おちたラジオ
高架沿いの道をあるく。
熱帯夜で朝はやくおきた時、ぼくはいつもそうしていた。
車も、自転車もない。たまにみつけるのは、同じような散歩客だけ。
「おはよう」
広場のようになった舗装路の、ベンチからあいさつがした。知らないおじさんだ。
ノイズまじりの音も聞こえる。
携帯ラジオだった。早朝のニュースが、スピーカーからながれている。
「おはようございます」
ぼくはあいさつを返した。街灯のしたで、おじさんのはげあがった頭や、ほそいからだ、ウエストポーチ、そばに置いたラジオが、鮮明に浮かびあがっていた。
(ぼくが持ってるのと同じやつだ)
バッテリー充電のできないタイプ。うしろがわにフタがあって、なかに単四電池を二本いれて使う。
電波受信のために、アンテナが長く、ななめに立てられていた。
「チャンネル、かえてみる?」
おじさんがラジオをすすめる。
「あ、いえ。いいです」
ぼくは片手を振って、「すみません」とつづけようとした。アンテナが、指にあたる。
ラジオが落ちた。
あわてて、ボクはしゃがみこんだ。
「ごめんねえ」
おじさんは、ばつがわるそうに腰をかがめた。
ポーン。
と午前五時をしらせる音声がする。
はずれたちいさなフタと、ひっくりかえったラジオを、ぼくはひろった。
なかに電池は、入っていなかった。
※このものがたりはフィクションです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
読んでくださったかた、感想をくださったかた、ありがとうございました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・以下の文章を修正しました。
旧→『ひとも、車もない。』
改→『車も、自転車もない。』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――