90話 遊園地イベント
さてさてお腹も膨れて、機嫌は直りましたよ。花音のはちみつ漬けの梅干しおいしかった~。あれ、おやつにもなるんだよね~。またも~らおっと。
忘れているかもしれないけど、今日は乙女ゲームのイベント日。どんなイベントなのかはいっちゃんに聞いてない。でも、今日は遊園地だよ? 私的にはイベントより遊んでいたいんだけどな~。
舞を連れて、また絶叫系行くかな~と思ったら、舞がダウンした。
「舞~? 次いこ~?」
「いや……いやいや、葉月っち……ちょっと休ませて? さっきご飯食べたばかりで絶叫系3連発はきついんだけど?」
え~? そう?
「少し休んでろ。お前がここまで駄目だとは思わなかったな」
「あたし、こう見えても繊細なんで……」
「どこが~?」
「どういう意味かな!? って――う――タンマ……」
顔を青白くさせてるよ。本当に駄目そう。
「飲み物買ってきてやるから、ちょっとここで休んでろ」
「ごめん……一花……」
「いくぞ、葉月」
え? いっちゃん、舞を置いていくの?
いっちゃんがさっさと行ってしまったので、舞に一言言って追いかけた。
ん、あれ? いっちゃん? 飲み物買うんじゃないの? こっちに売店ないんだけど? 見ると、ここは迷路?
あれ、会長たちじゃん。会長たちとはまた別行動なんだよね。
「いっちゃん、もしかしてイベント?」
「そうだ。ここで会長と花音がペアになる……はず……」
自信ないの?
「いっちゃん、舞が待ってるよ?」
「ちょっとは空気に当たった方がいい。それにこれが終わったらすぐ戻る。問題ない」
いっちゃんの優先順位はイベントなんだね。舞、ごめん。私は止められないよ。ちょっとだけ休んで待っててね。
「それでどうするの?」
「あたしらも入るしかないな」
ということで、やってきましたラビリンス。あっスタンプラリー形式だ。スタンプラリーといえばレクリエーション思い出すね。あの時は一個もスタンプついてないけどね!
いっちゃんと一緒に入って花音たちを追いかける。いっちゃんがゲームの知識で場所は把握しているらしい。何人かのペアを追い抜いていくと、会長たちの声がしてきた。
「会長……? これ合ってます?」
花音の声だ。
「合ってるだろ、多分」
うん、良かったね、いっちゃん。ちゃんと花音と会長のイベントだよ。あ、安定の鑑賞モードになってるね。
2人から気づかれないように、私もソッと覗いてみる。一応地図みたいなもの持ってるみたい。受付で貰ったもんね。
そういえば、ここのラビリンスは結構有名らしいよ、入ったら出られないって。そういう時はリタイアが出来るらしいけど、その時用にボタンみたいなのも渡された。
「会長。さっきのところ、やっぱり右だったんじゃないですか?」
「……大丈夫だから、ついてこい」
「はぁ……一回あの場所まで戻ることを勧めます」
「大丈夫だって言ってるだろ。言う事聞け。俺を誰だと思ってる」
「今はただの方向音痴の人ですよ。何でそこで意地を張るんですか。戻りましょう」
花音強し。肩を竦めて、あの会長をあしらっている。会長の腕の服を掴んで引っ張ってるもん。
「あれ? こっちからきたんだっけ?」
「はー……ほら見ろ。お前だって迷ってるじゃねえか」
「会長には言われたくありませんよ」
「そもそも方向音痴だとはお前に言われたくないな。入学式の時に迷ってたのはどこのどいつだ」
「あれは!……その……確かに迷ってましたけど」
シュンッとする花音。ちょっと可愛い。あれ? 何かちょっと会長がオロオロしてるような……。
「あ、あー……その……言い過ぎた……か……?」
それを聞いて花音がきょとんとしていた。え、どしたの、会長? 何か変なの食べた? いや、花音の甘辛きんぴらごぼう食べてたよね。好物なんでしょ?
「……何だ?」
「いえ……いきなりどうしたんですか?」
「は?」
「だって、ちょっと素直になってるから」
「……何なんだ、お前は。落ち込んだり怒ったり驚いたり……」
「はい?」
「……調子が狂う」
「はあ……」
よく分からない顔してるね、花音。すいません、私も分かりません。
「どうしたらいいのか分からん。小鳥遊より、お前のほうが厄介だ」
「……そう言われても」
「お前にとっての正しい俺が分からない。面倒だ……本当に……」
「すいませんが、意味がちょっと……?」
花音にとっての正しい会長?
花音にとっての……?
花音に……とっての……?
「お前……俺にどういう風にしてほしいんだ……?」
会長が、少し辛そうにしてる。
花音はただ黙って会長を見てた。
「私がこうしてほしいと言ったら、会長はそうするんですか……?」
花音の言葉が静かに響いて、今度は会長が黙ってしまった。
「私は別に会長にこういう風になってほしいとか、要求するものはありませんよ?」
「……」
「まあ……自信過剰なところは直してほしいですけどね?」
花音が苦笑して、一歩会長に近づいた。
「何をそんなに恐れているのか分かりませんけど……」
ビクッと会長の肩が動いた。
「どんな会長でも会長であることに変わりありません」
花音が手を伸ばして、会長の頬にそっと触れる。
「だから、そんな辛そうにしなくて大丈夫ですよ?」
柔らかい微笑みで、会長を縛り付ける。
「会長が不器用だってことはもう知っていますから」
会長はしばらく黙って、花音を見ていた。
「……誰が不器用だ」
花音の手を取って、そのまま歩き出す。
「ちょっ……会長?! そっちは……!」
「黙ってついてこい。さっさと脱出するぞ」
「いや、ちゃんと地図確認しましょう!? それと手! 離してください!」
「うるさい。さっさと歩け」
「だからっ! そういうところを直してほしいんですってば!」
会長と花音が遠ざかってく。
いっちゃんはもうプルプルモードに入っていた。
胸に手を置く。
モヤモヤする。
これなんだろ?
おかしいな……。
コーヒー飲めばスッキリするかな……。
おかしいな……。
ああ。
違う。
私はもうおかしくなってたんだった。
だから、
これが正常だ。
プルプルモードのいっちゃんを連れて舞のところに戻ったら、舞はまだグッタリしていた。
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