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第七話 密命

 第七話です。


 連載開始して、初の土曜日です。


 まったりしながら書くって素晴らしい!


 本日もよろしくお願い致します!


11


 ベイカー・鈴はパトカーの中でひたすら、震えていた。


 目の前で人が殺されたのだ。


 しかも、殺された学生たちには体まで触られた。


 これで、平常心でいられる奴などいない。


 先ほどは赤木という気弱な学生には啖呵を切ったが、内心では恐怖が今にもフラッシュバックしてきそうで今にも倒れそうだ。


 そんな鈴の様子を見て、警察側も何をしていいか分からずに戸惑っている中で、女性の警察官がやって来る。


「ベイカーさんですね? 弁護士の方がお見えですよ」


「弁護士ですか・・・・・・?」


「何でも、事務所の方が依頼したそうですよ。警察は男所帯だから、気の利いた事が出来ない奴も多いんですよ。マネージャーさんも飛んでくるそうですよ?」


 女性警察官は隣に座るだけで、何も言わなかった。


「・・・・・・雨、凄いですね」


「ねぇ? 髪の毛が濡れて、困るんだよね? 警察官と言えども、おしゃれには気を使いたいし?」


 この人は話しやすい人だな?


 何となく、安心感を覚える。


「あっ、来ましたね? 聴取は・・・・・・申し訳ありませんが、ご協力願いたい次第です。弁護士さん同席で構わないので?」


 そう言って、女性警察官がドアを開けると、弁護士らしき女が立っていた。


「木野法律事務所の竹田です。私が来たからには安心してください」


「マネージャーさんも来るんですよね?」


「川野さんは今、車かっ飛ばしているわよ? でも、あなたが無事でよかったわ?」


 事務所はこの事件に対して、どう対応するんだろう?


 マスコミに漏れれば、当然、芸能活動にも支障が出るから、活動休止が妥当だろうか?


 そうなると、大学とアルバイトしかやることが無くなるな。


 元々、仕事は無いけど?


「ちょっと、ここ車、停めちゃあダメだよ!」


「関係者です! 通してください!」


 マネージャーの川野だ。


「川野さん!」


「鈴! 大丈夫? 怪我無い!」


「怖かったよぉ!」


 鈴は初めて、泣きじゃくりながら、川野に抱き着く。


 久々に子どものように泣き続けていた。


 さすがに警察官も被害者という事もあって、何も手出しをしない。


「大丈夫、事務所も手を打つから」


「私・・・・・・戻れる?」


「大丈夫よ。私たちがあなたを守る」


 鈴はひたすら、泣き続けていた。


 雨はその中でも降り続けて、気が付けば、鈴の髪は濡れに濡れ続けていた。


 夏の湿度がまとわりつく、大雨だった。


12


 秋山結鶴は大学の講義を終えた後に新宿のホテルへと向かった。


 辺りでは、警視庁の捜査員や機動隊が警戒をしている。


 警察なんか、嫌いだ。


 暴力団が親族にいるというだけで、敵意をむき出しにして来る。


 もっと、根本的な事を言えば、中には洞察力の鋭い奴もいるが、最近は公務員である事に満足していて、軟派な犯罪を行う連中が全国規模で多くなっているという実態がありながら、教条主義的な事しか言わない頭の固さと身内への甘さという警察組織特有の閉塞性にも辟易している。


 要するに不祥事が多くなっているくせに偉そうに正義感を語るという現状が結鶴の警察嫌いに拍車をかけていた。


 そんな大嫌いな国家権力どもにバイクのナンバープレートを抑えられるのが嫌なので、珍しく、電車を使って来たが、街全体が警察官だらけで尚且つ、聴衆も注目をしているので、その中を突っ切るのは中々に羞恥心を抱かざるをえない心境だった。


 マスコミに顔が撮られないだろうか・・・・・・


 ヒットマンが出来なくなるじゃないか?


