わたしたちは弱かったみたいです
学園生活がスタートします
「少し早かったですかね……」
試験から1週間後わたし、ハル・ヒラハシヤはレイギス魔法学園の合格発表に来ていた。
レイギス学園の合格発表は、午前9時ごろから合格者の名前が門の前に張り出される為、例年門の前の広場は受験生とその家族で混雑する。しかし午前4時現在わたし以外の人の気配はない。
(クウキさんに会いたくて早く来すぎてしまいました。)
合格発表の1時間前になると徐々に人が集まり始め、その中の1人が待ち疲れて座っているわたしに声をかける。
「ハル久しぶりですね。私のことを覚えていますか?」
わたしが顔あげると金と黒の剣を持った剣士が立っていた。
「アルデリア様!どうして学園にいるのですか?」
声をかけてきたのはリィネ・アルデリア、序列4位のA級冒険者、S級に最も近い女と呼ばれている強者で、武芸大会に出場すれば確実に剣聖になれる実力を持っている。
昔、剣聖の父に会いによく屋敷を訪れていたのでよく覚えている。
「エリッタ様が合格発表を見に行きたいと言い出したので、その護衛のためにきました。ハルも合格発表ですか?」
(そういえば王族が同級生にいると聞きましたが、エリッタ様のことでしたか。)
「わたしも合格発表を見に来ました。エリッタ様合格していると良いですね」
このレイギス学園は貴族だろうと王族だろうと試験の結果が悪かったら容赦なく不合格にする実力至上主義なので、王家も必死になって受験勉強に取り組む。
「エリッタ様には優秀な家庭教師がついていたので大丈夫だと思いますが少し心配ですね」
(ん?優秀な家庭教師?どこかで聞いたことがあります……)
「アルデリア様が家庭教師をなされたのでは無いのですか?」
リィネ・アルデリアが首を横に振る。
「私のような凡人がエリッタ様に教えてあげられることなんて無いですよ。エリッタ様の家庭教師はハルもよく知っている人です」
(アルデリア様が凡人って......それよりもよく知っている人?)
「それって、もしかして……」
わたしの曇っていく表情を見て何かを察したのかリィネが笑いだした。
「そうです。マイヤ・マトローナです」
わたしはマイヤ先生が修行の最終日に次の生徒のところに行くと言っていた事を思い出した。
(エリッタ様のところに行ったのですね……)
「エリッタ様もいつかマイヤに勝てるようになる!と仰っていました」
(わたし同じ被害者ですか)
「リィネ、誰とお話ししているのですか?」
わたしが王女様に親近感を沸かせていると、近くに停車していた馬車の中から透き通った声が聞こえた。
「エリッタ様、ハル・ヒラハシヤです。ご無沙汰しております」
わたしは剣聖の娘であると同時に貴族なので、王城に出向く機会が多いためエリッタ様とも面識がある。
「ハルさんでしたか、久しぶりですね。しかし前々から言っている通り、私たちは同級生なので敬称は不要ですわ」
馬車から降りてきたエリッタは、その美貌を振り撒きながらハルに近づきハルの手をとる。
「これからよろしくお願いしますわ。ハル」
(クウキさんに出会う前であれば、この笑顔にやられていたかもしれません……)
久しぶりに見たエリッタはとても美しく成長していた。
「こちらこそよろしくお願いします。エリッタ」
(マイヤ先生はこの美女もボコボコにしていたのでしょうか?)
