人にはそれぞれの日常がある
人にはそれぞれの日常がある
私は、誰のことも信用していないのかもしれない。
私は、私だけでひとりじゃないから
私は、2人で過ごしてきたから。
手を合わせて、鏡合わせで、2人きりで。
どこかで読んだ「複合個別人格」のように。
『だから、しんじたくなかったのに。』
「宵、出番の初回がその台詞でいいの?」
眠っているというより、中に引きこもってしまった宵はぼんやりと呟く。
『べつに、いい』
至極どうでもよさそうに、それでもたどたどしく吐き捨てる。
そのまま私は流れるような仕草でとあるアプリのサーバーの通話に入る。
宵なら、そんなことはしないんだろうけど。
宵は、人に臆病なのだ。
私は、人がいないと壊れてしまう。
のはずなのに、失踪したあの彼がいないと私は自然体になれない。
見たままそのまま言うのであれば、壁という名の結界が取れないのだ。
誰に対しても。
どんなに近い存在の誰に対しても。
自分の身体に一枚の厚い膜が貼られている感覚が取れなくて、人類全てに対しての興味を数割方削がれている。
ただでさえ興味薄いのに。
なんてことしてくれる。
自分でさえどうにもならない結界なんて本当にどうしようもない。
《俺がいるからもういいだろ、他の奴なんて》
ゆっくり横を見てもう一度正面に向き直る。
そしてアプリの通話をミュートして宵と一言
「いや誰やねん!」
『いや誰やねん!』
追伸
この話単体だけなら、ノンフィクションなんだよね。
本当に叫んだよ。
実家の台所で。
留守番中でよかったわ。