音無の砦③
足音を立てず、内壁内を歩く僕と大隊長。軍靴ってのは、思いの外響くし、煉瓦で作られているからなおさら気をつけないと…。
「しかし…なにもないのであるな」
「うん…」
大隊長の言う通り、何もない。そう。なにもないのだ。薬莢やら、保管されていたであろう武器の類、装填用の弾薬やら空の薬莢。そして、戦いの痕跡も。そう…不自然なくらい何もなく、そしてきれいなんだ。
「不可思議極まりないのであるが…。それに気味も悪い」
「うん…とっても不思議…それに…ん?」
「いかがしたのであるか?」
「うぅん…」
もう少しで曲がり角。というところで少しの違和感。なんかこう…川の流れに小石が落ちて一瞬だけ水の流れが変わる…みたいな?なんか上手い表現ができないけれど、一瞬だけ違和感を感じたんだよねぇ…。
「なんかほんの一瞬だけ違和感を感じたんだけど…」
「探ってみるのであるか?」
「いや。それよりも…誰か人を探さないと」
「うむ…」
何か警報みたいなタイプだったら嫌だし、全てが解決してから詳しく見ようかな。一応…マーキングだけしてっと。
「(チョイチョイ)」
「ん?」
曲がり角付近でしゃがみこんで、手だけで来るようにと合図をくれる大隊長。近づいてみて、彼が指差す方向に目を向けると…。
「へ?」
闇…そう…。まだまだ明るく、銃眼から差し込む光によって照らされている廊下であるのに…。手前は見えるのに、奥は闇に覆われている。音もなく光もない…。やっぱり、西の楼台でなにかあるとは思ったけれど、楼台の手前から異常が起きていたなんて…。
「いかがするのであるか?このまま突っ込むのであるか…?」
「うぅん…」
「流石に、敵がいるかもわからず、また、敵の魔法の制御下に置かれている場所に突入というのは、主であっても許可はできぬ…」
「流石に僕もこの中に突っ込むのは、御免被りたいかなぁ…」
「で、あろうな。して、どうする?」
「うぅん…」
なにかないかなぁ…と自分の身体を弄っていると、ズボンの右ポケットに硬い感触が…。
「おっ!1レブロン硬貨だ」
「ふむ。銅貨であるな。それが?」
「これに、閃光魔法を付与して投げてみるよ」
「むっ!?…しかして、主であるからな。造作もない…か」
「うん!」
大隊長が驚くのも無理はない。お金は、偽造と新造と改鋳の歴史を繰り返す代物だ。こと、魔法を使えば、銅塊をお金に変えることは難しくない。でも、細工を細かくするには、高度な技量が求められる。であれば、魔法で既存の硬貨の材質をイジれば良い。昔は、銅貨がよく金貨に偽造されることが多かったみたいで、偽造防止魔法が何重にもかけられ、それでも突破する人間が出るもんだから、魔法による改ざんができないよう、細かな魔法陣が刻まれることになったんだ。そう…硬貨に魔法をかけることができないようにね。それをやろうとしている僕に一瞬だけ、大隊長が驚いた。というわけであって…。
「一発勝負だから…かなり強めの閃光魔法をかけてっと…大隊長」
「ん?」
「これを、思い切り遠くまで…廊下の終端の壁に当たるぐらいの力で投げてくれる?」
「承知したのだ。フンッ!」
「ていっ!」
大隊長が投げると同時に、魔法を起動。しかし、さすがだねぇー!銅貨は徐々に光を増しながら暗闇に一筋の光を残し真っ直ぐ、向かいの壁に向かって飛んでいったのであった―――――――――。