「これよりレイギス魔法剣術学園の合格者を発表します」
エリッタとお互いの師匠の話で盛り上がっていると門の前に学園の職員と思われる方々現れ、合格者の名前が書かれた大きな紙を魔法でカーテンのように広げた。
門の前に集まった人々は跳ねて喜んだり、泣いていたりしていて混沌としていたが、そのほとんどの人がすぐに肩を窄めて帰って行った。
「ハルの名前がありましたわよ」
クウキさんの名前を探していると、自分の名前を探すのを忘れていたわたしの代わりに、王女様がわたしの見つけてくれた。嬉しいそうに手を振ってアピールしている。
「ありがとうございます、合格してて良かったです。エリッタの名前もこちらにありました」
エリッタもルーアの名前も見つけたがクウキの名前が見つからない。
(まさか不合格になってしまったのでしょうか……)
最悪の結果を想像しながらクウキの名前を探していると、1番端の行の1番下にクウキの名前が書かれていた。
喜びのあまり叫びたいのを我慢してエリッタのところに戻り喜びを共有したあと、エリッタは父に報告すると言って王城へと帰って行った。
(そういえば、クウキさん遅いですね……)
合格者が張り出されてから1時間経過し、さっきまで混雑していた学園前の広場にわたし以外いなくなっても、クウキは一向に現れなかった。
(入学試験の模擬戦での傷が治ってないのですかね……
それともわたしのことを忘れて先に帰ってしまいましたかね……まぁ、お互い合格した訳ですし、学園が始まったらまた会えますよね。それまではクウキちゃん人形で我慢しましょう。)
わたしはポケットの中の宝物を握りしめて寂しく家路についた。
「そろそろ合格発表があると思うんだけど」
入学試験から1週間後、私はママと一緒にあるダンジョンの最下層である花を探していた。
「クウキなら合格しているから大丈夫よ、それより早く〈隠れ花〉を摘んできなさい」
隠れ花とはダンジョンの下層に咲く綺麗な青色のレアな薬草で、1本採取できれば一週間は働かなくてもいいぐらいのお金が貰える。しかし強い魔力を感じると消えてしまう性質を持っているので上級冒険者には採取不可能な薬草として知られている。
私がいるこのダンジョン「迷いの花園」は薬草などの植物が生い茂った森のようにな階層が続いていて、上層の比較的安全な階層は駆け出し冒険者に愛されている。
しかし10層から下の階層は上級冒険者でも命を落とす危険なダンジョンになっていて、世間的には、あるA級冒険者パーティーが辿りついた65層が人類の最下到達点となっている。
なぜそんなダンジョンの最下層にいるかというと、修行初日に誤って地下室を壊滅させてしまい、相談の結果周りに人がいない場所に修行場所を移した。
「迷いの花園」は想像よりも深くて、現在いる150層まで辿りつくのに5日間かかった。
「本当にこの階層に生えてるの?」
ダンジョンに潜ってから5日間隠れ花を探してきたけれど一本も見つけられない。
「生えてるわよ、ほら」
10メートルくらい離れた位置にいるママは足元の青い花を一本抜いて見せてきた。
「そんな花今初めて見たんだけど……」
ママに近づいてよく見ようとするとさっきまで握られていた花が煙のように消えてなくなった。
「クウキの魔力がダダ漏れだから消えちゃうのよ。もっと魔力を制御して隠蔽しなさい」
(もう限界まで魔力を封じ込めてるよ……)
魔力を封じ込めすぎて息苦しい思いをしながら、消える花を探す。
「今日はもう帰りましょうか」
お腹をすかかせながら隠れ花を探しているとママが手を差し出してきた。
(やっと終わりかぁ〜早くお風呂入りたい……)
いつも夕食の時間になるとママが転移で迎えに来てくれるので、普段からママを待ちながらダンジョンを彷徨っている。
転移魔法を使えるスキル持ちは現在数百人確認されているが、おそらくダンジョン内で長距離転移魔法を使えるのはママしかいない。
転移魔法の原則として、一度訪れた場所にしか転移できないことの他に、ダンジョン内では目視できる場所にしか転移できないというものがある。
それはほとんどのダンジョンの壁や天井には特殊な対魔法結界が張られているためで、ダンジョンで身体を魔力に変換して移動する転移魔法を使用すると、その結界に衝突してしまうので、安全のため目視できる場所にしか転移しないようにしている。
しかし亜空間を経由して転移するスキル「束縛の断絶」を持つママの前には壁なんて存在しないのと一緒なので、ダンジョン内であろうと転移で移動できて、私を迎えに来てくれる。
(私の場合は「束縛の断絶」を使わなくても、魔力の貫通力で結界を壊せるけどね!)
「どうしたら魔力制御がうまくなるのかなぁ、もう充分に制御できてると思うんだけど、このままじゃダメなのかなぁ……」
大きめの浴槽に浸かりなが一緒にお風呂に入っているママに弱音を吐く。
「そうね〜、クウキちゃんほどの魔力を完全に制御するのは難しいかもしれないわね」
(じゃあもう修行はいいんじゃ……)
「でも完全に制御しなくても、もっと修行して少しでも制御できるようにならないといけないわね。今の隠蔽力で学園に通うと同級生や先生にはクウキちゃんの力はバレないと思うけど、A級上位の冒険者やS級冒険者には気づかれてしまう可能性が高いわ」
ママの声が真剣なものに変わる。
「でも入学試験のときは盾を壊すまで学園長にバレなかったもん……」
隠蔽するのにも体力を使うので入学試験中はずっと眠気と戦っていた。
「そんなことないわよ。実際入学試験のときに、クウキちゃんが学園に入った瞬間にかつて無い魔力を感じたナツメちゃんがS級冒険者7人全員に招集命令を出したのよ。そのときは私がすぐに行って説明したけれど、もし私に招集命令が出ていなかったら、あなたは複数人のS級冒険者に囲まれて捕まっていたわよ」
確かに入学試験中はずっと見張られているような感じがしていた。
「S級冒険者なんて返り討ちにできるもん……」
拗ねた私を見たママは、少し微笑むと浴槽から出た私を自分の前に座らせて私の背中を流し始めた。
「そうよね…クウキちゃんは強いからS級7人全員を相手にしても余裕で返り討ちにしてしまうのよね。でもクウキちゃんは優しいから、人を傷つけるようなことはしないでしょ?」
(それは……)
「わかったよ、入学式までに制御できるように頑張るよ」
(なんだか丸め込まれたような気がするけど、ママを困らせたくないし頑張ろう)
「そうね一緒に頑張りましょう」
(とりあえずは隠れ花を採取できるようにしなきゃ!)