 新宿の街中の都庁近くへと行くと、そこで真木組組長の真木が出迎える。


「偉い、仰々しい警備体制だな?」


「そりゃあ、日本最大のヤクザの会長さんが上京している訳ですからなぁ? 警視庁管内で抗争になんて、なったら大問題ですわ?」


 真木に促される形で某ホテルのロビーへと向かう。


「アルバイトはご苦労だった。おかげであの事務所には良い貸しを与えることが出来る」


 黒陽会会長の藤宮勇作がサングラス越しにそう語る。


「いえ、会長の狙い通りに物事が進めば」


 奥では藤宮の正妻の息子である、佑介が自分を睨みつける。


 結鶴はそれには応対せずにいた。


「あのガキどもの親の政治家と官僚どもに良い脅しにはなったな? 介護事業所の話で揉めていてなぁ? 良いシノギにはなると言うのを現政権に言っていたのだが、聞く耳を持たずでね? 良い脅しだ。お前は良いヤクザになるよ」


「はい」


 堅気でいたいんだけどな?


 ただ、学費を握られているから、このようなことをしているんであって・・・・・・


「そして、警察が監視をしている中で、お前を呼んだのは親子の戯れをする為ではない。新たなアルバイトだ」


 藤宮は結鶴にソファに座るように促す。


 隣で立っている、佑介はさらに結鶴を睨み据える。


 結鶴は促されるがまま、ソファに座った。


「青川学院大学内で違法薬物が売られているらしい。さらに言えば、青川だけでなく、都内の有名私立大学で多く売買されているそうだ」


「それを叩けと?」


「お前は現実的に学生だからな? その身分を生かして、警察よりも先に売買のルートを抑えろ。後は実行部隊を送り込んで、我々が掠め取る」


 薬物の売買は本来、厳密に行われるはずだが、それに対して、過敏にならないのが会長の方針のはずだ。


 シノギになるものは全て利用するのが会長だ。


 故に売買のルートを抑えた後にそれを乗っ取るということだろう。


「必要ならば、実行部隊は真木のところに揃える。販売ルートを掠め取りたい。すぐに実行に収めろ」


 まぁ、退屈な授業を受けるよりは良いか?


 殺しも伴うがそれはそれでまた良い。


 とにかく、学校という空間はカーストに塗れていて、嫌いだ。


 学校という空間でカーストが存在する中で多くの学生たちは何も考えないでそれに従う方になることを選ぶ一方で、僅かながらのそれらの上位者は見当違いの正義感を掲げて、自分たちは正しい、優れていると思い込み、自分のような児童養護施設育ちや異端者に喧嘩を仕掛けるわけでもなく、マウントを取り、陰湿な虐めを仕掛ける。


 自分たちはただ、勉強が出来て、騒がしいだけ、声がデカいだけのくせに優勢人種だと思っている連中がカースト上位者として持て囃され、それに追従する奴隷たちに支えられている、リーダー無き独裁国家というのが結鶴の中での学校の位置付けだ。


 はっきり言って、学校で持て囃される内々のカーストで求められるスキルと立身出世という形で成り上がることが可能なヒエラルキー社会での個人のスキルは別であると思う。


 ヒエラルキーを否定するくせにカーストに縛られている偽善者は上の階級であれ、下の階級であれ、嫌いだ。


 ヒエラルキーは権威というのが蔓延るからこそ、大人になりたがらない若者の間では否定される階級社会が結鶴は好きだ。


 だが、それは努力次第では成り上がるという形で報われる社会でもある。


 しかし、自分の嫌いな心無い学生や無責任な大人はそれらの権威ある階級社会を否定するくせに個人ではどうにもならない事で優劣を付けて、頭ごなしに良い悪いを決め付けるカースト社会が大好きなのだ。


 一番、質が悪いのがヒエラルキーとカーストの区別が分からないくせに前者の社会で後者の理屈が通用すると思っている奴だ。


 そういう奴はヤクザにもいるが、大体がいいように使われて終わる、チンピラだ。


 そういう軽薄な連中が量産されている学校が嫌いだからこそ、ヒエラルキー社会の代表格である、ヤクザの仕事で金を稼いで、とりあえず、箔を付ける為に学校を出る事が今の目標である。


