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98話 海イベント

 


 つっかれた~。疲れたよ~。へとへとだよ~。


 先生との会話が終わって、私は速攻別荘を出て、会長の別荘に向かった。歩いていけるから、車も待たずに即逃げ出した。


 別荘に着いて、舞と花音が泊ってる部屋でいっちゃんを見つけた時には、もうグダーってなった。


「いっちゃん……疲れた……」


 抱きつくようにいっちゃんに凭れ掛かる。さすがのいっちゃんもポンポンと背中を叩いてくれたよ。


「何々~? 葉月っち、何かあったの~?」

「舞~……疲れたよ~……」

「どしたどした~? ほれ、おいで~?」

「え~いい……舞、胸ないもん……」

「あるよ!? ちゃんとあるよ!?」

「いっちゃーん、少し休む……」

「……舞、そこのベッド使わせてもらっていいか?」

「もちろん、いいよ~。でもホントに疲れてるね。大丈夫なの?」

「……ああ。少し眠れ、葉月。どうせ昨日も寝れてないんだろ?」


 ……バレてる。でも、今なら少し寝れるかも。


 とりあえず近くにあったベッドにボフンと横たわった。

 あれ? なんか知ってる香り?

 まあ……いいや……。


「お昼になったら起こしてやる。安心して眠れ」

「んー……」


 先生と話したのは少しの時間なのに、本当にいつも疲れる。


 花音と離れるな?

 馬鹿言っちゃいけないよ、先生。

 花音は今、会長と順調に進んでるはずなんだよ。


 だから、いいんだよ。


 このまま、

 順調に会長と――――。


 スウッと意識が落ちていった。




 暖かな感触を感じる。


 何……?

 目を開けると、花音が頭を撫でながら、こちらを覗き込んでいた。


「花音……?」

「起こしちゃった? ごめん」

「……いっちゃんは?」

「お昼の支度してくれてる。ホントは葉月を呼びにきたんだけどね。あんまりにも気持ちよさそうに寝てるから、起こそうかどうか迷っちゃって」


 そう言って、花音が柔らかく微笑む。

 花音の手の感触が、暖かさが伝わってきて心地良い。


 ああ、なるほど……ここ、花音のベッドか……どうりで知ってる香りだと思った。


「葉月、疲れてる?」

「……んー」

「もう少し後に、葉月の分持ってこようか?」

「……ご飯なに~?」

「チャーハンだよ」


 チャーハンか。うーん……朝も碌に食べてないんだよね。花音のご飯じゃないから。

 あー……そういえば。


「花音~……?」

「ん?」

「体平気~……?」

「うん、もう元気だよ。心配させてごめんね」


 そっか、良かった……。


 モソモソと起き上がる。まだぼーっとする。でもお腹は空いた。


「……食べる」

「そう? 平気?」

「ん……」


 目を擦りながらベッドを降りた。ふわ~。ねむ~。でもちょっとは寝れたかな~。でもやっぱり疲れてるな~。あ~そうか。これは。


「昨日……抱えて泳いだからか~……」

「え?」

「ん~、何でもない」


 人1人を抱えながら泳ぐって結構疲れるんだな~……勿論、午前中の先生との会話の方が疲れるんだけどね~。


 訳が分からなそうな花音と一緒に、いっちゃんたちが待ってる食堂に向かってお昼を食べた。花音が作ったんだって。やっぱり花音のご飯は最高ですね~。


 ※※※


「いっちゃん……今からイベントなの~?」

「そうだ。お前、もう少し寝てきてもいいんだぞ?」


 花音のご飯食べたら、また眠くなってきた。いや、少し寝たんだけどね。いっちゃんが一応、今からイベント見に行くって一言声を掛けてくれて、起きたんだよ。ふわ~ってさっきから欠伸が止まらない。

 ちなみに舞は寮長たちと買い出し中。今日の夜に花火するんだって。


 それにしても眠い……。

 でも、いっちゃん。プルプルモードになったら動かなくなっちゃうじゃん。回収しなきゃいけないでしょ~……。


「大丈夫~……終わったら少し寝る……」

「そんな無理して付き合うことないんだが?」

「……いっちゃんの回収だから」

「どういう意味だ?」


 気づいてないの? 嘘でしょ?


 いっちゃんをジト目で見ると、心底不思議そうな顔で返された。ホントに気づいてないっぽい。私、入学式から結構回収してると思うんだけどな。まあ、いいけどさ。


「それで~……? どこに来るの~?」

「おい、さっきの目は何だ?」

「あれ~、花音たち来たよ~……」

「……後でちゃんと話せよ」


 私たちが岩場に隠れてると、花音と会長が砂浜にやってきた。花音が足元をキョロキョロしながら歩いてる。会長もそんな感じ。


「……やっぱりないですね」

「そんなに大事なモノだったのか?」

「妹たちからの誕生日プレゼントだったんですよ……」


 どうやら落とし物みたい。ガックリと肩を落としてるもん。あ~……もしかしてあれかな? 今年貰ったって言ってた髪飾り。落としちゃったのか、あれ。さすがにここに落としたんだったら見つからないな~。


「はぁ……妹たちには素直に謝ります。すいません、会長、付き合わせちゃって」

「……どんなのだ?」

「え?」

「だから、どんな形だ?」

「ああ、鳥の羽のヘアピンですよ。でも無理ですね。もしここで落としてたら見つかりませんよ。上着に入れっぱなしだった私のミスです」


 あーもしかして昨日着てたパーカー? ちょっと無理だな~……。


 ハァと溜め息をついて、会長が歩き始めた。うん? 下を向きながら? もしかして会長探してる?