次の日、朝からママにダンジョンに送ってもらい隠れ花探しを再開した。
(ママが花を持っているときは確かにママから魔力を感じなかった。少し本気でやってみるか……)
隠蔽スキルの一部を解除し魔力を封じ込めるのに全力を投じた。
(おっ!これは……)
さっきまでただの草むらのようだった地面にだんだんと花が咲いてきて、私周り以外は青い花が咲き誇った。
どうやら隠蔽スキルを維持するのに使っている魔力に無駄が多すぎるようで、隠蔽スキルを解くたびに花の数が増えて行った。
(そういえば隠蔽スキルは6歳くらいに発動したやつをそのまま維持してるからなぁ。1回全部のスキルを解除して魔力に無駄が無いように発動し直せばイケるかもしれない。今夜ママに相談してみよっ!)
「一度だけ全部のスキルを解除したいのっ」
「ダメに決まってるでしょ」
(言葉が足りなかった……)
全否定された後、落ち着きを取り戻した私は魔力を封じ込め作戦をお風呂の中でママに説明した。
「確かにそうね。スキルを覚えた日に発動させたスキルですもんね、魔力を過剰に使っているかもしれないわね」
ママが真剣な顔で私を鑑定してくる。
「魔力は抑えられるかもしれないけど、これじゃスキルが丸見えじゃない。あと髪の色と目の色が黒じゃ無くなっているわよ」
私の髪と目の色は生まれつき黒かったが、魔力量が増加するにあたって変化していき、今では光の辺り具合や見る角度によって変化する色になっている。
「久しぶりに見たけどやっぱり綺麗な色ね」
ママが私の髪を洗い始める。
「ママにしか会わないから、解除したままでいいかなって思って……」
(別にママに見せたかったわけじゃないもん……)
次の日の朝
「スキルを解除するのは良いけど、一気に全部解除しちゃダメよ。あとできるだけ王都から離れのよ」
お風呂の後の作戦会議の結果、スキルを解除した私を王都に置いておくのはまずいみたいで、修行の場所を変更することになった。
尚ママは結界の維持のために王都からあまり離れられないため入学式までの残りの期間を1人で修行することになる。
「スキル更新したら戻ってくるから待っててね」
「入学式には戻ってくるのよ、いってらっしゃい」
心配症のママに手を振りながら魔力を巡らせる。
「万物の鏡、転移。いってきます」
「ただいま、パパ」
実家の自室に転移した私は急いでパパがいる厨房に向かった。
「おぉ、久しぶりだなクウキ、試験はどうだった?」
半月ぶりにパパの顔を見てなんだか安心した。
(盾を壊したことは内緒にしておこう……)
「簡単だったよ。(筆記試験と実技試験以外は……)多分合格しているよ」
「それは良かったな。それで髪の色はどうした?また新しい修行でも始めるのか?」
(さすがに鋭い……)
パパに今回の修行について説明するとパパは納得するように頷いた。
「確かにクウキの力がS級の奴等にバレたら面倒くさいことになるだろうなぁ」
眉間にシワを寄せるパパ
「パパもS級冒険者のことを知っているの?」
私が知っているS級冒険者は学園長とママだけなので少し聞き出そうとする。
「あぁ、全員と面識があるわけではないが、ママとナツメ・サイジョウ様以外には関わらない方がいいな」
(強い人には変わり者が多いイメージがあるけど、本当なのかな?)