 そこに青春などというカーストにまみれた弱者のぬるい発想は無い。


 偽善だ。


 その偽善を正しいと思っている奴が偽善は悪だと認識していて差別を行う奴よりも悪質だ。


 本質的には無知なので、知っていて、差別をする人間よりも狡猾さに欠けるので人として救いようが無い。


「結鶴? 大丈夫か?」


 藤宮がそう言うと、結鶴はどうでもいい思考から現実に引き戻される。


「失礼致しました」


「私が話をしている時に考え事か? 任務はこなせるか?」


 佑介はそれを見て、鼻で笑う。


 あんたもヒエラルキーとカーストの違いが分からない人だよ。


 結鶴は佑介を心底、軽蔑していた。


「分かりました。すぐに実行に移します」


 思考が過ぎた。


 考え出すと、長くなるのが、自分の悪い癖だ。


 結鶴は会長の前であるので、堪えたが、内心、舌打ちをしたい心境だった。


「良い子だ、頼むぞ。佑介、お前の弟を送り出せ」


 そう言われた、佑介は苦虫を潰した顔で、こちらにやって来る。


「舐めるなよ? 青川なんて、滑り止め程度の学校のくせに?」


「京大には負けますね?」


 結鶴が静かにそう言うと、佑介はさらに怒りを顔に表すが、藤宮は「止めておけ、佑介。結鶴は私が育て上げた、戦闘マシーンだ。将来の顧問弁護士が半殺しになるのは避けたい。早く、送り出せ」と笑いながら、言い放った。


 そうして、佑介は結鶴を連れて、ホテルの外へと出る。


「俺は会長の職を諦めている訳ではない」


「普通は血縁者にはヤクザのポストを与えないのが常道ですよ」


「顧問弁護士なんか永遠に使い走りだよ。お前はどうだ? 学生にして、武闘派の準構成員で、すでに黒陽会で名を上げている。これでお勤め(ヤクザ用語で拘禁のこと)まで、経験したら、十分幹部まで行けて、将来は会長じゃないか?」


「今は暴対法で厳しくなっているから、仮釈放中に組と接触したら、再び塀の中ですよ。まるで、あなたはヤクザになりたいようだ」


「なりたいね? お前のように殺しの才能がありながら、堅気になりたいとか言う奴が嫌いでしょうがないよ」


 佑介は舌打ちをする。


「近畿黒陽会の動きが怪しい」


 近畿黒陽会は会長の藤宮が直系とは言え、名古屋の二次団体出身である事から、本来は本家中の本家である、関西の二次団体の一部が藤宮に反発して集結して出来た、指定暴力団だ。


 藤宮が会長就任と同時にそれら関西の二次団体に対して、みかじめ料(ヤクザにおける上納金で、これを払わないと組員でいられない)を大量に徴収した事から反旗を掲げて、離脱して、立ち上げたのだ。


 離脱から数年。


 未だに日本全国で、黒陽会と近畿黒陽会による抗争事件が数多く起きているのが現状である。


「抗争ですか? 今は国会をやっているから、騒ぎは起こさないでしょう」


「サミットもあるがな? その後には衆院解散なんて、言われているから、ヤクザの不文律として、国の重大行事が立て込んでいる時は抗争を一切、しないと言うのはあるが、実行部隊がヤクザではないとしたら?」


「半グレですか?」


 半グレは以前においてはヤクザのルールなどを守らない、暴走族から派生した、ギャング組織やマフィアと言っても遜色のない組織だと思われていたが、最近はヤクザが半グレを糾合、もしくはそのままヤクザに迎え入れる、共闘関係を結ぶなどの情勢変化がみられる。


「刑罰会とか言う小銃で武装したグループが近畿の連中と手を組んだらしい。会長の顔に泥を塗るなよ」


 そう言って、佑介は「真木、しくじったら、粛正する。いいな?」と言った。


 そして、会長の下へと戻って行った。


「相変わらず、敵意が凄いですわぁ?」


「あぁ、だが、重要な事は教えてもらった」


「それはどういう・・・・・・」


「事務所に戻るぞ」


 そう言って、結鶴と真木と宮崎に大園はホテルの外へと出て行った。


 夏の日差しが日に日に強くなっていた。


 続く。


 次回、第八話 恋心


 明日もよろしくお願い致します!


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