特命ファイル1;ヘイ⭐︎ボンド参上! 3
夜の銀座に繰り出すと、夜の蝶が乱れ飛んでいた。
ギラギラしたネオンが、オレの血を騒がせる。
「イケメンのお兄さん、ちょっと寄ってかない?」
「いい子いるよ?」
客引きには目もくれず、オレは店を目指す。
案外地味なビルの地下にあった。入り口は厳重でガードマンがいる。
「失礼ですが、ここはあなた様が入れる店ではございません」
慇懃に断るガードマンだが、引き下がるわけにはいかねえ。
「この紹介で来たんだ」
オレはすっとオヤジの名刺を差し出した。
すると、ガードマンの顔色が変わる。
「こ、これは! ……失礼いたしました。どうぞ」
さっきの態度とはうって変わり、恭しくしく扉を開ける。
おやじのカードを見せれば、どんな店もフリーパス。
これだけは役得だな。
「いらっしゃい、マユミです。この店は初めて?」
「ああ」
やって来たのは人間のキャバ嬢。気を利かせたのだろう。もっとも高収入職は殆ど獣人の手に渡り、人間の女がやれる職はこういったのしかない。厚化粧でごまかしているが、年は三十歳前後か。下手すると四十? 泣けるねえ。
「嬉しいな。お酒は?」
「あんたの好きなので」
「あら、ありがと」
他の席を見回すと、斜め後ろにアリクイ部長がいた。
おーお、お盛んだこと。
「あのアリクイのおっさん、良く来るのか?」
「ええ。迷惑なのよねえ。あの細長い鼻でベタベタ触ってくるし」
「ふうん」
確かに美女二人に囲まれてご満悦のようだ。だが他に客はいない。
「いつも一人か?」
「そうね」
どうやら、ここで裏取引はしてないらしい。外したな。
小一時間飲むとアリクイ部長は帰るらしく、会計を頼んでいた。
(ちっ)
仕方ねえ、後をつけるか。
どうやら彼はまだ遊び足りないらしく、路地裏のバーに入る。
いよいよか?
少し経ってからオレも中に入った。
「いらっしゃいませ」
(おや?)
そこにいたのはミケネコ美だ。
カウンターでアリクイ部長と楽しげに談笑している。
酒が入っているせいか普段より色っぽい。
お互いまんざらでも無さそうだ。
(この二人に何かあるのか?)
スパイ容疑とからめると、飛んでもないかも知れねえな。
アリクイ部長より、おやっさんがひっくり返るかもな。
カウンター近くの席が空いていたので、オレはそこに座る。
たしかにあのオヤジ、ベタベタ触ってるな。キモい。
「あ、そろそろ時間だ。次どうだい?」
アリクイ部長が思わせぶりに言う。
「そう。私は飲み足りないから、お先にどうぞ」
女は冷徹だ。今までのは営業スマイルってやつか。
何か言いたそうなアリクイ部長はすごすごと引き下がり、家路についた。
代わりにオレが、空いた彼女の隣に座る。
「お姫様、ここ良いかな?」
「あら、どうぞ」
「いける口?」
「あなた次第かもね」
「じゃあマスター、マティーニ2つ」
オレも酒は強いが、ミケネコ美も中々だ。
当たり障りのない話をしていたが、意外と食いついてくる。
「ふぅ、飲み過ぎちゃったかな……」
XYZを飲み干すと、さすがにミケネコ美も酔ってきた。
チャンスだな。
「どう? いけない遊びしてみないか?」
そう言ってオレはスーツの裏ポケからあるブツをチラッと見せる。
途端に、彼女の顔が豹変した。鼻をヒクヒクさせている。
煙臭いバーの中でも、分かったようだ。
「そ、それ欲しいっ!」
「もちろん、姫がお望みなら。帝国ホテルのスイートで如何かな?」
「行く! 行くわっ!!」
酒もあって興奮し切ったミケネコ美は、すっかりオレの虜になる。
今夜は長くなりそうだ。
読んでくださりありがとうございます。続きは明日1/7の7か8時ごろの予定です。朝っぱらから何やってんだか。。