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88話 ルームメイトの夢中なモノ —花音Side※

 


「じゃあ、小鳥遊たちもここに来ているの?」

「はい、そうらしいです。舞が父親にチケット貰ったみたいで」


 月見里(やまなし)先輩が目を丸くしながら聞いてきた。


 私たちが今いるのは、会長が計画してくれた遊園地。もちろん、生徒会メンバーが皆来ている。それにしても、私以外が美形揃いだから目立つなぁ。


 帰省から帰ってきて、葉月と一花ちゃんと舞に遊園地に遊びにいこうって誘われた。生徒会で行くことになっていたって言ったら、舞が驚いていたんだよね。言ってなかったから仕方ないけど。


 というわけで、今日は皆もこの遊園地に来ている。私は先に出てきちゃったけどね。ハアと隣の東海林先輩が何故か胃を擦っていた。


「どうしたんですか、東海林先輩?」

「小鳥遊さんがいるのよ? 何か仕出かさないか心配で……」

「大丈夫ですよ。何かしたらその分玉ねぎ食べさせてほしいって、舞と一花ちゃんに言われていますから」


 あ、途端に安心している。ちなみに何か一つやるごとに玉ねぎ一玉だよ? って言ったら、葉月がものすごくショックな顔をしていた。可愛いって思ってしまったけど、仕方ないよね? 口をパカって開けてるんだもの。


 まあ、これでこの遊園地で危ないことはしないでしょう。ジェットコースターとかでシートベルト外すとかやりそうだものね、葉月は。


 東海林先輩を安心させていたら、後ろで「おい」と会長に話しかけられる。


「何ですか?」

「ハア、それいくつか渡せ。1人で持つな」


 意外。まさか荷物持ちを引き受けるなんて。ちなみに私が持っているのは生徒会メンバーのお昼のお弁当。いくつか小分けにしてはいるけど、6人分だから結構な量なんだよね。


 会長は私が渡す前にヒョイッと持ってくれた。ありがたいです。


「ありがとうございます」

「ふん……」

「僕たちこそ、ありがとうだよ。桜沢のお弁当は美味しいからね」

「(コクコクコクコク)」


 ああ、月見里先輩と阿比留先輩が会長のフォローに回っている。会長って本当に素直じゃないなぁ。その会長から九十九先輩も荷物を少し渡して貰って持っていた。


「ま、荷物は男に持たせるのが一番よ」

「そうですね。任せましょう」


 東海林先輩の一言に思わず笑ってしまうと、会長が訝し気な様子で東海林先輩を見ていた。あの、会長? 何を思っているかバレますよ? あ、東海林先輩が気づいちゃった。……殴られているのは見なかったことにしよう。


 ああ、そうだ。


「東海林先輩、お昼に葉月たちも一緒にいいですか?」

「え? ああ、まあそうね。別にいいけど……鳳凰君、小鳥遊さんと喧嘩しないようにね?」

「なんで俺なんだよ。あいつに言え」

「聞かないからに決まっているじゃない。せめて喧嘩は売らないように」

「あいつの方が売ってくるんだがな?」


 本当、会長と葉月は相性悪いみたい。葉月の方が確かに色々会長にしているものね。……からかってるだけだと思うけど。


 ハアと九十九先輩が荷物を片手で持ちながら、トレードマークの眼鏡を直していた。


「それより、折角来たんですから乗らなくていいんですか?」

「あれ、綜一? もしかして今日の遊園地楽しみにしてた?」

「なな何を言い出すんですか、怜斗さん!?」


 月見里先輩が悪戯っぽい笑顔で九十九先輩を責めている。九十九先輩、遊園地とか好きだったんだなぁ。これも意外かも。あ、でも阿比留先輩も目を逸らしているから彼も楽しみにしていたっぽい。


 その様子が微笑ましくて、つい笑って先輩たちを促したら、率先して九十九先輩と阿比留先輩が動き出した。……分かりやすい。


 それから皆で楽しくワイワイと色んな乗り物に乗った。


 会長、意外と楽しんでますね。ジェットコースターであんなに叫ぶとは思っていませんでしたよ?



 □ □ □



 お昼になって、舞に連絡を取ったら、葉月と一花ちゃんがまだ戻ってこないらしい。先輩たちには先に食べてていいですよって伝えて、迎えに行くことにした。それにしても、何の乗り物に乗っているんだろう?


 あ、舞を発見。


「舞」

「あ、花音。葉月っち達、まだなんだよね」

「どれに乗っているの?」

「ほら、あれ」


 舞が指差したのは大きいタワー。上から急降下する絶叫系。うん、葉月好きそう。


「じゃあとりあえず、あそこまで行ってみようか」

「そうだね。でもまだあれ乗ってるかな~?」

「でも連絡つかないんでしょ?」


 舞から何度電話しても繋がらないらしいし、いるんじゃないかな?


