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第1話 復讐の始まり

ダークファンタジーに挑戦してみます

 雨が降っている。


 俺の足元には魔物の死体が転がっている。

 全身血だらけの俺の身体を雨が洗い流してくれる。

 俺は迷うことなくその死体に腕を突き刺す。

 ぐちゃぐちゃと魔物の中を弄り、目的の物を掴み、引きずり出す。

 俺の手には怪しく光る宝石のような石がある。

 俺は、そのままその石を飲み込む。


「ぐうううぅぅぅぅ」


 全身を引き裂くような痛み、体中に浮かんだ魔紋が怪しく光る。


「がああああぁぁぁぁぁっ!!」


 この痛みが俺の中での怒りを再び強く呼び起こしてくれる。

 復讐の炎を燃え盛らせてくれる。

 忘れてはいけない、俺は、魔物を絶対に許さない……

 俺は魔物の死体から魔石を引きずり出す作業に戻っていく。


 回想:《《幸せだった》》日々


「おにーちゃーん!」


「危ないぞセリナー、走るなー」


 僕の言う事を聞かないから、いつも妹は痛い目を見ている。

 今も僕が声をかけてもまったく聞く耳を持たないせいで、派手にころんだ。


「うえーーーん!」


「だから言ったろ、ほら見せてみろ。

 なんだよ、少し赤くなってるだけじゃないか」


 僕は腰の水袋で布を濡らして優しく傷を拭いてあげる。


「いたいよー」


「大丈夫、痛いの痛いの空に羽ばたけー!」


「はばたけー!」


 大きな空に二人の手が広げられる。

 大きな手と小さな手、2つの葉っぱが青い空に浮かんでいた。


「おかえりー」


「ただいまパパママー」


「ただいま」


「セリナおかえり、アレスもお帰り。

 さ、ふたりとも手を洗ってご飯が出来てるわよ」


 セリナは母さんの言う事を無視して椅子に座っている父さんの膝にぽんと乗っかる。


「おお、お姫様、ママの言うことを聞いただろ、外から帰ってきたらまず手を洗うんだ。今日は二人の大好きなミルクスープだぞ、チーズもタップリだ」


「ほんとっ! おにーちゃん、早く早くー!」


「まったく、ほら、手を出して」


 僕はセリナの小さな手に水桶から水をかけて洗ってやる。


「くすぐったーい」


「ちゃんと洗わないと駄目だぞ」


「はーい」


 丸太づくりの家の台所と一緒になっている部屋の中央に木造りのテーブルと椅子が並んでいる。一番奥には父さんが座っている。そのテーブルには母さんが調理した料理が並んでいる。僕とセリナの大好物である野菜と鶏肉のミルクスープ、上にはチーズがタップリかけられていてトロットロになっている。今焼き上げたばかりのパンを付けて食べれば美味しくて天にも登っちゃう事は間違いない。

 僕も急いで手を洗い自分の椅子に腰掛ける。

 母さんも揃って皆で手を合わせる。


「いっただっきまーす!」


 今日はセリナと遊んでいたからもうお腹がぺっこぺこだ。

 さっそくパンをちぎってスープを付けて口に放り込む。

 優しいミルクとチーズの濃厚な味、ふわふわのパンと合わさって本当に美味しい!


「おいしー!」


「セリナ、口のところにスープがついてるぞ」


「ほら、こっち向いて。急いで食べなくてもご飯は逃げないわよ」


 父さんも母さんも笑顔でセリナを可愛がっている。


「そういえばアレスはケイトに勝ったそうじゃないか!

 ベックのやつが悔しがってたぞ、父さんもベックには負けたことないからな!

 やっぱりお前は自慢の息子だ」


 父さんの大きな手がわしわしと僕の頭をなでてくれる。

 ケイトは村の幼馴染で僕のライバルだ。今のところ35勝30敗、最近は僕が連勝している! ケイトのお父さんのベックさんは悔しがってケイトに稽古を付けていた。

 父さんはこの村一番の剣士、普段は母さんと一緒に畑を耕したり家畜の世話をしているけど、昔は街を守る衛兵として働いていた。

 今はこの村に移り住んで少しずつ周囲の開発をしている。


 この村はエンデンティア大陸の東に位置するイスタルン王国の外れ、山岳部に新しく開拓された村で、名前をエルドリアというんだ。魔物が出ることもあるけど、この山は鉱物が豊富で、大地も豊かだから、これから大きく発展する可能性があるということで、父さんと母さんは移り住んできたんだ。


