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運も実力のうち!  作者: 沙河泉
一章 第二部
23/25

おつかい ①

「マート。一つお使いを頼まれてはくれんか」


「へ?うわぁあちち!」


 あくる日の朝食中、将軍が開口一番お願いをしてきたため、驚いて手に持っていたスプーンからスープがズボンに垂れてしまった。朝から『運』が悪いというかなんというか・・・。


「おぉ!スマン驚かせてしまったか。誰か!」


「大丈夫。ちょっとビックリしちゃっただけだから」


 普段お使いなんて頼んでこないからね。っとクリーンと冷却の魔法を使ってっと。幸い火傷するような温度ではないからね。そこは『運』が良かった。というか、貴族の食事で、熱々のものなんか出ないんだけれど・・・。


「そうか。しかし、いつ見ても無詠唱で同時処理の素早い魔法は惚れ惚れするの」


「ありがとう。それで、お使いっていうのは?」


「おお!そうだった。先日の戦で【西方国境守備城塞】が使い物にならなくなった。そう報告してくれたであろう?」


「【西方国境守備城塞】・・・。あぁ【音無の砦】ね!うん。あそこに戦略的価値はないかな。だって、もぬけの殻であったとはいえ、敵陣と地下道でつながっているからね」


 そう。ものすごくお小言をもらったけれど、あそこの砦は、国境を跨いで地下で繋がってしまっている。埋め戻したとしても、魔力の痕跡を確り消さないとまた再利用されて、同じ悲劇の繰り返しになってしまう。だから、戦略的価値が著しく低下したって報告したんだよね。


「うむ。ただ、戦略的価値が全くない。というわけではなかろう?」


「うん。上物・・・。建物自体の威圧感はあるからね。存在している。というだけ。張りぼてとしての価値はあるかな」


「うむ。そこでだ。儂としては、甚だ遺憾ではあるが、砦より数キロ後方にある旧関塞を修復しそこを守備の要としたい。国境が後退するのは甚だ遺憾ではあるが」


「・・・。それで、お使いと何の関係が?」


「うむ・・・。儂の名代として「却下!」うぐぅ・・・。そこを何とか」


「えぇ・・・。名代って・・・。面倒くさいよぉ」


「しかしなマート。儂にはお主しか頼れる者が居らんのじゃ。息子たちは皆帝城で働いて居るし」


「呼び戻せばいいじゃない・・・。特に長男なんて正式な跡継ぎなんだからさ」


「鉄道郵便を使ったとしても、向こうにつくのに二日。読んで返信が来て二日。その間に移動していたとしても、最低でも三日はかかる。こちらに着いてから諸々の準備をしても、出発まで最低一週間はかかる。であれば、今一番近い場所にいるマートに行ってもらった方が・・・」


「でもさぁ・・・「無断外出・・・」ん?」


「無断外出を許さぬと言ったら?」


「えぇ・・・それを言うのは卑怯じゃない?だって、許してくれたじゃない。蒸し返されるのはさぁ・・・」


「夜間に病院に侵入し、病人と秘密裏に面会」


「・・・。」


「門を閉ざした屋敷に帰ってきた際、開錠魔法を使って帰宅。そのうえ、錠は開けっ放し。侵入者に来てくださいと言っているものであったと」


「・・・。」


「土を落とさずにベッドに入り寝る。使用人たちがどれほど苦労して土汚れを落としたか」


「・・・。はぁ・・・。わかった。わかりました!」


「おぉ!では「ただし!」ん?」


「名代ではなく、いつも通り、マートとして。お忍びとしてなら行く」


「ふむ・・・。まぁそのあたりが妥協点かの。よろしく頼むぞ」


「へーい・・・」


 まったく。昨日に戻れるのなら、戻って自分をどつきたい気分だよ。トホホ・・・。


―――――――


 まったく、自分が目立たないということに関しては、頑として譲らんのう・・・。


「失礼いたします」


「おぉ。お主か」


「いま、マートとすれ違いましたが、何かあったのですか?浮かない顔をしていましたが」


「あぁ。実はな・・・」


 儂は、先程の話を副将であるドルツに話した。


「なるほど。確かに、彼が気落ちするような内容ですな。しかし、将軍も詰めが甘い。一言『命令』と言えば良いものを・・・」


「儂が一番好かん言葉じゃ」


「まぁ。そうですね。私も使わないですし」


「なぜ言った・・・」


「そんなことより」


「流された・・・」


「はいはい。落ち込まない落ち込まない。60を過ぎてそんなことやっていたら周りが困惑してしまいますよ」


「幼馴染からの言葉が辛辣じゃぁ・・・」


「話が進まないので、しゃきっとする!それで、なぜマートを行かせるのです?」


「それはな・・・」


 儂は、ドルツに自分の考えていることを話した。最初は驚いた顔をしたものの、話の内容をすぐに飲み込み、今後の動きのために方々に伝達するといって、部屋から退出していった。一を聞いて十を知る。そして迅速に行動できる人物など相違ない。ヤツが儂の幼馴染で大変助かった。さて、儂も一仕事するか。

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