 ということで舞と一緒にそのタワーの近くまで行ってみると、案の定2人はそこにいた。なんで一花ちゃん、葉月をグルグルとロープで縛っているんだろう? 何か言い合っているし。


「えっと……何してるの、2人とも?」


 舞と一緒に傍に行って声を掛けたら、2人がこっちを見てくる。やっと気づいたみたい。


「一花たちが全然戻ってこないからさ。もしかして、あれからずっとこれに乗ってたの?」

「いや、そうなんだ……何故かこいつがこれをいやに気に入ってな……」

「いっちゃん! これもう一回!」

「やかましい! 少し休ませろ!」

「葉月っち。花音がお昼一緒に食べようって。生徒会メンバーの人たちも待ってくれてるんだってさ。だから一旦休憩ね」

「いらない。あれ乗る」

「えっ? 葉月っちが花音のご飯を断った?」


 思わず目を丸くさせちゃった。葉月がご飯を優先させないなんて。


 その本人は私たちなんて目もくれない感じで、またタワーを見上げていた。目が輝いてる気がする。


 でも葉月、朝食、軽くしか食べてないんだよ? しゃがんで、タワーを見上げ続ける葉月の頭をそっと撫でてあげる。


「葉月? ご飯は食べなきゃだめだよ」

「後でいい。もう一回乗る」


 即答なんて珍しい。そんなにこれが気に入ったのかな。


「そんなにこれが楽しかったの?」

「うん! 花音、これね! 楽しい!」


 うん、本当に楽しそう。今日一番の笑顔だもん。一花ちゃんは疲れ切っているけど。


「だからって、もう6回乗ったんだぞ。さすがにあたしも疲れた。休ませろ」


 そんなに乗ったんだ?


「いっちゃん、じゃあ1人で乗る!」

「そんな興奮状態のお前を1人に出来るか!?」

「私、今日これだけでいいよ! いっちゃん!」

「……お前……何がそんなに気に入ったんだ?」


 無邪気な笑顔で目をキラキラさせている葉月。あ、可愛い。……じゃなくて。



「空がね! 見えるんだよ!」


「「はっ?」」



 一花ちゃんと舞の呆けた声が揃っちゃった。

 でも、空……か。


「落ちてるときにね! 空が見えるんだよ!」

「ごめん、一花……さっぱり分からないんだけど」

「すまん、舞。こいつとは付き合いが長いが、あたしもさっぱりだ」


 そっかぁ。葉月、空が好きだもんね。

 思わずクスっと笑ってしまった。


「そっか。空が見えたんだ」

「そうだよ? だからね、もう一回!」

「でもね、葉月。ご飯は食べなきゃ駄目。一緒に食べよ、ね?」

「花音。ご飯は後で食べるよ? ちゃんと食べるよ? けど、それより今はこっちがいい」

「だーめ。ちゃんと食べないと倒れちゃうよ。食べ終わったら、また乗ればいいよね?」

「いらない。後で食べる」

「葉月が食べないと、皆も食べないでお腹空かせちゃうよ?」

「皆は食べればいい。私はあれに乗る」



 また葉月はタワーを見上げる。



 目を逸らさないように、


 ジッと見上げている。


 うーん、これはまいったなぁ。きっと玉ねぎ食べさせるよって言っても、この調子だといいよって言うだろうなぁ。これは実力行使しかないんじゃないかな。


「余程気に入ったんだね。ちょっと私には無理かな、一花ちゃん。多分玉ねぎも効果ないと思う」


 一花ちゃんの方を見上げると、呆れたように溜め息ついて葉月を見下ろしていた。こういう実力行使は一花ちゃんだからね、やっぱり。


 結局、葉月を縛り上げたロープを引き摺っていくことになっちゃった。


 かなり葉月は抵抗しているけど、一花ちゃんが構わず引っ張っている。本当にこれが気に入ったんだなぁ。お腹が膨れれば少しは機嫌も直るんじゃないかな? それに、食べてからまた乗ればいいよね?


 そう思っていたけど、そのタワーは点検整備を急遽行うことになって、その日はもう乗れないことになってしまった。何でも鳥がぶつかってしまったんだとか。


 葉月、そんなに機嫌悪くしないで? 今日じゃなくてもまた来ればいいんだから。



 機嫌が悪い葉月に、無理やり葉月の好きな甘い卵焼きを食べさせたら、少し機嫌が直ったみたい。あと、はちみつ漬けの梅干しもね。良かった、今日持ってきておいて。会長と喧嘩始めちゃったからどうしようかと思ったけど、会長の好きなきんぴらごぼうも作ってきておいて良かった。


 あの、東海林先輩? 舞に一花ちゃんも? どうしてそんな拍手して、そして3人でガックリ肩を落としているの? 皆で食べましょうよ。


お読み下さり、ありがとうございます。

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