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第3話 ガラハッド

「いたぞ」


 木々の合間に魔獣の姿を認める。マンティコアだ。ライオンの身体に人間の顔、そして蛇の尻尾を持つ非常に強力な魔獣で、キメラを思い出させる。あのニヤけづらが脳裏に浮かび、激しい怒りの感情が爆発する。


「くっ!!」


「心を乱すな未熟者」


「すみません」


 スーハーと呼吸を整え、冷静さを取り戻す。心は燃やし、頭は冷たく。


「お前一人で倒せ、死ななければ助けてやる」


「はい、師匠」


 とうとう魔獣を討つ。マンティコアの知識を思い出し、倒し方をシミュレーションする。


「我が内なる力よ、目覚めよ。

 古のルーンよ、我に力を与えたまえ。


 大地の力、我が拳に宿れ。

 山の力、我が体に溢れよ。


 Uruz()のルーンよ、解き放たれよ。

 我が筋肉に力を、我が骨に剛さを。


 全ての敵を打ち砕き、

 我が道を切り開く力を与えたまえ。


 力のルーンよ、今ここに。

 その力を我に宿し、勝利を掴み取らせよ!」


 ルーンの重ねがけにより身体が熱くなる。緊急時の回復のルーンを使えるようにしておくために、同時にかけるルーンは2つまでにしたほうがいい。俺は剣を握りしめる。やつの視線が外れた瞬間に飛び出す。しかし、尻尾の蛇に見つかりマンティコアがこちらを振り向く。


「刃に刻まれし古の力よ、

 我が敵を惑わせ、真実を見失わせよ。


 Ehwaz()のルーンよ、目覚めよ。

 変化の力、幻の霧を我が刃に宿れ。


 刃が触れし瞬間、敵の目に幻影を。

 現実を歪ませ、虚構の中に閉じ込めよ。


 惑いの影、逃れられぬ迷宮を作り出せ。

 恐怖と混乱の中で敵を惑わせよ。


 幻惑のルーンよ、今ここに。

 その力を我に与え、敵を幻の世界へ誘え!」


 短剣にルーンを刻み敵に投げつける。マンティコアの後ろ足に刺さった短剣が敵に幻視を見せる。見当外れな場所にマンティコアが攻撃を加える。その隙に横っ腹に剣を突き立てる。分厚く堅い皮に普通ならば剣など刺さらないが、力のルーンで強化した力の全てを注ぎ込んでずぶりと深々と剣が突き刺さる。


【GYAO!!】


 マンティコアが不可視の攻撃を受け激しく動こうと身構えるが、そんな暇は与えないっ!!


Ansuz()、風刃発動!

 風の力よ、刃となれ!」


 短縮詠唱で事前に剣に刻まれたルーンを発動させる。体内に刺さった剣から風の刃が敵の内臓を切り刻む。


【GYROOOOOOOOOO!!!】


 びくんっと身体を震わせ、マンティコアはその場に崩れていく。


「……まぁ、合格としてやろう。魔獣は強い。まともにやり合うのではなく、準備を重ねて一気に終える。駄目なら死ぬ気で逃げて次の機会を待つほうが可能性が高い。解体しろ」


「はい」


 それからマンティコアを解体していく。凄いな、内臓はぐちゃぐちゃだが外皮はきちんと形を留めている。それほどに強力な皮で作った武具は素晴らしい性能だろう。皮と爪、牙に毒袋、そして……


「これが、魔石」


「そうだ。魔獣を魔獣足らしめているのはその魔石だ。魔力の結晶、それ一つで街の一等地に家を持てる。様々な魔道具にも用いれるし、魔道具を動かす燃料でもある。そして、それ以外にも使い方はある。とりあえず儂が預かっておく」


「はい、師匠」


「さて、どうだ、まだいけるか?」


 俺は自分の装備を確かめる。自分自身で準備した道具、魔道具の作り方、ルーンの刻み方、たくさんのことを師匠から教わっている。


「いけます」


「よし、進むぞ」


 結局その後はゾンビ数体の群れを発見し、炎のルーンで処理して帰ることになった。ゾンビからは小ぶりな魔石を5個手に入れた。


「初めてにしては落ち着いていたな。はじめは減点だが、ゾンビにひるまなかったのは減点なし」


「ありがとうございます」


「帰ったら装備の、ゴホゴホッ……」


「大丈夫ですか師匠」


「なんでもない、先に帰っとれ」


「しかし」


「いいから帰れ!! お前がやらなければいけないことは山積みだろ! 儂が帰るまでに終えて無ければ森を3周させるぞっ!!」


「わかりました! 気をつけて下さい」


 最近、師匠の体調が良くない。たまに外に出て激しく咳き込んでいることも知っている。しかし、師匠は何も話してくれない。


 それからは日課に魔獣退治が加えられ、バジリスクやサイクロプスなどの中級の魔物も難なく倒せるようになった頃、俺は16歳になった。


「アレス、お前は魔物を倒すためならどんなことでもするか?」


 16になった日、師匠が神妙な面持ちで俺にそう問うてきた。迷いはない。


「はい師匠、俺はどんな事をしてでも魔物を殺します」


「それが、人間を捨てることになってもか?」


「はい、俺は、人間を捨ててでも魔物を殺したいです」


「ふむ、これを見ろ」


 師匠が腕をまくると腕に紋様が刻まれている。よく見ると赤く淡く光っている。


「これは、魔紋という。素質がないものが精霊魔法を使う方法でもあり、人知を超えた力を得る方法でもある」


「そんな方法があったのならなぜ早く教えてくれなかったのですか?」


「死ぬからだ」


「え、それは」


「お前も気がついていただろう。儂はもうすぐ死ぬだろう」


「そ、そんな……では、なぜこの話を私に?」


「準備が整ったからだ。アレス、お前を拾ってから5年間、俺はお前にずっと聖遺物を喰わせてきた。神具である霊木の像を砕いて少しずつ喰わせてきた。そして、日々の瞑想により聖気を十分に魂に刻み込んだのだ。この状態であれば、儂のように魔素に魂を蝕まれることは、たぶん、無い」