「あの、会長? もういいですよ?」

「……お前が昨日荷物置いた場所どこだ?」

「だからいいんですって」

「お前、俺を誰だと思ってるんだ」


 え? おバカな会長としか思ってませんけど? 花音も面食らってるよ。


「はい?」

「さっさと教えろ」

「……ちょっと向こう側です……けど……」


 花音から場所を聞いて、さっさとその場所に向かう会長。花音も慌てて追いかけてる。え~会長、さすがに無理じゃないかな~。あれ、結構小さいよ?


「あの、会長……! 本当にいいですから……!」


 ザッザッと足で砂をどけながら、花音の声を無視して会長は探していく。花音はそんな会長に「大丈夫ですってば」って言いながら止めていたけど。ちって舌打ちして、何かを少し考え込んでから、花音にやっと振り向いた。


「……お前、昨日小鳥遊が釣りしてるところに行ってたよな?」

「え? まぁ、はい……」


 そだね~。時々様子見てきてくれてたね~。あ~そういえば、花音はその時に上着着てたね~。


 会長は花音の返答を聞いてから、昨日私が釣りしていたところまでの砂をまた足でザッザッと避けながら進んでいく。


 そんな雑にやって見つかるわけないでしょ~。見つかったら奇跡でしょ~。


 花音はもう諦めた顔してるよ。これはあれかな? もうこうなったら好きにさせようかなって顔かな?


「会長、本当にいいですから……皆のところに戻りましょう?」


 会長はまたも花音を無視して、ちょっとずつ進んでいってた。ハァとまた溜め息をつこうとしてた花音の前で、急に会長が足を止める。お? どうした?


「会長?」


 会長がゆっくり膝をついて、手で砂を払い始める。いやいや。いやいやいや。そんな馬鹿な……そんな奇跡みたいなことが……。


 そしてゆっくりと立ち上がって、花音に向き直ってから手を差し出してきた。花音が首を傾げて「えっ?」と驚いて口に手を当てている。うっそ~……嘘でしょ? そんな馬鹿な~。


「嘘……?」

「……違うか?」

「これ……です」


 えええええ???? んな馬鹿な!! この砂浜で!? あんな雑な探し方で!? 何これ、こんなことあり得るの!?


 はっ! いっちゃん! って駄目だ! 鑑賞モードに入ってた! いや、待て。落ち着こう、私。うん。


 確か前にいっちゃんが言ってたはず。ゲームではご都合主義っていうのが起こるって!


 これがそうか! つまり、ゲームではこういう展開だったわけね! これ、ゲーム通りってわけだね! そういうことにしとこう! ここ、現実ですけどってツッコミはよそう! なるほど! ご都合主義って、便利! 奇跡!


 そして、この展開が有りえなさ過ぎて、ちょっと眠気吹っ飛んだよ!


「ほら」


 会長が徐に花音の手にヘアピンを渡し、花音はちょっと茫然としてそれを受け取っていた。


「ありがとう……ございます……」

「あんまり嬉しそうじゃないな?」

「いえ……もう諦めていたので……まさか見つかるなんて……」

「じゃあ笑え」

「……はい?」

「嬉しいなら笑え」


 花音がポカンとしてるよ。会長も「あれ?」っていう顔してるけど。


「会長……あなたって……」

「……何だ?」


 あれ、おかしいなって顔してるよ、会長。今更だけどさ。最初の俺様キャラどこいったの?


 なんて違うこと思ってたら、花音が「ぷっ! ふふっ!」ていきなり吹き出した。


「ふふっ……! あははっ……!」

「何がおかしい……」


 いや、あなたの言うとおり、笑ってるだけなんですけどね。何故に予想外みたいな反応なのさ。


「ごめ……なさっ……! ふふっ……!」

「……」

「だって……会長……本当に……」


 笑って込み上げてきた涙を指で拭いながら、花音が会長を見上げている。



「本当に、不器用ですね」



 会長が息を吞んだのがわかった。あ、これ。花音に見惚れてるな。


 花音はまだ笑っている。

 ちょっと頬を染めて、会長は花音を眩しそうに見てる。


「はぁ……ありがとうございます。これで妹たちに謝らなくてすみますね」

「……何でこうなる」

「はい?」

「ちっ……本当に上手くいかない」

「何ですか?」

「……もういい。戻るぞ。そろそろあいつらも戻ってくるだろ」

「あ、はい」


 会長がさっさと花音を置いていこうとして「ちょ……何でいきなり不機嫌になってるんですか?」って言いながら、慌てて追いかけていった。


 いや、今回のイベント凄かったね。これがご都合主義かって勉強になりましたよ。



 そういえば、


 花音があんな屈託なく笑ってるところ、初めて見たかも。


 いつも穏やかに笑ってるか、苦笑してるか怖いかだもんね。



 ――あれ?


 またモヤッとするな。


 ホント、何なんだろこれ。



 ま、いいか。



 気にしなくていいか。



 だって、花音が笑ってるから。



 いいか。




 やっぱりプルプルモードになったいっちゃんを連れて、私たちも別荘に戻った。


お読み下さり、ありがとうございます。

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