将軍の憂鬱
「はぁぁぁ…」
おぉ。早々のため息、失礼した。儂は帝国辺境伯、帝都西方軍統括司令本部司令長官を拝命している。まぁ長ったらしいからな。皆は以前拝命していた西方将軍からとって、『将軍』と呼んでくれている。しかしなぁ…。
「はあぁぁ…」
「失礼いたします。おや?将軍。また溜め息なんか…あぁ。マートのことですね?」
「ああ。そうなのだ。しかしなぁ…前線に出てもらわんと功績が…」
「良いではありませんか。資料室に閉じこもっていても」
「ぬしは困らぬであろう。仕事の能率がマートによって上がっておるのだから」
「ええ。彼のお陰で、戸籍の見直しによる人口の増加から収穫量調査による兵糧の増加。商工業促進による税収の増加まで。上げればキリがありませんが、内政官として非常に優秀ですよ!」
「うむ…しかしだな…。帝都や後方の都市群であれば出世は望めるだろう。周りからの信頼や人脈も築けるであろう。だがな。ここは、国境に面しており、最前線でもあるのだよ。そうなると、信頼や人脈を築くには、マート自身の武力による活躍が必須なのだ…」
「それは存じておりますが…」
「それにな。やつは2年前にここに流れてきた。この辺境にだ。しかも比較的治安の良い街道を通ってではなく、魔物や盗賊が跋扈する森を抜けて…だ」
「将軍は、彼に武働きが可能である…そうお考えというわけですね」
「うむ。しかし…マートを前線に配置しようにも、本人から『お願い』をされてしまうと、どうにも断れぬ…」
「まぁ…彼の『お願い』に関しては、無理難題を押し付けるのではなく、まぁいいか。と思える妥協的な部分がありますから、断りにくいですよね。甘々な将軍様とはいえ」
「甘々は…多少認めざるを得ぬが…」
「多少ではないでしょうに…。それで、彼はなんと?」
「輜重部隊の配属を願ってきた」
「まぁ…戦うには食料が肝心ですからね。それは確かに断りにくい。しかし、武働きは望めない…」
「難しいが…」
そう。マートの願いは、儂の思う活躍をしてはくれなんだが、いやしかし…うぅん…。頭をフル回転させても望ましい答えは出てこない。活躍はしてほしいが、マートの望みも命も大切にせねば…。やはり甘いのか…?
「ふぅ…よし。これを」
「はい。マートの輜重部隊配属認可証明書。たしかに受け取りました。補給部隊長に提出し、マートに声をかけてきます」
「頼んだ」
「はい。承りました」
はぁぁ…少しは変わってくれないか…。まぁ無理だろうな。