「他にどんな人がいるの?」
「そうだなぁ、永遠に修行してる奴とか、魔界に住んでいる奴とか、自らを幽閉している奴とかいるな。まぁ半分行方不明で、全員が戦闘狂だな」
人類の最高戦力が自由すぎて不安になってくる。
「それは関わりたくないね……それじゃあパパの顔も見たしもういくね」
自分自身どれだけのスキルを発動させているかわからないのでパパに試験の合否を伝えたらすぐに修行場所に行く予定だった。
「そうか……修行頑張れよ」
(本当はパパのご飯も食べたかったしアンナさんにも会いたかったけど)
「じゃあいってきます。万物の鏡、転移」
修行場所に選んだのは元々「龍王の深淵」があった場所で、ここなら私の他に来る人はいないと思った。
「よしっ始めますかぁ」
まずは今かかっているスキルを解除したときにすぐに対応できるように、あらかじめ新しく発動させるスキルを厳選する。
(今までは「悪癖の道化師」の隠蔽魔法をメインに使っていたけど、このスキルだとまた何重にも隠蔽魔法を発動させないといけないしなぁ……もうあれしか無いかな)
発動させるスキルが決まったところで効果が弱いスキルから解除していく。
「光覚制御、解除」
髪と目の色が先ほどよりも鮮やかになっていく。
「精霊隠蔽、解除」
森の精霊から認識されるようになり、クウキの周りに精霊が集まり始める。
「今日はこのくらいにしておこうかな」
一度に全てのスキルを解除してしまうと、周囲に与える影響や身体への負担が大きくなってしまう為少しずつ解除していくが、隠蔽を解除したまま人に会うわけにも行かないので、新しいスキルを発動させるまでは1人で野宿することになっている。
「入学式までに終わればいいけど……てか入学式まであと何日だろう?」
ちょっとした疑問を抱きながら私は眠りについた。
「クウキさんがいないのですが!」
合格発表から約3週間が経ち待ちに待った入学式の日がやってきたが、会場にわたしのクウキさんの姿が見えない。
「ハル、落ち着いてください。もうすぐ式が始まりますわ」
忙しなく会場を歩きまわるわたしを、レイギス王国第二王女エリッタがなだめる。
レイギス学園の入学式は学園内の闘技場で行われ、新品の制服に身を包んだ新入生が緊張した表情を浮かべながら開式を待っている。
「これより入学式ならびに国営ギルド登録式を行います」
開始予定の時間になると闘技場に、司会者の拡声魔法によって増幅された声が響きわたった。
「続いて学園長お願いします」
開会が宣言されてから来賓の紹介や生徒会長の言葉などが続き新入生のほとんどが眠気と闘っていると会場の気温が下がった。
「ふむ、まずは入学おめでとう」
クウキさんを探し続けていたわたしも思わず壇上にいる小柄な女性に目を向ける。
(すごい魔力を感じます。これがS級冒険者ですか)
「長い話が続き退屈しているであろうお前たちを、少し試してみようかのぅ」
人類の最高戦力の言葉で壇上の横で並んでいる教員や闘技場の周りに待機している護衛には緊張が走り、新入生のほとんどが本能的に恐怖を感じた。
「氷華の咲人、薄氷之詞」
学園長がスキルを発動させると静かに粉雪が舞い始めた。
幻想的で綺麗な雪に新入生は先ほど感じた恐怖を忘れてしまい和みだす。誰1人この雪が危険な魔法だと気づけなかった。
(とても綺麗な雪ですね、学園長なりのお祝いでしょうか?)
舞い降りてくる雪が体に当たった瞬間、体が悲鳴をあげ始める。学園長が登壇してから薄々感じていた寒気が確実なものになり、身体が凍りついているかのように動かない。
(魔力を纏ってバリアしないと凍りついてしまいます)
魔力で防御しようとするが上手く魔力を制御できない。スキルを発動させたいが声が出せない。
(魔力が凍っている……?これは……マズイですね……)
学園長から感じた恐怖を思い出した頃にはもう遅く、次々と新入生が倒れ込んでいく。
(王女様を……守らない……と……)
隣のエリッタも立っているのがやっとの状態でわたしの意識も徐々に薄れていく。
壇上を見ると幼女が楽しそうにこちらを眺めている。
(もう……ダメ……クウキさんに会いたい……)
「豪炎の鬼兵、蒼炎一閃」
薄れていく意識のなかで青い炎が会場中の雪を薙ぎ払うのが見えた。
「リィネ、ナイスタイミングじゃ」
壇上の幼女が親指を突き立てる。
炎の正体はエリッタ王女の護衛できていた序列4位リィネ・アルデリアの戦技だった。
「ナツメ様、魔力耐性が低い者はもう限界でしたよ。入学式で死人を出すつもりですか?」
リィネはふらふらのエリッタを抱きながら幼女に進言する。
「リィネがいるからやったんじゃ、すぐに回復させるからそう怒るでないわ。氷華の咲人、治癒吹雪」
幼女が持っている扇子を振り下ろすと倒れている新入生を冷たい風が襲う。
ものすごい勢いで体が飛ばされそうな強風に雪が混じり、さっきの魔法で動けなくなっていた新入生達は再び死を覚悟した。
(ん?ここは地獄ですか?)
