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運も実力のうち!  作者: 沙河泉
一章 第一部
22/25

話を聞きに

 明日も頑張ろう…なんて言ったけどさ。夜はそんなに短いわけもなく…。


「んー…。寝られない。まっ少し気分が高揚しているってのもあるのかなぁ…。それに、久々にお避けを飲んだってのもあるか」


 夕食時に付き合うということで、少々葡萄酒をのんだからね。まぁ…とても久々だから、お酒のせいもあって寝られないのかな。

 

 そう僕は結論付けて、屋敷から少し離れた街へと繰り出す。もちろん、扉を閉めるときは最深の注意を払って。なにせ見つかれば、どこに行くのか質問の嵐だ。全く…義理なんだからそんなに心配しなくてもいいのに…なんて。


 心配してくれるのはとても心地良いのだけど、自分の記憶が曖昧だから、なんとなく善意の塊の優しさに罪悪感を覚えるんだよね…。いつか自分がここから居なくなってしまう時が来るかなぁ…なんて思ってるから。


「ん…明るい。今日は…満月か」


 青白い光が、僕の行く先を照らす。雲一つない空に浮かぶは、青く輝く月。満月の光は、とても明るく、街灯に負けないほどの明るさだ。月は、負の象徴とも言われるけれど、この光は冷たい中に、夜道を照らす温かさみたいなのを感じる。


「やっぱり街は明るいなぁ…。街灯も飲み屋の灯もついてるからなのかなぁ…」


 だんだんと近づいてくる街の灯り。時刻は、真夜中を過ぎた頃にもかかわらず、賑やかな声やらコップがぶつかる音。それに、積極的に客引きを行う声まで。いろいろな音に満たされる…そんな不夜城が眼前に迫ってきた。


「でもまぁ…僕の用があるのは、こっちじゃないんだけどね」


 そう呟いて、進路を東に変える。町の東には、軍属専用の病院があるからだ。ちょっと遅いし、多少迷惑かなぁ…なんて思うんだけど、このくらいの時間しか人目に触れない時間はないからね。


 僕は、固く閉ざされた病院の門を魔法で静かに解錠し、序に入口も解錠して院内に侵入する。警備室の前を通るときは、しゃがんで死角に入ることで切り抜ける。バレたら大目玉。それこそ始末書に、将軍からの叱責に…叱られることのオンパレードだ…。消音魔法も使って、僕は目的の人物が寝ているであろう病室の扉を静かに叩く。中から返答はないだろう。そう思っていたけど…。


「…どうぞ」


 意外にも返答があったので、小声で失礼しますね。通って中に入る。


「誰かと思えば、マート殿じゃぁないですかい。こんな夜更けに一体全体なんのようで?」


「ごめんね。こんな夜遅い時間に…。少し聞きたいことがあって」


 僕が病院に侵入してまで会いに来たかった人物は、もちろん砦の副将さんだ。彼には、聞きたいことが山ほどある。まぁ…辛い記憶を呼び起こしてしまうのだけれど…。


「ふむ…まぁそこに立っていると疲れるでしょう?椅子がありやすから、そこに座ってくだせぇな」


「ありがとう」


「それで?聞きたいことってぇのは、なんなんです?」


「辛い記憶を呼び起こして申し訳ないんだけれど…。砦が襲われたとき、幻影の兵士がやってきたって話してくれたよね」


「ええ。実体はなく…というか、斬っても遺骸が残らなかったってぇ話やんですが」


「うん…。それなんだけどさ、何か気になったことはなかった?どんな些細なことでもいいんだけど…」


「そうですねぇ…。これと言って気になる点は…。なんせ、ワラワラやって来たんでね。敵を捌くのに必死で…」


「そう…か…。ごめんね。変なことを聞いて…」


「いえ。あっ!でも…なんか、初めと後では少し違和感みたいなもんを感じやしたね」


「…どんな!?」


「なんというか…懐かしいというか、会ったことがあるような…そんな感じがしやした。目も鼻立ちも全くわからない。のっぺらぼうみたいな感じでやしたのに…」


「ほぅ!あとは!?」


「あとは…。生きた感じがしなかったってのと、初めは魔法を放つ人間の方に向かう率が高かったってことですかねぇ…。あとは…無我夢中でやしたので」


「うん。ごめんね辛いことを聞いてしまって」


「いやいや。軍人であれば、死地に身を投じることなんていくらでもありやすから。ただ、今回の戦場がとりわけ酷かっただけ。でありやすから。気にしないでくだせぇ」


「うん…。それでも、話してくれてありがとう」


「なんのなんの!他にもこの敗残兵にできることがあれば…」


「生き残って帰ってきてくれた。それだけでも十分!そうだな…。自分を貶めるような発言は、今後は控えるように。ってのが、今のところのお願いかな」


「たはは…。善処しますわ」


「うん。それじゃ、おやすみなさい。ゆっくり休んで、怪我を治してね」


「ええ。前線復帰は無理でも、何とか早く退院しますわ。おやすみなさい」


 僕は、砦の副将さんの最後の言葉に強く頷いて、彼の部屋をあとにした。


「うぅん…やっぱり…か」


 何となくそうかなぁ。と思っていたけど、僕の予感は当っていそうだ。間違いなく悪い方向でね。でも、なんか…昔見たというかなんというか…初めてではない。そんな感覚なんだよなぁ…。


「とりあえず…自分の部屋に転移っと」


 魔法の腕は、人より上。でも、記憶は曖昧。魔法に関しては、呼吸と同じくらい上手に扱える。ただ、なんでかはわからない。今回の件も、なんとなく使われている魔法がわかるけど、どうしてそんな知識が自分にあるのかは、皆目検討もつかない。とりあえずは、日が昇ったら資料室に行って…。いや。王都の図書館にでも行ってみよう。


 知らないことを調べるには、あそこが一番だからね。


「ふわぁぁ…。とりあえず寝るか…」


 なんとなく頭を使いたいと思っていたけど、なんとなくではなく、ガッツリ頭を使ったから、気分も落ち着いて、眠くなってきた…。行きは、場所がわからなかったから徒歩で向かったけど、帰りは直接自分の部屋に転移したから、ベッドにダイブ。少しも立たないうちに、意識を落とした僕は、外に行ってましたという格好(外套を身にまとったまま)で寝ていたため、朝どこに行ったのか問い詰められたのは御愛嬌。流石に、すぐ眠ってしまったので【運】が悪いというか、自分のだらしなさを直さなきゃなぁ…なんて思ってしまったのは、ココだけの話さ…。

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