執務室にて
気は乗らないけど、恩ある将軍からのお呼び出しだからね。行かないといけない。そうこうしているうちに…というか、資料室の2つとなりが将軍の執務室になるんだけど…。
「マートです。来ましたよぉ」
『おぉ!今日は早いな。鍵は開いておる』
「はいはい。失礼しますよぉ」
「少し待っておれ。今この紙の軍勢との戦を終わらせるのでな」
「焦って間違えないでくださいよ?いつも詰めが甘いんだから」
「ハッハッハ」
眼の前で書類と格闘しているのは、齢60を超え、未だ現役の将軍である…。とまぁ格好つけて言って見るんだけど、僕の拾い主で、養父にもなってくれている辺境伯様だ。だから、多少の崩れた会話は問題なし!あのヒョロガリ隊長殿に見つからない限りはね。あの人、帝都から飛ばされてきて…っと陰口はよしておこう…。
「よし…終わったぞぃ…。中々に骨が折れる相手だったわ!ハッハッハ」
「いや…変に溜め込まずに、当日に決済しようよ…気分が乗らないからって仕事溜め込んで…。子供かっての」
「んんっ!それでだマート」
「あっ!話を逸らした!」
「まぁまぁ…。マートの説教は後で受ける故、先ずは、話を聞くのだ」
「はぁ…」
「んん。最近、国境付近がきな臭いのは、知っているであろう」
「もちろん。砦を建設して完成し、守りを固めつつあることも」
「流石だな。そう。その砦に聖国の一派が進軍してきているとの情報がもたらされたのだ。その数3万」
「ほぉ…。砦の守備は、多くて2万。常時は5千を想定。現状は、休戦状態だったから、常備兵は1万ってところかな」
「ふむ。察しがよくて助かる。そこで問題が起こった…」
「兵糧…」
「その通り!」
「それを…運べ…と?いやだなぁ…前線に出るの…。資料室で書類を整理をしていたい…」
「マートにも戦功を立ててもらいたいのだがなぁ…」
この人は…。僕は静かに文章を読んでは整理をして、生活苦にならない程度の給与で満足してるし、うざったいしがらみもいらないし…。はぁ…。まぁ恩があるからね…。不安そうな子犬の目をして僕を見つめてくる将軍…。立ち上がると190cmオーバーなんだよ?僕なんて165cmなんだから…見下ろして威圧的に言えばいいのにさ…はぁ…。
「はぁ…。わかりました」
「おっ!おぉぉぉ!では早速「だけど」…ん?」
「身分は、一般兵のままで」
「しっ…しかし…」
「また将軍に与えられたんだなんて思われたくないので」
「む…むぅ…。わかった。では、輜重隊付きの輸送兵としての任を与えるよう手筈を整える」
「畏まりました」
もう二言三言を交わして、執務室をあとにする。輜重輸送兵なら直接戦戈を交えることもないし。安心安心。自分の意見が通るし、思い通りにしてもらえる…。やっぱり【運】がいいな。