吹雪が収まり目を開けると、さっきまで凍りついていた魔力と身体が動くようになっており他の新入生もだんだんと立ち上がり始めた。
壇上を見ると幼女が笑っている。
「どうじゃ、みんな元気になったかのぅ」
(この幼女からあの女と同じものを感じます。この人には勝てない……)
全員が立ち上がったのを確認して幼女が口を開く。
「今おまえ達は何を思った?圧倒的な力の前に絶望したかのぅ?何も出来ずにただ倒れる気分はどうじゃ?最悪じゃろ。妾も昔、おまえ達と同じことを思った。圧倒的な強者と出会い、絶対に勝てないと思わされ恐怖した」
(S級冒険者が勝てない強者って……)
「しかしこの世には圧倒的な力を持つ強者が溢れていて、奴等は容赦無くおまえ達の前に立ち塞がる。その度に恐怖して、絶望して、逃げることも出来ずに倒れ込み、助けを待つことしか出来ずに、最悪殺される。そんな未来、嫌じゃろ?妾は嫌だと思い修行した。魔力が無くなるまで魔法を撃ち続け、血反吐が出るまで槍を振った。そうしたら絶望することも恐怖することも無くなり、ついでに絶望や恐怖から人々を守れるようになっていた。おまえ達もさっきのような気持ちを再び味わいたくなければ、大切な者を守りたければ強くなれ。魔力が無くなるまで魔法を撃ち続け、血反吐が出るまで剣を振れ。この学園はそんなおまえ達の為にある」
さっきまで死んでいた新入生の目に明らかな炎が灯る。
(ナツメ様、あの女と一緒にしては失礼なほど素晴らしいお方です)
「これで入学式を閉式し国営ギルド登録式を行います。生徒のみなさんは名前が呼ばれた順にこの水晶に触れてください。登録が終わった生徒から寮に戻り本日は解散となります。明日の朝序列によって振り分けられたクラス表を1学年校舎の入り口に掲示しておくので、確認してから教室に向かってください」
学園長の言葉で入学式が終わり、司会の先生が説明している間に人間サイズの水晶が壇上に運ばれてくる。
「この水晶は世界中にギルドと繋がっていて登録するとリアルタイムで序列が発行されるようになっています。ではサーヤ・リントスさん」
雑な説明と共に1人目が呼ばれていった。
(早く寮に戻りたいです。クウキさんまだ模擬戦の怪我が治ってないのでしょうか……)
「では私は先に寮に行っていますわ。同じ部屋だといいですわね」
クウキさんのことを考えながら名前を呼ばれるのを待っていると隣に座っていたエリッタが立ち上がった。
「あれ?エリッタはまだ水晶に触れてないですよね?」
まだ3人くらいしか呼ばれていない。
「私は王族なのでギルドには登録しないのですわ」
国営ギルドとはスキル持ちがスキルを使って仕事をする場合に登録するもので、将来冒険者や騎士などにならない王族のエリッタは登録してはいけない決まりがある。
「そうなんですね。ではまたあとで会いましょう」
(私はクウキさんと同じ部屋がいいです!)
「ハル・ヒラハシヤさん」
エリッタと別れて1人寂しく待っているとやっと私の名前が呼ばれた。
「力を抜いて水晶に触れてください」
言われた通りに水晶に触れると魔力が吸われる感覚があった。
「はい結構です。ギルドカードは明日配るので序列はそのとき確認してください」
(この案内してくれている先生からも相当な魔力を感じます。)
「ありがとうございます」
闘技場を出て寮に向かうと玄関の前にリィネ・アルデリアさんが立っていた。
「アルデリア様、先ほどはありがとうございます。S級冒険者の魔法を斬るなんてすごいです」
あの青い炎が無かったらおそらく凍り漬けになっていた。
「いえいえ、ナツメ様は力の1パーセントも出していなかったので、あれくらいすぐに出来るようになりますよ。それよりもう少し早く助けられたのですが、ナツメ様からすごい新入生がいるから見ていて欲しいと言われていたので、ハル様が膝をつくまで助けるのを躊躇っていました。すみません」
(学園長は新入生の中にあの魔法を止めれる人がいると思ったのでしょうか……ん?今1パーセントって言いましたか?)
「アルデリア様が謝ることはありません。わたし達が未熟だっただけです。それよりどうして玄関の前に立っているのですか?」
序列4位の人が立っているので他の生徒が寮に入りにくそうにしている。
「エリッタ様と同部屋の方を少し鑑定してから帰ろうと思いまして、クウキさんって方なんですが……」
(ん?今なんと言いました?)
