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運も実力のうち!  作者: 沙河泉
一章 第一部
10/25

露払

「敵襲ー!敵襲ー!総員配置につけーッ!」


「くっ…まだ朝飯前だったのによぉ!」

「腹減った…食いっぱぐれちまったもんな…」

「さっさと敵さんにはご退場願って、朝飯にありつかねぇとな!」

「だな!」


「敵は!」


「砦将閣下。見ての通りですわ。あちらさんの陣容、砂埃のせいで全く見えやしません。っかぁ!ここんところ雨なんて一滴も降りゃぁしなかったから、あちらさんのいい目眩ましになっていやがる」


「くっ…弓兵威嚇射撃!魔法兵は魔力温存!火砲兵は出られるかっ!?」


「弓兵配置に付きました!火砲兵は、弾薬が残り少ないですが、出られます!」


「くっ…威嚇射撃に弾を使いすぎたか…。よし。弓兵のみだ!威嚇射撃を始めよ!」


「はっ!撃ち方よぉい!!放てぇぇぇ!」


砦から一斉に放たれた矢の雨。射手たちの練度は高く、矢の密度は高い。盾で上空を防いでいたとしても、盾に当たる音で若干の恐怖心を煽ることができ、速度も落ちるだろう。そう考えるには十分な密度の矢の雨だ。それは、指揮官たちも同じ考えで…。


「ひゅー!やっぱすげぇや!あれっだけの矢をお見舞いしてやりましたからね。敵さんもまいるでしょう?ねぇ?砦将閣下」


「うむ。であればよいのだがな。観測兵!様子はどうか!」


「駄目です!砂埃で矢の行方が掴めません!それに…速度が上がったような気が…」


「くっ…第二射放てっ!」


「はっ!うちぃかたぁよぉい!放てぇぇぇ!」


放たれた矢は、1射目と同じ密度を保ち、綺麗な放物線を描いて飛んでいき、砂埃の中へと消えていった…。


「くっ…観測兵!!」


「駄目です!1射目と同じく確認できません!」


「彼我の距離は!?」


「およそ300m!」


「くっ…」


「敵さん…おかしかないですかい?」


「なにが…だ?」


「砦将閣下。だって、こちらの矢は綺麗な放物線を描いて敵さんの方に吸い込まれるように消えていった」


「うむ」


「ってことは…そう旗を確認しても風は西から東に吹いている」


「そうだ。こちらが風上だからこそ、弓矢を放った。それがどうかしたのか?副将」


「だから…。砂埃が晴れないのがおかしいって言ってんですよ!俺ぁ!」


「!たっ…確かにっ!」


「敵、砦まで150m!」


「ってことはですよ…あの砂埃には、何らかの…そう…魔法が関わっている考えられはしませんかねぇ。ってことはですよ?こちらの矢は敵さんに完全に防がれちまってる…」


「まさかっ…。だが…しかしっ…」


「…!敵方から飛来物!っ!矢だっ!伏せろぉーーー!っぐわぁっ…」


高所より監視する者の定めか。観測兵が一番に斃れる。砂埃で敵は見えず、相手に向かって行ったはずの矢が一斉に向かってくる。辛うじて、観測兵が上げた伏せろの声に反応できた者。或いは、大盾を持っていた者たちが、防御姿勢を取ることで、味方を矢の雨から護りにはいる。しかし、突如として降ってきた矢の雨に、砦は大混乱に陥った。


「っくっ…我らの矢が…」


「うひぃぃっ!このガンガン響く音っ!敵さんにいきゃァ良かったのに…いやぁぁこりゃ敵わんですわ」


「敵との距離はッ!っく…斃れたか…」


姿勢を低く、矢の雨から身を護ることで精一杯の砦の兵たち…。その時…。


「っ!これはっ!城門に取りつかれたかっ!」


突如として砦を襲う揺れと轟音…。破城槌が城門を破壊しようとするものであった。


「こりゃぁ…敵わん!敵さんも弓を放ってきてる。おおよそ、魔法兵が風を操って、味方に被害がいかないようにしてますねぇ」


「くっ…各部隊!大盾を持ち城壁内に避難!火砲兵に伝達!銃眼より敵めがけて燃焼弾使用を!魔法兵は、火砲兵の援護をし、延焼を誘発せよっ!急げっ!」


「ぐわっ!」

「うぐぅッ!」


「盾の密度を上げろ!矢の入り込む隙間を塞げっ!」


「砦将閣下こちらに!」


「うむっ!」


城壁内の銃眼に備えていた兵たちは、無策に手をこまねいていたわけではなく、破城槌を操る敵兵たちめがけ攻撃を加えていた。


「くっ…当たりゃァしねぇ!」

「確かに射線はあってるのに!」

「クソっ!敵の魔法兵に邪魔されてやがるんだ!」

「このままじゃ…」


「待たせたっ!」


「魔法兵長!遅いっ!」


「スマン!火砲兵長!火砲兵2人に1人の魔法兵が着くよう指揮をしていたら遅くなった!」


「ということは?」

「ああ。存分に的に鉛の雨を喰らわせてやれっ!」

「っし!打ち方よぉい!放てっ!」


魔法兵の活躍により、銃弾は敵に通るようになった。規則的に城門を打ち付ける音も次第に収まっていった。


「よし!敵の攻撃が止んできたな」

「助かった!魔法兵長!遅いなどと言ってすまなかった。」

「なんの!遅かったのは事実だからな!」


「ここに居ったか!2人共」


「「砦将閣下!」」


「2人の連携見事なり!城門も少しのダメージで済んだ。敵の砂埃もいつの間にか消えておった。一先ずは、安心であろう!」


「「はっ!」」


「副将!」


「斃れた兵の弔いは、やっときますんで、まずは朝食に行っててくださいな」


「うむ!勝鬨をあげよ!」


「「「おぉーーーー!」」」


多少の犠牲は払ったものの、敵は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。皆が勝鬨をあげている様子に、満足した表情を浮かべた砦将は、兵たちとともに食堂へと向かっていった。






「はぁ…お気楽な砦将だねぇ…。敵が逃げた。そりゃ嬉しいでしょぉね!でもね…アンタは気づくべき立場なんだよなぁ…」


副将は、歩いていく砦将に背を向けて、ボソリと呟いた…。

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