「たぶん」


「魔紋を作る方法は、外法だ。先程言った、人間を止める方法だ」


「どうするのですか?」


「魔石を、喰うのだ」


「魔石を喰う……」


「この方法を知っている奴らは、魔物食いと呼んで忌み嫌う。場合によっては討伐されることもある」


「誰が知っているのですか?」


「教会の上層部、それと、聖騎士だ」


「聖騎士、師匠がそうなのですね」


「気がついていたのか」


「はい、学んでいく内に、師匠の剣筋が聖騎士のそれであること、深いルーン魔法への知識、それと、物置の奥に在る宝箱の中身を見ました」


「そうか、それでは話しておこう。儂がなぜこんな場所で生きているのかを」


 師匠の過去、ついにその秘密が語られる。


「儂は教会に仕える聖騎士、イスタルン王国聖騎士長を務めておった。これでもイスタルン王国にいた250名の聖騎士のトップじゃった。しかし、あのヴィルヘイムに陥れられたのだっ!! やつの不正を暴こうとした我ら聖騎士隊と儂を、罠にはめて亡き者にしようとしたっ!! 部下たちは皆、死んでいった……儂は命からがら、追ってからこの死の森に逃げることで助かったんじゃ……」


 空を見上げる師匠の瞳は、今まで見たことがないほど悲しみで溢れていた。


「それから10年以上、儂はヤツへの憎しみと、より力を求め外法に手を染めた……しかし、儂は完璧な魔紋は手に入れることが出来なかった。確かに以前よりも力は増したが、代わりに、寿命を失った……そこに、アレス、お前が現れた。使えると思った。お前を利用し、ヴィルヘイムに復讐を、そう考えてお前を鍛えることにしたんじゃ」


 俺は何も答えなかった。俺の中に師匠を非難するという気持ちは、全く無かった。自分でもこの話を聞いても全くそんな気持ちは湧いて来なかった。


「この6年、準備に準備を重ねてきた。今のお前なら、完成された魔紋をその身に宿すことが出来る。儂はそう確信している。お前は儂の想像を超えて成長した。きっと試練を乗り越えられるはずだ」


「師匠」


 ただ、嬉しかった。初めて師匠に認められたことが嬉しかった。


「俺は、魔物を倒すため、そして、師匠を陥れた、村を守らなかったヴィルヘイムを倒すためにその外法を受け入れます」


「……では、まずはこれを飲め。先に言っておく、辛く苦しいだろうが、自分を信じろ。魔物を殺したいという気持ちを、家族の仇を絶対に取るという強い気持ちを忘れるな」


 師匠の手には小さな魔石が置かれている。俺は、迷うことなくその石を手にとり、一気に口に放り込んだ。ごくり。驚くほどあっさりと、魔石は飲み込まれていく。


「……これで、終わりですか……?」


「アレス、信じているぞ」


「師匠、なにを? ゴアアアアアッ!!?」


 突然腹を貫かれたかと思った。いや、燃え上がっている。体内を内側から焼かれるような、生きたまま炎にくべられているような痛みが腹からゆっくりと全身に伸びていく。


「グアアアアアアアッッ!!!」


「気を失うな、意識を保て、意識が飛べば魔石は吐き出される。飲み込めっ! 魔石の力を身体に取り込み、飲み込むんだ!!」


 吐き出した。痛い。熱い。もう嫌だ。吐き出そう。無理だ。


「があああああああっ!!」


 頭が焼ききれそうだ、無理だっ!! こんなもの、耐えられるはずがないっ!! 意識が、飛ぶっ……


「おにいちゃん」


「がっは!!」


 眼の前に妹が立っている。次の瞬間、妹の身体が切り刻まれる。眼の前に落ちる妹の首。


「おにいちゃん」


 見開いた目から光が消えていく。


「やめろぉぉぉっ!」


 次は父親だ。上半身が吹き飛び、腕が飛び、血が降り注ぎ、眼の前に父親の首が落ちる。


「アレス」


「や、止めてくれぇ!!」


 そして、母親、友人、村人、次々に目の前で惨殺されていく。


「くそっくそおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 そして、キマイラがニタァと笑いかける。俺を見下ろしている。


 許せねぇ。


 見下している。


 絶対に許せねぇ。


 妹を、父を、母を、死体を踏み潰し、喰い、凌辱する。


 ぶっ殺してやるっ!!


 俺は、お前ら魔物を絶対にっ!!


「許さねぇ!!!!!!!」


 視界が戻る。眼の前には師匠がいる。


「やはり、乗り越えたか。流石は自慢の弟子だ」


 俺の手は、薄っすらと光り輝く紋様に包まれていた。




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