「クウキさんですか……クウキさんは入学式には出席していませんでした。おそらく入学試験の模擬戦で負った傷がまだ治っていないのだと思います」
(エリッタ様……羨ましいです)
「そうでしたか、情報ありがとうございます。それでは私は王城に帰ります」
アルデリア様を見送り、希望を失い、わたしは寮の中に入って自分の名前が書いてある部屋を探す。
(ルームメイトがいい人だったらいいですね、あっ、ここですか。)
「はじめまして、わたしはハル・ヒラハシヤよろしくお願いします」
先にルームメイトが来ているみたいだったので挨拶をしながら扉を開けると、少し背の高い綺麗な人が下着姿で立っていた。
(ん?下着……)
「すみません、ノックもせずに入ってしまって……」
慌てて廊下に出て扉を閉める。
「女同士でそんなに慌てなくてもいいでしょ、私はアリージュよろしくおねがいするわ」
すぐに扉が開き下着姿のままアリージュが出迎えてくれた。
「早く服を着てください」
中に入るとすでに荷物が運び込まれていて、机の上には新品の教科書が置かれていた。
アリージュは遠い田舎から来たみたいで、少しクウキさんと似ていた。
「入学式のナツメ様の魔法すごかったですね、わたし何もできなかったです」
荷物を整理していると入学式の話になる。
「あのようj……学園長の怖さはあんなもんじゃないわ……と思うわ」
(今幼女って言いかけなかった?気のせいかな?)
「なんか1パーセントも出してないみたいですよ、わたし達もあれくらい強くなれますかね?」
アリージュが顔を曇らせる。
「あれは無理よ。人間が出せる力ではないわ、ハルは人間辞めたいのかしら?」
(アリージュはナツメ様に恨みでも持っているのでしょうか?)
「そうですね、人間はやめたくないですね」
「そうよね」
アリージュは不思議な子だけど悪い人では無さそうなので、アリージュがルームメイトで良かったと思った。
(クウキさんが1番ですけど……)
次の日の朝アリージュとエリッタと校舎に向かいクラスを確認しに行く。
「アリージュとハルと同じクラスですわ、それにしても2人ともこの歳でこの序列はすごいですわ」
クラス表はA、B、C、Dクラスそれぞれ一枚ずつ計四枚掲示してあり、名前とギルド序列が載っていた。
アリージュの序列が2000位でわたしが2559位、約20万人登録してあるのを考えるとかなり高順位なのがわかる。
20万人のうちのほとんどが医者などの非戦闘職のスキル持ちなので冒険者になろうと修行し魔物討伐経験があれば50000位以内には入れるようになっているが、大した功績も持っていないにも関わらず序列4桁台に食い込めたのはマイヤ先生のおかげだろう。
「私たちのAクラスは人数が少ないのですね」
B〜Dクラスが30人ずつに対してAクラスが10人となっていた。
「はあぁ、ハルやアリージュのレベルについていける変わり者が30人もいるわけないですわ」
(エリッタ……あなたもAクラスですよ)
「そうですかね〜」
エリッタの冗談に苦笑いをしつつAクラスのクラス表を眺めているとルーアと知っている家名を見つけて少し嫌な気持ちになった。
「私のルームメイトのクウキさんの名前がありませんわ」
エリッタが自慢しているように聞こえて少し嫌な気持ちになった。
(どこにもないですね……)
「ギルドに登録してないからじゃ無いでしょうか、早くわたしのクウキさんに会いたいです」
(少しアピールしておきますか)
「もうクウキの話はいいでしょ、2人ともそろそろ教室に行くわよ」
クウキさんの話題を早々に切り上げられて、少し機嫌が悪いアリージュとクウキさんに会いたがっているエリッタと3人で教室に向かった。
(アリージュはクウキさんのことを知っているのでしょうか?)
