89話 遊園地でのお昼ご飯
「葉月、そんなに膨れないで?」
「むー」
「さっさと食べろ。仕方ないだろ」
「むー!」
「ほら、葉月っち。あーん」
「むー!!」
絶賛、私は不機嫌中です。だって、あの後、あのタワーが急遽午後から整備することになって、もう乗れなくなっちゃったんだもん! なんでも鳥がぶつかってきちゃったんだって! 何やってるの、鳥さん!!
生徒会メンバーは呆れてる。そして、久しぶりのツンデレ先輩は私を見てビクついてた。もうツンデレ要素全然ないから、ビクつき先輩でいいよね?
「今日は葉月が好きな甘めの卵焼きにしたんだけどな?」
え、そうなの? 食べる。
花音に向けてあーんと口を開けたら、花音がクスクス笑って私の口に卵焼きを運んでくれた。んーんまし。
「葉月、自分で食べろ。花音に甘えるな」
「ひっふぁん。ほれおいひい」
「食べながら喋るな」
「くっ……葉月っちの餌付けは、やはり花音には敵わないか……」
「お前は何のライバル意識を持ってるんだ?」
「しかし! あたしには一花がいる! ほら、一花。あーん?」
「誰がするか!?」
舞がなんだか最近レイラに影響受けて、残念令嬢になってる気がする。そんな私たちを見て、会長を筆頭に生徒会メンバーが心底疲れた顔をしていた。
「お前ら……いつもこんな感じなのか?」
私が次のおかずを花音にあーんして食べさせてもらってると、会長が呆れきっていた。そうだよ? はっ?! もしかして会長……。
「会長、羨ましいの?」
「は? 何で俺が?」
「花音に食べさせて貰いたいのかと」
「はあっ!?」
生徒会メンバーが1人がゴフっと喉に何かを引っ掛けて、1人はジュースをブフォって噴き出して、他の2人もかなり咳き込んでいた。みなさん、大丈夫?
いっちゃんが余計なコト言うなよって目で見たけどさ、なんか会長に悪いかなって思って。さっきから花音を独り占めしてるもんね。
「会長、あーんして~」
「誰がするか!?」
「花音~会長に食べさせてあげて~」
「えーと、葉月? 会長はそんなこと思ってないと思うよ?」
そうなの? 羨ましいのかと思った。
また口をあーんと開けると、花音が「仕方ないなぁ」って言いながらご飯を運んでくれる。モグモグして会長を見ると、あれ? 特に何も思ってない感じ?
「会長、羨ましい?」
「全っ然羨ましくないが。よくそんな恥ずかしいマネできると、不思議に思ってるだけだ。ガキか」
ほう、会長。それはあれかな? 喧嘩を売ってるのかな? いいよ、買ってあげるよ! なんたって、私は今、不機嫌だからね! ご飯でちょっと薄れたけど!
「会長の方が余程恥ずかしいと思うよ?」
「おい、葉月。やめろ」
いっちゃんが不穏な空気を察して止めに入る。でも会長が悪いんだもん。私、悪くないよ?
「……俺の何が恥ずかしいって?」
「恥ずかしいよ。本当は羨ましいくせに、そうやって貶すところが。子供の方が素直で大人だよね~」
「だから俺は羨ましくなんか――」
「じゃあ、どうして突っかかってきたの~?」
「はぁ……小鳥遊さん、鳳凰君も。こんなところでやめなさい」
「寮長、私は事実しか言ってないよ?」
「おい、東海林、止めるな。小鳥遊、俺はこれっぽっちも羨ましいなんて思ってない。ただ、お前がガキと同じ行動をとってるから、ちょっとは成長しやがれって意味で言ったんだ」
「どっちがガキなのかな~? 食べさせてほしいのにほしいって言えない、捻くれてる方がガキだと思うんだけどな~?」
「――んだと……お前の方が鴻城の家の名前で好き勝手やるガキじゃねえか」
カッチーン。
今のはアウトなんですけど?
「おい、葉月やめろ」
「鳳凰君もそこまでよ」
いっちゃんと寮長が止めに入るけど、私は頭にきたもんね。
立ち上がろうと思って腰を浮かせた時に、溜め息をついて花音が私の腕を掴んできた。ん?
「葉月、やめて。会長もそれ以上はやめてください。せっかく遊園地にきたのに台無しですよ?」
「――はあ? そいつが喧嘩売ってきたんだろうが」
「売ったのは会長じゃん。今、家は関係ないじゃん」
「お前が好き勝手やってるのは事実だろ? 魁人さんから、散々お前のことを聞かれる俺の身にもなりやがれ」
「そんなの知らないよ。嫌なら無視すれば~? あ~出来ないよね~? 鳳凰は如月から援助受けてるもんね~? なんなら鴻城の名前も貸してあげようか?」
「――んだとっ!」
お互いにバチバチとしてると、花音がまた大きく溜め息をついていた。
「葉月……はい、これ食べて」
花音? 今、会長とバトってる最中だから、後にしてほしいんだけど?
「葉月の好きな一口サイズのはちみつ漬けの梅干しだよ。はい、あーんして?」
え、いつのまに? この前まだ先だって言ってたのに。食べる。
あ~んして口に入れる。んま~。これ好き~。モグモグ。
私がモグモグしてると、今度は花音が会長の所に行って、別の容器から何か取り出していた。
「はい、会長も口開けてください?」
「は? 何言ってやがっ――んぐ!?」
花音が無理やり口開けさせて、強引に何かを食べさせた。
「会長の好きな甘辛のきんぴらごぼうです。2人とも、これでもう喧嘩は終わりですよ?」
モゴモゴさせている会長と私。皆がシーンとしてる中で、肩を竦めて隣の席に戻ってきた花音は、自分のお弁当に箸をつけ始めた。
「花音~もっと~」
「はいはい」
「んま~」
いっちゃんと寮長と舞が尊敬の眼差しで花音を見ている。
「花音のスキルが上がってないか?」
「そうね、鳳凰君をあそこまで見事に静かにさせるとは……」
「2人はもう花音のご飯には逆らえないね……というか、好きな食べ物と嫌いな食べ物、全部把握してない?」
「それは、あたしらにも言えるぞ、舞」
「そうだね、一花……」
「それを言うなら私たちもよ。いつの間にか全部把握されてるわ……」
「それって――」
「つまり――」
「そうね――」
「「「誰ももう逆らえない……」」」
花音がこの中で最強になりましたとさ。
お読み下さり、ありがとうございます。