おつかい ①
「マート。一つお使いを頼まれてはくれんか」
「へ?うわぁあちち!」
あくる日の朝食中、将軍が開口一番お願いをしてきたため、驚いて手に持っていたスプーンからスープがズボンに垂れてしまった。朝から『運』が悪いというかなんというか・・・。
「おぉ!スマン驚かせてしまったか。誰か!」
「大丈夫。ちょっとビックリしちゃっただけだから」
普段お使いなんて頼んでこないからね。っとクリーンと冷却の魔法を使ってっと。幸い火傷するような温度ではないからね。そこは『運』が良かった。というか、貴族の食事で、熱々のものなんか出ないんだけれど・・・。
「そうか。しかし、いつ見ても無詠唱で同時処理の素早い魔法は惚れ惚れするの」
「ありがとう。それで、お使いっていうのは?」
「おお!そうだった。先日の戦で【西方国境守備城塞】が使い物にならなくなった。そう報告してくれたであろう?」
「【西方国境守備城塞】・・・。あぁ【音無の砦】ね!うん。あそこに戦略的価値はないかな。だって、もぬけの殻であったとはいえ、敵陣と地下道でつながっているからね」
そう。ものすごくお小言をもらったけれど、あそこの砦は、国境を跨いで地下で繋がってしまっている。埋め戻したとしても、魔力の痕跡を確り消さないとまた再利用されて、同じ悲劇の繰り返しになってしまう。だから、戦略的価値が著しく低下したって報告したんだよね。
「うむ。ただ、戦略的価値が全くない。というわけではなかろう?」
「うん。上物・・・。建物自体の威圧感はあるからね。存在している。というだけ。張りぼてとしての価値はあるかな」
「うむ。そこでだ。儂としては、甚だ遺憾ではあるが、砦より数キロ後方にある旧関塞を修復しそこを守備の要としたい。国境が後退するのは甚だ遺憾ではあるが」
「・・・。それで、お使いと何の関係が?」
「うむ・・・。儂の名代として「却下!」うぐぅ・・・。そこを何とか」
「えぇ・・・。名代って・・・。面倒くさいよぉ」
「しかしなマート。儂にはお主しか頼れる者が居らんのじゃ。息子たちは皆帝城で働いて居るし」
「呼び戻せばいいじゃない・・・。特に長男なんて正式な跡継ぎなんだからさ」
「鉄道郵便を使ったとしても、向こうにつくのに二日。読んで返信が来て二日。その間に移動していたとしても、最低でも三日はかかる。こちらに着いてから諸々の準備をしても、出発まで最低一週間はかかる。であれば、今一番近い場所にいるマートに行ってもらった方が・・・」
「でもさぁ・・・「無断外出・・・」ん?」
「無断外出を許さぬと言ったら?」
「えぇ・・・それを言うのは卑怯じゃない?だって、許してくれたじゃない。蒸し返されるのはさぁ・・・」
「夜間に病院に侵入し、病人と秘密裏に面会」
「・・・。」
「門を閉ざした屋敷に帰ってきた際、開錠魔法を使って帰宅。そのうえ、錠は開けっ放し。侵入者に来てくださいと言っているものであったと」
「・・・。」
「土を落とさずにベッドに入り寝る。使用人たちがどれほど苦労して土汚れを落としたか」
「・・・。はぁ・・・。わかった。わかりました!」
「おぉ!では「ただし!」ん?」
「名代ではなく、いつも通り、マートとして。お忍びとしてなら行く」
「ふむ・・・。まぁそのあたりが妥協点かの。よろしく頼むぞ」
「へーい・・・」
まったく。昨日に戻れるのなら、戻って自分をどつきたい気分だよ。トホホ・・・。
―――――――
まったく、自分が目立たないということに関しては、頑として譲らんのう・・・。
「失礼いたします」
「おぉ。お主か」
「いま、マートとすれ違いましたが、何かあったのですか?浮かない顔をしていましたが」
「あぁ。実はな・・・」
儂は、先程の話を副将であるドルツに話した。
「なるほど。確かに、彼が気落ちするような内容ですな。しかし、将軍も詰めが甘い。一言『命令』と言えば良いものを・・・」
「儂が一番好かん言葉じゃ」
「まぁ。そうですね。私も使わないですし」
「なぜ言った・・・」
「そんなことより」
「流された・・・」
「はいはい。落ち込まない落ち込まない。60を過ぎてそんなことやっていたら周りが困惑してしまいますよ」
「幼馴染からの言葉が辛辣じゃぁ・・・」
「話が進まないので、しゃきっとする!それで、なぜマートを行かせるのです?」
「それはな・・・」
儂は、ドルツに自分の考えていることを話した。最初は驚いた顔をしたものの、話の内容をすぐに飲み込み、今後の動きのために方々に伝達するといって、部屋から退出していった。一を聞いて十を知る。そして迅速に行動できる人物など相違ない。ヤツが儂の幼馴染で大変助かった。さて、儂も一仕事するか。