教室に入ると机が二列で等間隔に並んでいてわたし3人以外はすでに集まっていた。
「ハルの隣ですわ」
机には名前が書いてありアリージュは後列の廊下側でわたしが後列の窓側になっていて、わたしの隣がエリッタの席になっていた。
「エリッタよろしくお願いします」
エリッタは王族であることを忘れるくらい親しみやすくて、楽しい学園生活が始まりそうな予感がする。
「皆さん揃っていますね」
エリッタと話していると担任の先生と思われる女性が教室に入って来た。
「私はAクラスの担任を任されました、フリアス・ユキリアといいます。3年間よろしくお願いします」
ナツメ様ほどでは無いが強い魔力を感じる、おそらくA級上位のアルデリア様と肩を並べるほどの実力者だろう。
「早速ですが皆さんにギルドカードを配ります。このカードは学生証にもなるので無くさないように毎日携帯しておいてください」
配られたギルドカードを見ると名前、職業、序列、の他にスキルと魔力量が記載されておりスキルの欄を指でなぞると使える魔法や戦技が表示されるようになっていた。
「新しい魔法や戦技を覚えたり、強い魔物を討伐したときなどはギルドや教会などに行ってカードを更新すると序列が上がったりスキルの欄に魔力や戦技が追加されるようになります。何か質問はありますか?」
生徒たちが自分のギルドカードに夢中になっている間ギルドカードを配られていないエリッタは暇そうにしていた。
「質問は無いですね。では、早速ですが今日から皆さんを指導していくにあたって皆さんの実力を見たいので、今から1人ずつ先生と闘ってもらいます。それぞれ武器を持って第3闘技場に移動してください」
初日の授業が教師との決闘と聞いて、Aクラスの生徒は驚くどころか目を輝かせていた。
(ユキリア先生はどれほど強いのか楽しみです)
そのときわたしたちは自分たちが弱いことに気がついていなかった。
「ルーアさん元聖剣の孫といっても、所詮はまだ子供ですね。これからしっかり修練して強くなりましょうね〜」
さっきまで輝いていた生徒の目が次々と死んでいくのにつれて先生の目が輝いていく。
模擬戦ではなく蹂躙と言ったほうがしっくりくる闘いぶりで、クラスメイトたちは名前が呼ばれるのを恐れている様子だった。
今敗北したルーアなんかは声が震えてスキルが発動出来ずに魔力を纏った拳でボコボコにされていた。
「次、アリージュさんお願いします」
ボロ雑巾になったルーアを捨ててアリージュに手招きをする。
「よろしくお願いするわ、せんせ」
他の生徒が怯える中アリージュは堂々と先生の前に立った。
「さすが序列2000位は違いますね、ではいきます」
最初に仕掛けたのはユキリア先生の方で、他の生徒のときと同様に魔力を纏った拳を突き出す。
(わたしよりも序列が高いアリージュならあの程度の攻撃は簡単にかわせそうですね……ん?)
わたしの予想を覆し先生の拳はアリージュの腹部に直撃した。
お腹を抑えながら膝から崩れ落ちるアリージュ。
(ん?)
「アリージュさんには期待していたのですが、あまり他の生徒と変わりませんね」
倒れ込むアリージュに容赦のない言葉をかけながら先生はわたしの方を見る。
「次のハルさんで最後ですね。剣聖様の娘さんですか、期待していますよ」
地に伏しているクラスメイトを見て先生に勝てないのは分かりきっているが、ただで負ける気もないので覚悟を決めて先生の前に出る。
「よろしくお願いします。魔力創造、セブンズソード」
わたしの周りに7本の長剣が現れ浮遊する。
「そんなに剣を出して魔力が勿体無いですね」
(マイア・マトローナを倒すために編み出した技。魔力を使い切る覚悟でいきます)
「いきます。上級長剣術、シュレッド」
7本にうちの1本を握り先生を殺すつもりで斬りかかる。
「鋭い殺意が宿ったとても良い目をしていますが、その戦技には残念です」
その言葉を最後にわたしの記憶は途絶えた。
「ハルさーん大丈夫ですか?」
(わたしは何をして……あっ……先生にやられてしまったのですね)
目を覚ますと地べたに仰向けになっていた。腹部の痛みで何をされたかはだいたい分かるが、先生の攻撃が全く見えなかった。
「これで全員終わりましたね」
倒れていたり、座り込んでいる生徒たちを先生が見下ろす。
「今年の生徒は鍛え甲斐がありそうで先生は嬉しいです。では最期に私自己紹介をしたいと思います」
ニヤリと笑う先生が入学式のときの学園長と重なった。
「麗風の子、エル・ウィング」
心地よい風が吹き先生の体が宙に浮いた。
飛行魔法を使えるスキル持ちはA級冒険者とS級冒険者の中にしかいない。
「序列28位フリアス・ユキリア、この学園で3番目に強い教師で、弱すぎる皆さんの担任の先生で、皆さんが超えるべき壁です」