「セリナ、寝るなら部屋にちゃんと行きなさい」


「はーい」


 食事を終えて父さんの膝の上でうとうとしていたセリナに母さんが優しく声をかける。


「ほら行くぞ」


「はーい」


 僕はセリナを連れて自分たちの部屋へ行き、固く絞った布でセリナの顔と身体を拭いてあげて寝間着に着替えさせベッドに寝かしつける。


「おにーちゃん、おやすみなさい……」


「ああ、お休み」


 僕は一旦部屋を後にする。セリナはよっぽど疲れていたのかすぐに寝息を立てている。


「手伝うよ」


「あら、ありがとうね」


「アレスは偉いな」


「あなたも手伝ってくれてもいいのよー?」


「おうマイハニー、皿をここにしまえばいいのかい?」


 僕の目から見ても二人は、仲が良い。仲が良すぎる。今もなんか、イチャイチャし始めた……やれやれ。

 皿洗いを手伝って拭き上げて棚にしまう。

 僕も今日は色々やったからまぶたが重くなってきた。


「僕も寝るね」


「ええ、おやすみなさい」


「たっぷり眠るんだぞ」


 母さんが額に優しくキスをしてくれた。少し照れくさい。

 僕も部屋に行って身体を拭く、寝間着に着替えて、眠っているセリナの頭をなでて、ベッドに入る。

 布の中に詰められた藁の据えた匂い、その柔らかさと温かさに包まれて、あっという間に眠気に負けてしまう。今日も、楽しかったな……


「アレスっ!! 起きろ!!」


「セリナっ! 起きてっ!」


 いきなり激しく身体を揺さぶられて起こされる。

 目を開くと父さんの顔、その表情は見たこともないほどに険しい。

 母さんは寝ぼけているセリナを背負っている。


「な、何が、起きたの?」


「魔物だっ! 逃げるぞ!!」


 寝ぼけた頭をぶん殴られたような気がする。

 一気に目が覚めた。

 父さんに手を引かれバンッと扉を開けて外に出ると、地獄が広がっていた。


 パチパチと燃える家、眼の前には煙が充満して苦しい。


「こっちだっ!」


 強く手を引かれる。父さんは母さんをかばいながら村の南へと進んでいく。

 周囲からキンキンと戦いの音が聞こえる。

 そして、悲鳴も……


「怖いよ父さんっ!」


「大丈夫だっ!! 父さんが絶対に守ってやる!!」


「こわいよーおかーさーん!!」


「お願いセリナ静かにして、魔物に気が付かれちゃう」


 怖がるセリナを母さんは必死に抱きしめながら走っている。


「くそっ!! アレスっ!! 母さんを頼む!!」


 その時、黒い影が父さんに飛びかかった。


「フンッ!!」


 ギャンっ! 甲高い音がする。父さんの持つショートソードには血がべっとりと付いている。


「早く行け、俺もすぐに行く!」


 母さんが俺の手を掴んで走り出す。


「母さん、父さんが戦っている!」


「私達がいても邪魔になるだけっ! 早く高台の教会へ!」


 僕たちは必死に走り続けた。その途中に何人も倒れている村人を見た。

 怖い、恐ろしい、でも、走るしかなかった。


「そ、そんな……」


 母さんの歩みが止まった。

 僕たちが目指していた教会は、崩れ落ちて燃え上がっていた……


「け、ケイトっ!?」


 すぐ先に倒れていたのは、ケイト、それに覆いかぶさるようにベックさんが……


「あ、足が……」


 背中をざっくりと切り裂かれ、足がちぎれており、微動だにしない。

 ケイトも真っ赤な血溜まりに倒れて、動かない。


「うあああああっっ!!」


 俺は母さんの手を払って走り出してしまった。


「だめっそっちは危ないわっ!!」


 その声に反応して振り返ると、母さんの背後に大きな影が見えた。


「母さん!! 危ないっ!!」


 影は腕を振りかざし、母さんに向けて振り下ろした。


 ガィンっ!!


「逃げろっ!! ライサ!!」


「ポールっ!! はっ!! その腕!!」


 父さんが間一髪敵の一撃を受け止めてくれた。

 助かる……そう思ったが、すぐに絶望に変わった……


「と、父さん……腕が……」


「俺は良い!! アレス!! 母さんをっ!!」


 足が震える、俺は気がつけば腰が抜けて自分から漏れた尿の上に座っていた。


「アレスっ!! 立って! 逃げ」


 眼の前の光景がまるで止まったような気がした。

 しかし、確実に動いている。

 父さんの上半身が空を舞い、そのまま母さんの身体をセリナごと引き裂いた……

 セリナの身体が、僕の眼の前にどしゃっと嫌な音を立てて転がってきた……


「お……にい……ちゃ」


 痛みに苦悶した見開いた目から光がすっと消えていく。

 ああ、セリナが死んだ。殺されたんだ。

 父さんも母さんも村の皆も、全員、そして、俺も……


「あ、ああああ、あああああああああっ……!!!!」


 立ち上がろうとしても足がもつれる、僕は必死にもがき、動こうとするが、身体が頭の言うことを聞かない。混乱している、怖い、嫌だ、母さん、父さん、死ぬ、嫌だ、立て! 逃げろっ!!


 芋虫のように転がっていたんだと思う。

 視界がふっと暗くなり、魔物が僕に飛びついてきたことがわかった。

 完全に偶然だ、たまたま僕が転がっていたからその一撃の直撃は免れた。

 キメラ、複数の動物が混じり合った魔物、その魔物と目があった。

 絶対的な死の予感。

 哀れな小動物に対するキメラのいやらしい笑み。

 全てが脳に焼き付いた。


 ゴゴゴ、地面が揺れ、そして、崩れた……


 そうだ、ここは、高台、直ぐ側に崖が有る。

 あの巨体が飛びかかり衝撃を加えたせいで、崖の一部が崩落した。

 僕は気がつけば崖の際まで逃げていたのだ……

 空は村の燃え盛る炎で赤くなっていた。


 崖の下は死の森、僕は、このまま落下して、死ぬ。

 キメラは崖の上でこちらを見下ろしている。

 そのニンマリとした笑みを僕は一生忘れることはないだろう。


 空に放り出され、僕の意識はそこで途絶えるのだった。

不定期更新で頑張ります

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