると魔獣の気配も少なくなる、魔獣たちでさえこの王の居城には近づいてはこない。

 

「燃え盛る炎の精霊よ、我が手に集い、全てを焼き尽くす力を与えよ!

天と地を繋ぎ、混沌の中に光を放つ赤き火球よ、

その輝きで敵を貫き、破壊の轟きをもって全てを包め!

フレイムストリーム!」 


 穴に向かって巨大な炎の柱を撃ち込んでやる。

 巨大な老木に火が回っていく……


「フハハハ」


 なぜか笑いが出た。

 このまま森を全て焼き払ってもいいと思っていたが、ボワッーーー! と、巨大な風の渦が大木を包み込み火を飲み込んで空へと消えていった。


のそりと巨大な魔獣が姿を表した。

 頭は冷静だが、魂は燃え上がった。

 キマイラ、村の敵と同じ姿がそこにあった。

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