(この学園では生徒を痛めつけることが流行っているのでしょうか……いつかやり返さないといけません)
「今日はもうヘトヘトだと思うので解散ということで、明日からは教室ではなくここに集合するようにお願いします。なお遅刻したら地獄を見ると思ってください以上」
そう言い残すと先生は倒れているわたしたちを残して、そのままどこかへ飛んで行ってしまった……
(この学園でわたしは相当な弱者なようです。クウキさんに会いたいです。クウキさん、あなたは今どこにいるのでしょうか……)
「キイナよ、クウキは今どこにいるのかのぅ、もう学園が始まっているんじゃが?」
入学式が終わって何日か経った頃、ナツメは一向に登校してこないクウキを探しに王都にあるキイナの屋敷に来ていた。
「そうよね〜。でもあの子ったら、修行から全然戻ってこないの。そろそろ戻ってきてもいいと思うのだけど……」
キイナも中々帰ってこないクウキのことを心配しているみたいだった。
「そろそろ登校しないと、学園に馴染むのが難しくなってしまうのぉ。それとキイナの提案で王女殿下と同じ部屋にしとるが、リィネのやつがクウキについて調べて初めておる」
エリッタの護衛をしているリィネ・アルデリアは姿を見せないクウキのことを不審に思い、入学試験の結果や出身地などのクウキの個人情報を探ろうとしている。
「エリッタ様の安全のための作戦だったのに、リィネちゃんに嗅ぎ回られたらクウキちゃんがかわいそうだわ」
以前ナツメから、基本的に護衛立ち入り禁止の学園において、王族を危険からどうやって守るか相談を受けたキイナは、「学園で1番強い人を近くに置くのがいいんじゃないかしら?」と言ったため、今回エリッタのルームメイトにクウキが選ばれた。
「あっ!噂をすればね、ナツメちゃん地下室に行くわよ」
「ん?なんじゃ?」
2人で頭を悩ませていると、キイナは悩みの原因が地下室に転移して来たのを感じて、状況が理解出来ていないナツメを連れ地下室に転移する。
「ただいまママ。はい、これお土産」
地下室には、ぼろぼろの服を着て、黒髪で黒い目をしたクウキが青い花をたくさん抱えて立っていた。
「修行は上手くいったみたいね、でもどうしてそんなにボロボロになっているのかしら?」
キイナがクウキの頭に軽く撫でる。
「ほんとうにクウキなのかのぅ?あのとき感じた魔力が今はなにも感じないのぅ」
ナツメが近づくと青い花が煙のように消えてなくなった。
「お久しぶりです。学園長クウキ・アニシスですよ?」
私の魔力が感じ取れない幼女はすごく驚いていた。
「これで学園に通ってもいいよね?ママ」
私の頭を撫でているママに上目遣いで聞いてみる。
「そうね、通ってもいいわよ。でもその前にお風呂に入りましょうか」
今すぐ学校に行こうとする私をママが手を掴んで静止する。
「とういうわけでナツメちゃん、明日から登校するってことでいいわよね?」
幼女は納得した表情で頷く。
「そうじゃのぅ、まずは風呂にって綺麗にするのがさきじゃのぅ」
幼女も私の手を掴む。
「束縛の断絶、転移」
ママの転移魔法でお風呂場に転移させられて、なぜか一緒に入って来た幼女とママにセクハラされながら体を洗われた。
学園長は私の胸の方が大きいのが気に入らないらしく必要以上に胸を触ってきたが、途中から胸に興味深々の子どもに見えてきて少し可愛かった。
お風呂から出ると幼女は明日の準備をすると言い、悔しそうな顔をして帰って行った。
ママとご飯を食べて、そのまま眠りにつき登校初日の朝を迎える。
「じゃあママ行ってきます」
新品の制服に身を包み、玄関でママに手を振る。
「問題を起こさないようにね。行ってらっしゃい」
まだ何かを心配しているママを背に学園に歩を進めた。
(学園ってどんな感じなんだろう。ハルと同じクラスだったらいいなぁ)
学園生活が楽しみすぎて妄想が膨らむなか、私は学園に通う真の目的を思い出した。
(将来のために頑張って剣聖候補を見つけないと!ハルがすごく強かったらいいなぁ)
学園の門に前につくと、一旦立ち止まって深呼吸をし期待をのせて未来への1歩目を踏み出s……
「あなたはクウキさんで間違いないだろうか?」
背後から声をかけられて1歩目を盛大に躓く。
「そ……そうですけど……」
振り返ると黒と金の剣を持った女性が立っていた。
(人生の初登校を邪魔しないで欲しかったよ……)
「少し時間を貰ってもいいだろうか?」
格好からして騎士の彼女からは強めの魔力を感じる。
「は……はい……」
断るのもめんどくさそうなので、少し話を聞くことにした。
(はぁ、いつになったらクラスメイトの顔が見れるのかなぁ)
(早くハルに会いたい……)
学園生活は始まる前から躓いた。
学園生活のスタート地点に立ちました




